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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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77話

 ってなワケで、既にエコロとソナーで周囲の人気皆無は確認済みだったので、気持ち急ぎつつも安心して廊下の突き当りのL字路へと身を隠す。


 一つ懸念があるとすれば、天井に開けた穴に気付かれるかもってトコだけど……

 ま、気付かれたら運が無かったってコトで納得()()()()()しかないね。


 とまあ、爪の先くらいだけ()()()()()幸運を祈りながら息を潜めていると、裏口の開閉音と共に単品オッサンが廊下に登場。

 そのタイミングに合わせるように、安置所の場所からもドアの開閉音が聞こえてきた。


「準備できたか? 早く行くぞ。態々『大至急で』なんて念押しされたくらいなんだからな」


「……あ、ああ、そうだな」


「い、今行く……」


 うん、エコロ――は声も音も出すと気付かれちゃうかもだからチョット無理だけど、鼻とソナー的に連中が運び出してるのは父さんと母さんで間違い無さそうだ。


 んじゃ、また連中が裏口開けたタイミングで頭の上通り越して行こうかね。

 そっから、連中がどの車使うかを見張って、追跡し(つけ)て、でもってあの研究所と同じオカルト連中が出てきたら思う存分魔法の練習台(サンドバック)にしてやる。


 そんな物騒な決意を胸にカサカサを再開。

 勿論、鼻とソナーで連中の位置やら顔の向きやらはきちんと把握しつつ、ね。


 そうして、手ぶらオッサンを先頭にガラガラと買い物カートみたいな金属音交じりの走行音を撒き散らしながら父さんと母さんが入ったビニール袋を運ぶデュアルオッサンズの後方五メートルを維持。


 あとは先頭のオッサンが裏口開けた瞬間に外に出て、そのまま建物の屋上まで登って監視を続け、連中が使う車を張ってれば大丈夫か。

 ホラ、サッサと行ってサッサと開けろ。


「…………? どうしたんだ? 何か問題でもあったのか?」


 先頭オッサンが口も頭も軽そうなデュアルオッサンズの沈黙を不審に思ったのか、裏口を開けながら二人へと振り返――り切る前にすかさず脱出、カサカサシュバッ。


 でもって、そのまんま壁伝いに屋上を目指してヤモリダッシュッ、シュババッ。

 ふぃ~……さて、ココからはコッチのターンだ。


 連中が使う車は――って別に探すまでも無くすぐ真下に着けられてるよ。

 救急車みたいなカンジの警察車両お決まりな白黒のバンがバックドア開けられて準備万端出待ちしてる。


 ホラホラ、早く乗れよ。

 あんま待たせんなよ。

 あ~、でもちゃんと丁寧に扱えよ。

 父さんと母さんを少しでも手荒く扱ったら、テメエらもうドコにも行けなくなるからそのつもりで。


 なんて思いが通じたのか、さっきまでの軽々しい態度とは打って変わって三人一組になって父さんが入れられたビニール袋を恭しく持ち上げて車内へ。

 そんで、なんかバックドアの影に隠れて見え難いけど、三人共立ち止まって腰折ってる?

 アレは――手でも合わせてくれてるのかな?

 それから続けて母さんの方にも同じように取り掛かって再びの間。


 ………………ふ~ん。

 まあ、今回はその態度に免じて、このオッサントリオ()()()|見逃してあげようか。そのまま安全運転で宜しくね☆


 積み込みを終えて速やかに三人共乗り込むと、すぐに発車。

 車は警察署の敷地を出てからすぐに太い国道に合流した。


 さて、()()も追うか。

 もはやお馴染になっちゃった『バサッ』からの『ビューンッ』で。


 いや、()()()()()()要領で『ビューンッ』したら、父さんと母さんを乗せた車を置き去りにしちゃう――どころか一瞬で街の外にまで出ちゃうので、実際には『フワァ~~』くらいな力加減での飛行だけど。


 ま、高度はさっきと同じくらいに取ってるから、居眠りでもしない限り見失ったりなんてあり得ないけどね。

 数百メートル程度の距離なら()()()()的にナンバープレートどころかサイドミラーに映るオッサンのキモイ髭面までクッキリハッキリだし。


 さてさて、んじゃどっこに行くのかな~っと☆

 瞬きせず済むよう瞬膜越しに一瞬たりとも視線を外さずお空の上から見守ってると、パンダカラーは国道を道なりに進んで街の中心からズンズン離れてく。


 ん~、ドコ向かってんだろ?

 進行方向的には住宅地とは別方向だし、ヘタするとホントに街の外にまで出てっちゃいそうなカンジが……って、アレは……?


 車の進行方向を辿って行くと、なにやら妙に真新しい外観と無駄に広々とした駐車場を兼ね備えた建物を発見。

 しかも、なにやら人肉を焼く時特有の鼻に付く臭さが微かに漂ってきた気がする。

 ムムム……そうか、葬儀場か。


 よくよく考えれば、まあ、当たり前の話ではあるのかな?

 『引き取る~』なんて簡単に言ったって、ソレが遺体となればただ民家に運ぶんじゃ具合が悪すぎる。

 ご近所さんからクレーム来まくりってな。


 なら、最初から遺体の保管設備がある建物に直で届けさせるのが一番合理的だ。

 うん、こんなの答えを確認する前に想像できなきゃダメだよね~、反省反省。


 ……な~んて、まあ、ココまでは()()()()ってハナシだ。


 まあ?

 フツーに考えて違和感の無いトコに運べば人目についても特に問題にならないし?

 運んでる警察官にも余計な疑念は――まあ、運ぶ前から幾らか感じてたみたいだけど、それ以上増すのも避けられるし?


 だけど、運ばれてきた父さんと母さんの遺体を受け取るのは魔物だの魔法だのに傾倒した陰険オカルト研究デブの一派だ。


 となると、このまますんなり葬儀場に預けられるなんて線はまずあり得ないね。

 絶対ココから更に移動させて、僕に見付からない場所に隠す――いや、隠すかも怪しいな。

 もしかしたら、勝手に()()するってのも考え――ッヅ、グッ!!


 うう~、超~頭痛い。

 チョットその場面を想像しただけで、ストレスマッハな偏頭痛で禿げ上がるかと思った。

 絶対あのデブ、コ・ロ・ス。


 ま、御蔭で魔力は空間魔法を十分安全に使えるトコまでモリモリ生成されちゃったから、その辺は結果オーライだけどね。


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