92話
「……ハァ、ゴメンね伯父さん。あの研究所の人達にも言ったけど、こんな言い分は八つ当たりでしかない。だから、責めたりはしないよ。そもそも、僕が父さんと母さんと兄さんを大切に思うように、伯父さんにだって大事な家族が居るんだから、つまんない情報漏洩なんかでクビになるワケにもいかないだろうからね」
言いながら、さっきっからズキズキズキズキズキズキズキズキと痛み続ける頭痛を無視して、ついでに言い訳も弁明も懇願も命乞いも謝罪も何一つ口に出さずにいる伯父さんの強面も無視で、にへらっと笑顔を作る。
せめて笑う努力だけでもしないと、抑えが利かなくなりそうだったから。
「ああでも、伯父さんが着任したって言う任務的なのには協力する気は無いから、取り敢えず今日のトコロはお連れさん達と一緒に帰って貰って――」
「辰巳、伯父さんの家に来ないか」
「――……はい?」
……何言ってんの、このヒト?
え~っと、つまりアレか? 父さんも母さんも兄さんも失って独りぼっちになっちゃった哀れな僕を、慈悲深い伯父さんが引き取って下さると?
アハッ♪
それはそれはおありがたいコトですな~☆
「……あのさ、伯父さん『事のあらまし』とやらを聞いたんだよね? なら、僕が何しようとしてるかも分かるよね? それともハッキリ言った方が良いの?」
強張る表情筋を無理矢理笑顔に固定しながら、語調にNoを滲ませる。
当たり前だ。
コッチは一分一秒を父さんと母さんと兄さんの復活に費やしたいって言うのに、ソレを邪魔しに来るだけじゃ飽き足らず、それ以上の干渉を申し出てくるとか。
うん、ナメてんの?
コレは、やっぱり実演してみせた方が良いかな?
さっきはただ首チョンパしただけにしか見えなかっただろうし。
「ああ、もしかして、聞いただけじゃ信じられなかった? まあ、僕も伯父さんの立場なら信じられなかっただろうから、責める気は無いけどさ。んじゃ、まあ、実演してみせようか」
ってなワケで――指パッチンからの~、げーとおーぷん。
途端に、ゴトンとライフル御登場な重い金属音に続けて、ゴンボサボサンと乾いた落下音に微かだけど僕や伯父さん以外の第三者の体臭が漂ってくる。
今呼び出したのは、この部屋へスコープ越しに銃口を向けてる連中の内の一人なんだけど、今回も一つだけ干渉を加えておりませう。
さっき開いた時は門の展開位置に干渉したワケだけど、今回は別のトコに干渉しましたです。
なんせ、伯父さんが来る前に放ったソナーで狙撃位置に着こうとしてた連中が居たのは分かってたし、ソイツらがソナーの魔力を吸いこんでくれたおかげで探知用の魔力が体内に残留してて捕捉は楽勝だったから、ワザワザ展開位置を弄る必要無いしね。
まあ、空気中に拡散した分と魔法が使える連中が吸い込んだ分の魔力は消えちゃってるから、この辺に展開してる連中全員の現在位置を探りたかったら、もっかいソナーしないとだけど。
てなワケで、今回主観干渉したのは門の通過制限に関してだね。
本来、展開した門は何でもかんでも通り抜けし放題なんだけれど、ソレを主観干渉にて『水分子の通過不可』って設定を盛り込んだ上で、スナイパーさんの足元に展開した。
となると当然、自由落下で門に落ちちゃうワケで、その結果招かれたのは全細胞から水分を全部抜かれて即死状態なミイラさんでした。
尤も、覆面ヘルメットグローブ戦闘服装備な所為で肌の露出が殆ど無いから、パッと見だと死んでるのかどうか分かり難いけど。
「さてさて、ココに取り出しますはお外から銃口向けてきてた不埒者の干物ちゃんでありますが、ソレ――っと、一つ指を鳴らせばご覧の通り」
言いながら、パチンと指を鳴らしつつ主観干渉を一発。
標的は勿論、カラカラのままライフルを抱えて床に転がってる特殊部隊員さんが『ミイラになってる』って現状で、干渉力には魔力強化指パッチンが『パッチン』分以外の余剰エネルギーを使用。
さて、そうやってなんでもありな不思議パワーでミイラ状態が否定だか拒否だか拒絶だかされるとどうなるか。
答えはすぐに分かって貰えるだろうね。
「――――っぷぁは!??!!!」
なんて、奇声を上げながら息を吹き返した特殊部隊員さんは、そのまま床に突っ伏して息を荒げるだけで動く気配が無い。
いやはやまったく、弛んでるなあ。
たかが一度死んだ程度で行動不能とか、そんなんで一体全体どうやって魔物共と戦う気なのか――いや、戦う気なんて最初から無いのか?
特理の連中にとって魔物なんか研究サンプル――つまりは物扱いだ。
あの研究所でのデブの発言とか、地下に蓄えられて管理されてた下の下魔物共を見れば、そんなのは僕みたいなチューガクセーにだって分かる。
なら、特理の人間には魔法アリの対人戦経験はあっても、対魔物戦の経験なんて無いに等しいんじゃなかろーか?
魔王が入場制限してた所為で、人間界に於ける魔物の絶対数もレッドデータ並だろうし。
そもそも、魔臓器さえ機能してれば手足だろうが胴だろうが脳ミソだろうが即時再生させられる魔物相手に、細々とした風穴を量産するだけの銃火器で遊びに来てるって時点でやる気感じないし。
「じゃじゃ~ん、あら不思議☆ 即身仏が救世主様に早変わりだ。アハッ、宗教をアッチコッチと忙しない人だね~。ねえ、伯父さん」
ゴツいブーツで立ち上がろうとする土足厳禁な和の心を解さない救世主様に、指パッチンと真下にポッカリと口を開けた門をプレゼントしつつ伯父さんに向き直ると、唐突に現れた復活ミイラ特殊部隊員さんが気になるのか、元居たビルの屋上へと落ちてった彼を見送ってた。
ま、ソレも目だけで、伯父さんの視線を辿って床に展開されてもう閉まる直前な状態だった門の残滓から視線を切ると、コチラを真っすぐ見据える伯父さんとバッチリ目が合った。
「で、コレで分かって貰えたと思うケド、僕には死人を蘇らせる力がある。今、ソレを使って父さんと母さんを起こす真っ最中で、ゆくゆくは死ぬどころか肉体すら残って無い兄さんをも呼び戻そうと思ってるんだ~。だ・か・ら、邪魔しないでさっさと帰ってくれないかな?」
目の前で人殺しをした上に、ソレを瞬時に生き返らせて見せた。
こんなトンデモシーンをご鑑賞頂ければ、これ以上下らない世迷言なんて出てこないと思ったんだけど、伯父さんはなんだかまだ物言いたげ。
はぁ、もう帰ってくれないかな……?




