86話
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「――――yぁっとつまらん研究所編が終わったと思ったら開幕初っ端から下らん与太話だったぁあああッ――…………ああ?」
…………あ~、あ~……うん、なんだか妙な夢でも見ていた気がする? よく覚えてないけど。
ってか、いつの間にか寝てた?
なんか明るい?
今何時だ?
寝惚けた頭で時計を探すと、視界に入るの昨日――昨日? 多分昨日帰宅したハズなタワーマンション十五階の一室、父さん母さんの寝室。
その部屋の中心で朝陽? に照らされてるのは、父さんと母さんを横たえてもまだ余裕のある大きなベッド。
でもって、その頭上、部屋奥の天井近くの壁に掛けられた時計の長針は頂点のゼロを、短針は九を指し示していて、六の文字盤の上側に表示されてるデジタル表記には四が二つと『Mon』の文字が。
「あ~、もう朝か……って、四日? 二日じゃなくて?」
え~っと、確か兄さんと僕が魔界に堕ちたのが母さんのお祖父ちゃんお祖母ちゃん家から帰ってきた三月三十一日の夜で、その翌日に特理共の研究所で目覚めて四月一日。
でもって、ソコから何度か回想挿んでたし、警察署行ったり研究所で暴れたりも挿んだけど、最終的に帰って来た時には四月一日のまんまだったハズ……時計も見たし。
あ~、うん、なるほどなるほど。
よーするに、オレちゃんは時を忘れるほど魔法研究に没頭した挙句、未だに父さんも母さんも兄さんも起こせてないってワケだ。ああ、もう、ホント死ねば良いのに、オレ。
「――――ハァ~……結局、何もできずに週末が終わったな……ハァ。いやまあ、別に期間なんて幾らでも引き延ばせたから良いけどさ……」
あ~あ、溜め息が止まらない。
あと、魔界での二年ボッチ経験の所為で癖になっちゃったキモい独り言も止まらない。
少しでも必要になる干渉力を減らそうと『父さんと母さんの死そのもの』から、『父さんと母さんが死に至った事故の存在』とか『父さんと母さんが事故で負った外傷』とかって干渉する対象を変えてみたりしても、干渉力の不足とかすっぽ抜けで失敗。
なら、発動自体に他の干渉方法以上の魔力を使う主観干渉じゃなく、魔法みたいな『あやふやだけどソコにあるよね』的なのを消し去る存在干渉を使っても、やっぱり干渉力不足で失敗。
一応、干渉するたびに父さんと母さんの身体の劣化は治ってたんだけど……
結局、『父さんと母さんを起こせないのは、干渉力が足りないから』って結論付けて、『じゃあ、干渉に必要な魔力が十分溜まるまで父さんと母さんの身体を完璧に保存し続けよう』って方針に切り替えたワケですよ。
まあ、最終的には父さんや母さんみたいに身体が残ってるワケじゃない兄さんも呼び戻すつもりなワケだから、魔力なんてどれだけあっても足らないまんまなんだけどね。
ただ、その不足分についてだけど、『現状の僕が持ち得る最大魔力量でも到底届かない量が要求されてる』ってのが分かるだけで、具体的にあとどれくらいが必要なのかが分からないのが困りものかな。
う~ん、どうやってそんな量を確保すれば良いのやら……
とは言え、転換した方針の方は上手くいってくれたワケですが。
ホラ、僕が使ってる空間魔法ってあの魔王が持ってた特別強力なヤツだから、ハイでなろーなファンタジーが如く慣れさえすれば何でもできちゃうんだよね。
ソレこそ、『父さんと母さんの身体を余裕で収められて、内部時間は完全停止』なんて実々につごーの良いオレちゃんだけの異空間なんてものができちゃったワケで。
コレの御蔭で自発呼吸ができなくさせられた父さんと母さんを灰にする必要も無くなるから、必要な魔力が溜まって――いや、まずソレを溜められるだけの容量を手に入れないとか。
とにかく、時間制限は考えずに済む。
ってなワケで、もう一度魔力を練って練って練り上げようじゃないか!
全ては父さんと母さんと兄さんの為に――
って、うん?
『そもそも、なんで気を失ってたの?』『毎度毎度寝て起きて始まるとかワンパターン過ぎ』『別に面白くねえんだけど、そのテンプレ』?
いやまあ、寝てた理由は魔力練ってたからだよ、限界まで。
あとの二つはうるさい。
寒いんだよこの遣り取り。
けほん……え~っと、ホラ例のアレだよ、魔臓器。
僕の身体の何処にあるのか未だに全く分からないんだけど、とにかくソレに僕自身の魂を削って焼べて魔力を練り練り~って、いつも通り魔力を生成してただけですよ?
ただまあ、今回は魔界に居た時と違って邪魔な魔物は居ないし、人間界って魔粒子無くて生成できる魔力量が少ないから、身体がまともに動かせなくはなるけど最低限意識は失わないギリギリまで魂削って焼べて練って回復するまで休んで~を繰り返して居りまして。
でまあ、ココまで言えば分かる通り、お恥ずかしながらその魂削るって工程の匙加減をミスって身体動かないどころか意識不明な状態に陥っちゃってたってワケだね。うん、バカ過ぎる。
これからは、もうチョット安全マージンを高めに設定し直して、一回の量よりも数を熟せるようにして、もっと効率的に魔力を溜めてくようにしよう。
うんうん、反省反省っと――
「――――…………」
――誰か来てるな。
いや、別にインターホン鳴らされたワケじゃないし、足音が聞こえたワケでも、臭いがしたワケでもないし、更に言えば展開中の結界に反応があったワケでもないし、魔力ソナーは魔力がもったいないから使ってもいなかったんだけど……
だからまあ、強いて言うなら直感かな。
『なんかそんなカンジがする』って漠然とした空気感。
はてさて、鬼が出るか蛇が出るか――今度は何が起こるコトやら。




