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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
90/186

90話

 ――にしても、


「                                        ぱ」


「…………あひゃは、ひゃぁっははははははっははははははははははははははははははは!!!!!!」


「――ぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃゃぃ……」


 いきなり、それも首だけ御足労頂いといてナンだけどさ……

 みなさん、正気度低過ぎじゃね?

 お目々虚ろで涎ドロドロだし、まともな日常生活送れて無さそうにしか見えねえんだけど。窓の無い病室にご宿泊中なのでしょうか……?


 まったく、たかが指折り数えられる回数死んだ程度でこのザマとは。僕みたいなチューガクセーでさえ、魔界(アッチ)で似たような経験あるのにこうして平然とできてんのに、大の大人が揃いも揃って恥ずかしくないのかな?

 ま、元々いい年ブッこいて『魔法研究してマス☆』なんて言っちゃう恥ずかしい連中だったから、その辺の羞恥心がマヒしちゃってんのかもだけど。


「ねぇ、どうなの伯父さん? コイツらから聞いたの? それとも他の人から? 或いはあの施設を監視してたのは伯父さんだった~ってオチ?」


 情けない首共への溜息を呑み込んでニヤニヤ笑いを張り付け直すと、伯父さんは硬かった表情を更に強張らせた。


 う~ん、そんなに答え辛い質問だったんだろうか……?


 と、諦めたのか腹を括ったのか、伯父さんは詰めていた息を吐き出した。


「…………いや、直接見聞きした訳じゃあない。一昨日着任した時に事のあらましを――


「ぽ、まぴ、かこるとうけもぷべせごいねちょれつけどあずぢてしゅろまうそえふぼもらぎさ」


「あは、ははははははははははははははははははっははははははははははははははッッッ!!!!!!」


「……ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい――」


 ……呼び出しといてアレだけど、うるせえし汚ねえな。

 なに、この不協和音の大合唱。


 照準――はいいや。

 別にコイツらこのままにしとく意味無いし。

 んじゃ、解除っと。


 なんて、とにかく不快だったから、ロクに考えもせず空間魔法を解除したワケだけど……

 さて、ココで問題。

 首が通過してる状態のまま、門の維持を放棄したらどうなるでしょうか?


 うん、言いワケさせて貰うとだね、僕は今まで空間魔法を移動の為だけに使って来てたワケですよ。それも、移動の開始から終了までを一連のプロセスとして。

 なので、門を作っておいて()()()()な状態が維持されちゃってる状況ってのは想定外なワケでして。


 つまり何が言いたいのかと言うと……


「――聞いて――なッ!??!!!」


 伯父さんも大変ビックリな、『血の海withぷかぷか揺蕩う百の小島(生首)』の出来上がり~ってね……

 はぁ、サイアク……


 量としては首から上に巡ってた分だけだけど、百人以上も居ると出血量は相当だ。

 床と言わず天井と言わず壁と言わずこの部屋中を汚してくれてやがるし、僕や伯父さんの方にまで飛沫が掛かってくる。


 まあ、僕の方は反射的に物理干渉で飛沫全部叩き落したから汚されては無いけど、その分部屋と伯父さんへの被害は甚大だね。


 当然ながら、こんな惨状の片付けを手作業でやろうと思えるほど暇でも狂ってもないので、さっさと()()しちゃうコトにする。


 ってなワケで――照準。


 狙いは、ココに転がってる一三二人分の生首――ではなく、『今ココで首が落ちた』って()()そのもの。

 出力は魔力オンリー――だと、魔力がもったいないので、魔力で強化した握力でも使おうか。


 んじゃ、伯父さんにも分かり易いように、右手を掲げて上げつつテーブルの下に隠した強化済みの左手を緩く開いておきまして。

 でもって、右手でパチンッと指を鳴らした瞬間に左手をギュッっと握って主観干渉を発動。


 途端に部屋中と伯父さんが被った真っ赤が全部真黒な炎に包まれる。

 勿論、所狭しと転がってる首の全部にも黒炎が引火し、そうして全てを包み込んだ一瞬後にはパッと炎が晴れて真っ新な部屋と赤ちゃん泣かせな強面が露わに。


 やっぱ、主観干渉での事象改変は便利だ。

 傷を消せる――ってか無かったコトにすると、ソレに付随して流れ出た血とかも本人の身体に戻ってくれて、こーゆー片付けの場面には最適だね。


 ただまあ、あくまでも『()()で首が落ちた』って()()に干渉したから、連中の首が切断されたってコト自体が無かったコトになったワケじゃない。


 勿論、切り落とされてからまだ秒単位しか経ってない脳細胞が死滅してるワケ無いし、()()()()()垂れ流された血も涎もそっくりそのまま体内に戻ったハズだから、ココで転がっちゃった一三二人は無事蘇生できてるハズだよ?

 まあ、一旦切り離されてた影響で気絶ぐらいはしてるかもだけど。


 ただ、頭部を失って脳からの命令が途切れた身体の方が垂れ流したアレやソレについてはそのままなハズなので、その辺の後始末は各々でやるよーに。

 そんなトコまでカバーするかよクソ共め。


「――ま、今見て貰った通り、僕は魔法の練習で忙しい。署までゴドーコーはまた今度にしてくれるかな?」


 分かり易く『今ココで起きた超常現象は全部僕の手に依るものですよ~』ってポーズを見せつつなので、伯父さんもある程度は受け入れやすいハズ。


 それに、こうして僕が本当に魔法を使えてるってところを見れば、その先の『魔法を使って父さんと母さんと兄さんを蘇らせようとしてる』ってトコまで理解してくれるだろーし。


 ……あ、それならココでの首ちょっきんが無事蘇生完了してるってのも見えるようにすれば良かったか?

 その方が死者蘇生に現実味が感じられるだろうし……

 って、元々連中を()()()()させてたってのも報告が行ってるハズか。

 なら無用な心配かな?


 とにかく、特理には屈さないという強い姿勢を見せ(脅迫テロリストに対するステイツムーブ)ていくスタイルを御理解頂いて、伯父さんにはお連れ様連中共々お引き取り願おうかね。

 流石の僕も、父さんの兄弟を手に掛けたくはないし。

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