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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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76話

(いやいや、落ち着け落ち着け。まだデブの差し金で父さんと母さんが連れ去られると決まったワケじゃない。たまたま偶然同じタイミングでなんかの事件があって、たまたま偶然同じように二体分の遺体が見つかって、たまたま偶然同じく子供が二人行方不明になってるってだけで、運ばれるのは父さんと母さんとは全く無関係な鈴木さんだの田中さんだのかもしれないんだし? そーゆー強硬策はちゃんと確認してからでも遅くない……って、んッ?)


 ガチャリと、目下のオッサンが裏口のドアノブを回した瞬間、そのタイミングに合わせるように、さっき出た部屋から冷蔵庫の開閉音と無視し得ない匂いが届いてきた。


 つまりは、父さんと母さんを納めた個室の扉が開いて、二人の匂いが漂ってきたってワケだ。


(………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はっ)


 コレは、うん、決まりで良いんじゃないかな……あのデブの末路。

 ああ、ムカつく。

 腹が立つ。

 虫唾が走る。

 ハラワタが煮え繰り返る。

 おかげで魔力がグングン回復してきてるよ。

 これなら、もうちょっとで空間魔法だってリスク無しで撃ちまくれそうだ。

父さんと母さんを連れ戻すのも楽勝ってな。


 ハハ……んじゃ、このままアッチの車のオッサンを()けて、届け先を確認しようか。


 あの陰険デブの仕込みだし、このまま素直にあのよく分からん研究施設へ直通で届けさせるとは思えないから、このまま直で攻め込んだあとで父さんと母さんが行方不明なんてなったら目も当てられない。


 あ、そもそも、あそこってマジオカルトな結界使ってまで隠してる秘密の場所だったか。

 なら、このパンピーなオッサン連中が直接向かったりするワケ無いね。

 コレは猶更父さんと母さんから目を放すべきじゃないな。


 う~ん……だったら、車よりも父さんと母さんの方に付いてた方が良いか。

 ココで実際に父さんと母さんの身柄が運ばれるのかを確認しとかないと、万一すり替えられたりなんてなったら最悪だし、僕から引き離すのが目的ならソレも結構あり得るし。


 と言うワケで、眼下のオッサンへのロックを解除し、天井に張り付いたままカサカサと反転。

 不用意に天井の穴を増やさないよう、既に空いてる穴に鉤爪を引っ掻けてUターン。

 でもって、さっきの死体安置所前に戻って聞き耳を立てる。

 すると――


『…………な、なあ、確かこの袋ん中ってトラックとの交通事故に遭って、イロイロ欠けたり零れたりしてたんだよな?』


『ああ、確かな……』


『なんか、その割には重くないか? 変に体重偏ってたりとかもしねえし……』


『……ああ、確かにな……』


『…………番号、間違えたか? 203と204で合ってるよな?』


『それは、まあ、俺も203と204だって聞いてるが……』


 ……いや、別に間違ってないけど?

 僕さっき開けっ放しにしてた扉にそのまま戻したから、間違えてたとしても父さんと母さんをアベコベにしちゃったくらいじゃね?


『…………………………』


『…………………………』


『……………………なあ、』


『……………………なんだよ?』


『……中身、確認しねえとダメか?』


『…………そう、なる、よな……』

 

 …………いや、ちんたらしてんじゃねえよ。

 常温で放置したら父さんと母さんの身体が傷むだろーが。


『え~っと、確か()()()()()()()だったか?』


『ああ、夫婦って話だったか。()()()()が行方不明らしいな』


 …………………………ああ、コレで確定だな。

 全部……全部、確定だ。

 僕が――いや、()()がこれから何をするのかも、ソレで誰がどんな目に遭うのかも。


『――――はぁ!?』


『お、オイ、どうし――へッ?』


『…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………な、なあ、やっぱこれって間違えてんじゃねえか……?』


『…………………………い、いや、だが、顔が、だな……その、なんだ……免許証の顔写真と瓜二つ、なんだが……』


 ……オーイ、いい加減にしろよ、オッサン共。

 いつまでグダグダダベってる気だ?

 さっさと働けよ、だから税金ドロボーとか呼ばれんだぞ。


 ああ、もう、ホント~~に、イライラするッ。

 相変わらず頭は痛いまんまだし、腹が立つ腹が立つ腹が立つッ!!

 見逃してやったってのに図に乗りやがってッ、デブがッデブがッ、クソデブがッッッ!!

 絶対に許さねえッ、許してなんかやるもんかッ、必ずこの手で八つ裂きにしてやるッ――は、ダメだ。人殺しはダメだよな……スゥ――ハァ――落ち着け落ち着け……


 取り敢えず、何もしてないのにせり上がってくる腹のマグマを深呼吸で押し込んで、オッサン二人が出てくるまで待つ。


 途中、無傷になった父さんと母さんを見て手が止まってたみたいだけど、元々治す前の二人を見てなかったのか、不思議がりながらもチャックを閉じて台車を動かし始めた。


 それを『ジジィーッ』とか『カラコロコロコロ』とかってオノマトペとソナーで確認してたワケだけど、連中が部屋を出てくる前に裏口の扉の外から『カツカツカツ』ってコンクリな地面を叩く足音が。

 どうやら、車を回し終えたオッサンが、そのまま来るまで待ってれば良いのに痺れを切らせてデュアルオッサンズを呼びに来たらしい。


 うん、マズいね。

 このままココに居たら見つかっちゃう。

 チョットばかり移動しようか。

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