87話
「……取り敢えず、父さんと母さんには避難してもらうか。万一があったら、死んでも殺しても償えないし」
なんてぼやきつつ、まずは父さんと母さんの身体の劣化に干渉魔法を食らわせて、それからすかさず空間魔法発動。
さっき――多分空は暗かったような?――完成させた異空間へと繋がる門を父さんと母さんのベッドとの接触面に開く。
すると、地球の重力に引かれて二人の身体が異空間へと落下して――ハイ、バタン。
さっさと門を閉じて二人を空間的にも時間的にも切り離して安全を確保したところで、魔力ソナーを放射。
ちなみに、今展開中の二種類の結界――物理干渉で貼った対物理と存在干渉で貼った対魔法の結界はどちらも『ココへの侵入を防ぐ』結界なので、中から外へ出ようとするオレの魔力が遮られる心配は無いのです。
……って、そもそも父さんと母さんが異空間に移ったんだからもう必要ないじゃん! ハイハイ、結界解除解除。
とまあ、壁と天井と床の内側に展開中だった対物対魔結界を両方解除して、改めてソナー。
一発目は一度に放出できる最大量の魔力で僕を頂点に空へ向けて底面『金見市全域平方km』で高さと上面は『魔力の許す限りkm&平方km』な逆プリン型円錐台になるように放ち、空から迫るであろう航空戦力の有無を確認。
いつもなら、雑に球状ブッパで済ませるトコだけど、人間界だと魔粒子無くて魔力が霧散しやすいから最大探知範囲が魔界よりも狭いし、それだと大気圏外からマッハで迫ってくるようなのに対処できるかどうか不安だからね。
チョットばかり奮発奮発♪
でもって、魔力ソナーは無機物を透過しちゃうけど、有人機なら人間に反応するし、ミサイルとかなら可燃物積まれてるハズだからそれを知覚できるし――って言うか、そもそも機械製品に絶縁体を一切使わないなんてあり得ないんだからその辺の有機物類がヒットするので、このソナーで完璧に補足可能ってね。
ついでに魔力ソナーなら魔法関連の技術にも反応するし。
ではでは、結果は――――うん、特に怪しい反応は無さそうかな?
範囲的には金見市全域を覆う規模の底面円に高さは……どれくらいだろ?
範囲内に目安になる物が無いから何とも言えないけど、少なくともマンションに向かって進んで来てるような反応は無いね。
んじゃ次。
一発目が霧散する前に間髪入れず二発目発射。
今回は今居る十五階から地上までの高さで金見市全域を覆う円柱型で魔力放出。
最初に撃った円錐台ソナーが対航空戦力意識なら、コイツはまんま地上戦力対策だね。
いやまあ、街全域とか情報量過多で目が回りそうだけど、取り敢えず『ココに向かって来てる人間サイズの動体』で『魔力の反応がある者』と『所持品に火薬と思われる反応が等間隔で感知できる者』に限っちゃえば大丈夫でしょ。
この条件なら、特理共にも紛れてた魔法使いっぽいヤツらも、銃所持してる危ないヤツらも引っかかるし、魔法単体ならソナーに当たればすぐ分かるから、コレで僕のCHOKKANが当たってるかどうか分かるハズ。
さてさて、結果や如何に――
「……………………ああ、うん。なるほどね」
ハァ……そうかいそうかい。ソッチがそー来るなら、コッチにも考えがあるよ。
んじゃ早速、対応に移らせて頂きますか!
――さて、なんのかんのを終えてオートロックのテレビドアホンのある居間で待ってると、九時半頃になって漸くインターホンが鳴らされた。
「やっとか……ハイハイっと」
ぐで~っと突っ伏してたテーブルから身体を起こして席を立つと、二回目を鳴らされる前にドアホンの画面を確認する。
するとまあ、人外動体視力の所為でチカチカと暗転を繰り返すようにしか見えない画面には、探知した通りの人物が喪服のような黒いスーツ姿で映ってた。
「は~い、いらっしゃい伯父さん。待ってたよ」
なんて、初っ端ぶつけられた意味深な挨拶に目を白黒させてるのは、父さんの兄で黒宮一伯父さんだ。
チカチカとコマ送り状態な画面だと大変分かり難いし、比較対象も映ってないから猶更分かり辛いけど、インテリ系の父さんと違ってガチガチの肉体派体育会系の伯父さんは、一九〇越えの高身長と一〇〇キロ越えウェイトを兼ね備えた筋肉モリモリマッチョマンの鉄人で、確か警察の――刑事? 警部? だって聞いた気がする。
『――お、おう? 辰巳か? 元気そうだな』
うん、機械越しでノイズが気になるけど、確かに一伯父さんの声だ。
いやまあ、さっきソナーしたから知ってるけど。
でも、この程度の不意打ちで動揺しちゃうとか、日夜凶悪犯と対峙してるんだかしてないんだか知らないけど警察官として大丈夫なんだろうか?
いやまあ、一応は身内からだったから食らったのかもしれないけど。
「はは、そりゃ元気だよ。元気以外の何物でもないよ。んじゃ、鍵開けたから待ってるね~」
『ああ、ありがとう。すぐ行く』
言いながら押した解錠ボタンでオートロックの自動ドアが開いたのか、画面外に視線を向けた伯父さんが軽く手を振りながら画面から消えてくのを見送ってドアホンを切る。
はてさて、取り敢えずアッサリ招き入れられたワケだけど、ココ十五階だから伯父さんが来るまで時間があるね。
どうしよっか?
一応、もう一回ソナーいっとこうか?
もう三〇分も立ってるからさっきの分はとっくに霧散しちゃってるし、今の連中の配置がどんなカンジか確認すんのも悪くないし。
いや、別に良いか。
どうせ父さんと母さんの身柄は確保済みなんだから、最悪『周りは全て敵』認定しちゃっても良いワケだし、それなら見敵必殺さ~ちあんどですとろ~いで万事解決えにしんぐおっけ~だし。
それに、折角伯父さん達も恍けてくれてるんだから、もう少しノッて上げないと空気読めねーヤツだと思われちゃうしね☆




