50話
「ハハハハハ――ハァ……さて、そうと決まれば行動開始だ。まずは、人払いから始めようか」
カーブを――って言うか、事故に繋がりそうな地形を丸ごと消し飛ばそうってんだから、巻き込んじゃいそうな範囲に居る連中は退去させないとね。
少なくとも、ブッ壊したトラックに一人は確実に居るし。
それにあんまり時間掛けると、あの惨状を嗅ぎ付けた警察とか消防とかが群がって二度手間になりそうだから、そうなる前にさっさと動かないとね。
そんなワケで、まずは索敵用の魔力ソナーを放つべく、魔力をネリネリしつつ降下。
干渉魔法と違って魔力の散布は距離の影響をモロに受けるから、なるべく近付いた方が効率的なのです。
んで、辿り着いたカーブ上空でピザ生地みたいに薄く広く均一に伸ばすように放出を始めると、瞬く間に拡散した黒い霧のような魔力がカーブどころか山ごと辺り一帯を包み込んだ。
さてさて、それではどんなカンジかな~っと。
「……うん、いいね。まだ増えてない。ヤルなら今の内ってコトか」
魔力と同じだけ広がった知覚範囲内に居たのは、やはりと言うか予想通りにトラックの運ちゃんただ一人だけだった。
まあ、元々人通りが少なめなのに、『ゴールデンウィーク最終日の夜』なんて条件が被ったらこんなもんか。
出来過ぎなくらい都合が良いから、別に文句なんて言わないケド。
そんじゃ、まずは空間魔法でちょちょいのちょいっと。
瞬間、大破したトラックから少し離れたトコでマヌケに口を開いたまんま棒立ちしてた運ちゃんの足元で無色透明不定形の門が口を開き、
「あ? あああああぁぁぁ――――
これまたマヌケな悲鳴を残して金見市のとあるマンション、その駐車場隅の上空二メートル辺りへと落ちて行った。
いや~、ホントは転移とかもできるっぽいんだけど、空間魔法自体手に入れたばっかで使い慣れてねえから、ヘタすると全身を送り切れずドコかしらが泣き別れってなりかねないからね。
んなアホなミスで今更殺人なんてしたくないからこその門なワケだけど、出現場所ってアレで大丈夫だったかな?
門って結局はトンネルだから、出口を塞ぐような物が無さそうな場所と繋げたんだけど、それでももう少しくらい高度下げた方が良かったか?
一応、足から落としたハズから死にはしないハズだけど……
「……まあいっか、もう送っちゃったんだし。気にしてもしょうがないね、うん」
運ちゃん通過直後に掻き消えた門の残滓から視線を切りつつ、次に取り掛かるのは干渉魔法――の前に、チョット干渉用のエネルギー出力に不安があるから、CHOKKAN先生とは逆に有形無名な方の相棒を用意っと。
パンッて『理解・分解・再構築』するみたいに柏手を打って両手を離す――いや、ただの演出だから、こんなあからさまな事しなくても良いんだけどね――と、左の掌に灯った黒い魔力光の中から、まるで『引き抜け』とでも言わんばかりに真っ白い柄が現れた。
確か……茎、とかって呼ぶんだっけ?
掌からひょっこり顔を出してる柄は、布とか飾りとかを一切纏ってない剥き出し状態なんけど、今まで散々使い続けてたおかげでちゃんと手に馴染んでるから問題無い。
そんで、その石灰とかワンちゃん用の骨っこにも似た色合のソレが主張する通りにしっかり握って引き抜く――と周りをイロイロブッ飛ばしちゃいそうで危ないから左腕の方を引いてやると、手品みたいに掌から柄と同じ白灰色のくすんだ片刃が出てきた。
反りの無い真っ直ぐな刃は三〇センチくらいで、柄まで入れても五、六〇程度。
所謂、小太刀とか脇差とかって呼ばれるような武器だけど、コイツの実態は『斬る』とか『突き刺す』ってより『圧し潰す』とか『吹き飛ばす』系の鈍器だったりする。
刃紋も無ければ、焼き入れも砥いですらもいないしね。
だって、ねえ……包丁だって家庭科の授業くらいでしかまともに握った事も無いような中学生男子が、包丁の倍はある長さの刃物渡されたって扱い切れるワケないし。
……最初に作った剣には刃を付けてたけど、実際使ってみたらすぐに刃を潰しちゃって――なんてニガイ思い出は無いですコトよ?
ホント、フィクションの主人公クン達はなんで初めて手にした剣とか刀とかを自由自在に使いこなせるのか……
いや、『なんであんなオッカナイもんすたーとかに躊躇無く立ち向かえるのか~』じゃなく、『なんであんなでっかい刃物で簡単にスパスパ物が切れるのか~』って意味ね。
まず刃をキチンと立てて垂直に切るって動作からして、包丁の時点でも難しいってのにさ。
それをバットとかゴルフクラブのスケールで実践とか……
僕にはもう、その時点で正気の沙汰とは思えませんのですよ。
でもまあ、その野球とかゴルフとかの感覚が取っ掛かりになってくれるかもだけど?
ほら、ああいうのって、ボールを打つ時にボール側だけじゃなくてバットとかクラブとかの方の芯もちゃんと捉えてないとダメでしょ?
だから、刃物で敵を切るって感覚を無理矢理日常生活に繋げるなら、多分この辺が一番近いと思うんだ。
それで、その感覚を頼りに研鑽研鑽ってね。
……まあ、実際に振るう剣はバットだのクラブだのなんかよりずっと重くて、相手の方も滅茶苦茶に動くからボールなんかよりよっぽど捉え辛いけど。
それこそ、どんな剛速球やら芝状況やらでも百発百中でジャストミートできる腕前が必要になるってカンジかな。
しかもコレ、『剣を当てる方法』ってトコだけの話であって、その先の『上手に敵を断つ方法』についてはまだ触れてないからね?
いや~ホント、剣だの刀だので戦ってた昔の人達ってすんげ~わ。




