80話
ってなワケで、まずは鉤爪がギラリでズラリなアンヨを軽く持ち上げまして――ストンプ。
「まず、オレがアンタらに求めるのは、ただ黙ってこの場に留まるコトだけだ。オレも手伝ってやってるし、カンタンだろ?」
発生した運動エネルギーを物理干渉に使うんだけど、今回は運動エネルギーの効かせ方に一工夫っと。
具体的には、幅一ミリ長さ三十センチの線状に発生させた干渉エネルギーのギロチンをデブの太腿二本と二の腕二本にセット。
そして――――ストン。
『――――――!?!!!! ――――――――――、――――――――――――――――――!!!!!!』
口の中の空気が震えないので、声どころか息遣いすら聞こえない無音の悲鳴が上がる……
悲鳴だよね?
まさか喜んでたりしないよね?
そのポタポタは感激の涙だったりしないよね?
『御主人様だ、わ~い♪』なワンちゃんみたいな嬉ションでもないよね?
『我々の業界でも拷問です』どころか『我々の業界でも致命傷です』で合ってるよね?
な~んて、つまらない心配は必要無さそうだ。
何故って?
決まってる。
両手両足の切断で、断面から露出した大動脈から真っ赤な噴水ブッシャー――なんてオーバーキルな致命傷を負ってるんだから、喜ぶ云々の前にもう一分以内にはお亡くなりだろうからね。
「それから、肝心の実験内容だが……端的に言ってシシャソセーで~す。だから、順次テメエらには氏んで貰うゾ☆」
そう言い放ちながら、バチコ~ン☆ とウィンクを一発……誰も見てねえけどね。
いやまあ、冷静に考えれば肉食恐竜みたいな変身体の顔面でウィンクなんか悍ましいだけでブラクラ物のトラウマシーンだし、そんな物を出した身としましても忸怩たる思いなので、目撃者皆無は不幸中の幸いなんだけど。
とまあ、そんなどーでも良いコトは置いといて、だ。
なんか、周りの連中が一斉に震え出した?
皆して心拍も呼吸も荒い。
特にデブの至近距離に居た所為でモロにブシャー食らった連中の中には、違うブッシャーで水溜り作ってるヤツも居る。
なんでそんなに大興奮なの!?
こんなに鉄塩匂うのに!?
おいおい、マジか。
まさか、あの研究所の中が流血OKなド級のマゾヒスト共の巣窟だったなんて……
しかも、一部のヤツの感情表現はバカ犬(可愛)と同レベルだなんて(棒)――とか言う、下らない冗談も置いときまして。
「ま~あ? 自分でもズイブンとコートームケーなコト言ってる自覚はあるがよ、でも仕方ねえよな? なにせ、テメエら特理とやらが魔物とマキョーイキの存在を隠蔽してくれてやがったおかげで、父さんも母さんも兄さんも死ぬハメになっちまったんだからなあ!!」
ワザと大声を出して脅すように言ってやると、周りのガクブルが一層露骨になった。アハ♪
ウンウン、分かってくれたようで何より!
とは言え――
「――プ、アハハハハハ!! オイオイ、んな怯えんなよ見っともねえなあ、中学生相手によ。こんな無茶な言い分を真に受けんな。こんな言い草が八つ当たりでしかないコトくらいオレにだって分かってんだからさ。だからまあ、アンタらが実験対象に選ばれたのはソレが理由ってワケじゃねえ」
そう、別に僕は父さんと母さんと兄さんの死についての当て付けで、コイツらへ文句言いに来たワケじゃない。
コイツらがやったのは、魔物や魔領域の存在を隠してたってだけで、父さんや母さんや兄さんを直接手に掛けたんじゃないからね。
だから、あくまでも目的は実験だ。
父さんと母さんと――そして、叶うならば……僕自身の手でその遺体を消滅させざるを得なかった兄さんをも蘇らせる為の、な。
さっきぶっつけ本番でやってみた限りだと、『死』って概念に直接干渉するって方法自体は不可能ではなさそうだった。
魔法を撃って『何か』に干渉できたって感触があったからね。
ソレは間違い無い。
だけど、失敗した。
何故?
さっきは感覚的に干渉力不足――つまりは僕自身の力不足が原因だと決めつけたけど、ホントにそうなのか?
実際には理由なんて幾らでも考えられる。
何せ『魔法の失敗』だ。
『魔力』なんて言う物理法則ガン無視の謎エネルギーが絡んでるって時点で、もうマジメに考えるのがバカバカしくなってくるからね。
少なくとも、熱力学だの量子力学だので使う公式は使い物にならないでしょ。
さて……となれば、どうやって成功を導き出すか?
僕のようなバカに出せた答えは、単純にして脳筋な『成功するまで反復する』って言う、思考やら計算やらを全力で投げ捨てる方法だけでして。
だからこそ、何かしらの失敗で蘇生に致命的な問題が発生しても問題の無い相手からの協力を必要としたワケでありんすが……
……あ~、うん、分かってる。分かってるし?
そりゃまあ確かに? 『分かってる』と言いつつも感情面で多少の蟠りがあるのも否定しないけど……
なくとも、僕がやろうとしてる実験にコイツらがどうしても必要だってコトは無いし、なんなら人間以外の生き物の『死』でも十分に練習には使えると思う。
だったら、なんでワザワザこんなトコに出戻って来たのか?
ソコんところ首傾げちゃうと思うので、お答えしましょう。
「じゃあ、なんで選ばれたのかって言うと、だ。このデブがッ、オレのッ、父さんとッ、母さんをッ、連れ去ろうとッ、したッ!! からッ!!!! だッッッ!!!!!!」
蹴る、蹴る、蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る!
全身に満ち溢れる魔力の本流を徹底的に抑えて可能な限り魔力強化を落とし、右脚の変身体を部分解除し、そうやってフツーの中学生相当の威力には抑えつつも、それ以外は感情の荒れ狂うままに脚を振るう!
ああそうだッ、コレがッ、答えだッ、クソッタレッ!!!!!!
よくも、よくもッ、父さんと母さんに手ぇ出しやがってッ!!!!!!
二度とこんなフザケたマネできないように――否ッ、考える事さえできないようしっかり痛めつけてやるから覚悟しやがれッッッ!!!!!!
――なんて心情なので、仕返しに参りました~。
勿論、父さんと母さんに手を出そうとした以上、特理全員とは言わずとも、このデブの下に就いてる連中は『このデブの判断を止めようとしなかった』ってコトで、一緒に責任取って貰いま~す☆
人殺し?
遵法精神?
ハッ! 嗤わせんな!
先に手出ししやがったのはコイツらの方だッ!
なら、コッチには自己法益保護の為の正当防衛が成り立つってな!
大体、最終的には無傷で済ませてやるつもりなんだから、寧ろ感謝して欲しいくらいだ!




