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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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91話

「た、辰巳。お前――」


「あ、そうだ! 二つだけ、伯父さんからどうしても聞きたいコトがあったんだ~」


 何かしら口に出そうとしたトコを遮って、コッチの疑問を一方的にぶつける。

 あくまで、この場の主導権は僕にありますよ~ってアピールだね。


 ま、さっきの惨状を見て顔面蒼白ちゃんな相手には必要無かったかもだけど。


「さっき『一昨日着任した』って言ってたけど、伯父さんって元々特理の人だったの? それとも、前聞いた通りの警察官で命令されて仕方なく協力させられてるだけなの?」


 なんて質問に、伯父さんはすぐさま閉口して迷うように視線を逸らした。


 うん、まあ、Yes or Noで答えられない質問した僕が悪いね。

 言い直そう。


「聞き方間違えたね。言い直すから五秒以内に答えてね。『伯父さんは特理の人?』さあ、いえすおあのー?」


 今度は首を振るだけで簡単に答えられる上に時間制限まで付けたワケだけど、実はもう答えは分かってたりする。


「……………………」


 あらら、結局答えてくれずじまいか……

 ま、伯父さんの様子から察するに『言わない』んじゃなくて『言えない』ってカンジに見えるから、多分予想通りかな。


 とは言え、ソレも十中八九。

 つまりは、一か二かで外れてるかもだから、一応確認しようか。


「……はぁ、悲しいな~、折角聞いたのに答えてくれないだなんて。でもまあ、この質問に答えられないってコトは、伯父さんの所属は秘密にしなきゃいけないってワケだよね。となると、別に隠す必要の無いケーサツは除外されるワケだから、必然的に特理の人ってコトだ。違うかな? って聞いても答えられないよね、ゴメンゴメン」


 肩を竦めながらチューガクセーの拙い推理を披露してみせると、伯父さんは厳つい顔を更に強張らせて黙り込んでる。


 うん、図星だねコレは。

 見た目の印象通りって言うか、伯父さんって結構不器用だよね。


 さて……となると、二つ目の質問は『へ~、やっぱり聞いてた通り警察の人なんだ~。んじゃあ、特理をブッ潰したら伯父さんはもう連中と関わらずに済むのかな?』から、『伯父さん特理だったバージョン』に変更しないとか。


 ……ホントは、こんなコト聞きたくは無かったんだけどね。


「んじゃ、二問目。『伯父さんは、あの事故現場に魔界に続く道があるって知ってたの?』さあ、イエス、オア、ノー?」


 流石に、今までのヘラヘラを維持できずに平坦な声が出た。

 辛うじて、言葉だけはふざけてるみたいなのを選べたけど。


 って言っても、やっぱりこの質問も答えは殆ど分かっちゃってるけどね。


 だってさ、伯父さんが特理の人で金見市内に住んでるってコトは、当然この地域の担当に割り当てられてるハズで、となればあの……確か『マキョーイキ』だっけ? とにかく、ソレがあるって知らないワケが無いんだから。


 でもって――


「……………………」


 ホラ、この無言である。


 さっき特理の所属か否かを明言できなかったってコトは、特理関連の情報は秘密にしないとってコトで、となるとマキョーイキについても黙ってなきゃいけないってね。今更過ぎるけど。


 ま、今回も『沈黙は肯定』だと受け取っちゃえるんじゃないかな?


 伯父さんは違うなら違うってハッキリ言い切る人だけど、さっきの質問に黙っちゃったように、言えないコトについて聞かれたらヘタに言葉を重ねて誤魔化したりなんてせず、ただ沈黙を貫くって選択肢を取る人だもんな。


 ソレは誠実だとか正直者だとかって美徳だとは思うケド、嘘を吐いたり隠し事を抱えたりするには不向きだ。

 だからこうして、僕みたいなチューガクセー程度に見破られちゃうワケだし。


 そんでもって、この事実は即ち『伯父さんはあの事故現場が危険地帯だと知っていたにも関わらず、父さんや母さんには黙っていた』ってコトになるワケで……


 ハァ――だから聞きたくなかったんだ。


「ハハ、結局一言も答えてくれずか……じゃあ、質問を変えようか。伯父さんがさっきから僕の質問に全く答えてくれないのは、所謂守秘義務ってヤツを守ってるからなんだろうけどさ、ソレって家族の命以上に大切なの?」


 もし、伯父さんが父さんや母さんにあの道を使わないように働きかけていたら、あの事故は起きなかったかもしれない。


 あの事故に遭う直前まで僕は兄さんと同じく眠ってて、いきなりクラクションが鳴らされたと思ったら、真正面からトラックが突っ込んで来てたから、魔界(アッチ)に堕ちた直後は只の交通事故だと思ってた。


 だけど、その真相は、力を独占しようとした所為で部下共に裏切られて封印されたあの()()が、その封印の綻びから魔力源になる人間を自分の元に引き込もうとした所為で起こったものだった。

 ()()自身が『御馳走様』とかほざきながらゲラゲラ語ってたから、まず間違い無い。


 つまり、あの時偶々僕らを乗せてた車とトラックがあの()()の射程圏内に入っちゃったからこそ起こった出来事なワケで、あの道を通らなければ遭遇し得なかったハズなんだ。


「別に、魔法だの()()だの特理だのの存在を語る必要は無い。ただ、あの道は危ないから絶対に使うなって言うくらいできたんじゃないの? 例え禁止する理由を話さなかったとしても、伯父さんが本気で言えば父さんが無視するワケなんて無いんだからさ」


 僕の質問に、伯父さんは黙ったままだ。


 いや、ぶきっちょな伯父さんのコトだから、口止めされてたら梃でも喋らないだろうし、ソレを臭わせるような発言もしないように気を付けてたんだとは思う。


 まあ、当たり前ではあるだろうけどね。

 もし、伯父さんの所為で特理の存在が漏れたとなれば、もしかしたらそれだけで特理を首になるかもしれないし、伯父さんも結婚して家庭を持ってるんだから、そんな生活が傾きそうな危険は冒せないだろうし。


 それに、魔界(アッチ)人間界(コッチ)の行き来については、あの()()が力を独占するべく空間魔法全開で制限しまくってたから、()()が望まない限りマキョーイキとやらが本当に魔界(アッチ)と繋がる事態なんてあり得なかった。


 コレについては、特理も把握していたハズだ。

 『過去に魔界(アッチ)と繋がったコトがある場所』か『これから繋がる可能性のある場所』がマキョーイキ認定されたのなら、長年ソコを監視してきたであろう連中が『一度も繋がったことが無い』って事実を知らないワケが無い。


 だから伯父さんは、そんな限りなくゼロに近い危険性を知らせて家族を路頭に迷わせるようなリスクは冒せないし、冒す必要も無いと思ってたんだと思う。


 ま、その結果が現状なワケだけど。

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