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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
42/186

42話


…………………………………

……………………………………………………………………

…………………………………………………………………………………………………



 ――目を開けると、そこは消し炭状態から見事に立ち直ったものの、夜の帳の所為で不気味さ三割増しな森の中だった。


 ……などと、巫山戯半分にどっかで聞き齧ったフレーズを真似てみたワケだけれども、実の所、風景なんかよりも耳とか鼻とかから入ってくるイロイロの方が重要だったりする。


 いや、別に暗くて見えないってワケじゃないよ?

 五感の性能向上って遠視力とか動体視力とかだけじゃなくて、暗視力も含んでるみたいだから。


 まあ、それは置いといて……中でも特に目立つのは臭いだ。

 聞こえてくる音の方は小さい上にまばらだったけど、木やら草やらの青臭さに交じっている臭いの方は特に顕著で、まさに僕が一番初めのキューブ内で期待していたもので溢れていた。


 つまり、燃焼によって生じた炭臭さやそれを包む箱の金物臭さ、あとはそれらを遠くから撒き散らせ漂わせてくる文明の騒音達――嗚呼、やっとだ……!

 やっとッ……ただいま諸君。

 待たせたな、現代!!

 フヒヒヒ、グヒャハハハハハハハハハッハハハハハハハハハハ!!!!!!


 ……コホン、失礼致しやした。チョットばっかし舞い上がってたようでせう。


 でも、御理解頂きたい。なんせ主観で一億年(盛)、客観で二年らしいもの歳月を、何一つ指針の無いオープンワールドが舞台の難易度Must Die(実際に死にまくった)なリアルクソゲーを強要されて、そいつをやっとの思いで乗り越えて漸く辿り着いたんだから!


 いやいや、本当に長かった――いや、寧ろ()()()()よ。

 今までもそうだったけど、さっきだってさ、『どの辺が丁度ええんでっしゃろな~あ?』ってなカンジで、どのキューブに入るか迷っちゃってさ~あ。


 『あんまり近過ぎると改変する時間が少なくなっちゃうよね』って事でキューブの消失が始まった辺りまで下降したり、『でも、あんまり離れた時間で小細工しても改変にまで至らないのでは?』なんて不安に思って上昇したり、って調子で。


 そんで何度もウロウロと上下往復を繰り返して無駄に魔力を消費しつつ、『この辺りかな~』って不用意に手を伸ばした所に、CHOKKAN先生から御警告と御啓示を頂きましてですね。

 魔界で幾度の死線を乗り越えてきた時と同じように、今まさに触れようとしていた箱チャンから身を引き、その感覚が指し示したキューブへ真っ直ぐ素直にダイブ。


 そんな流れで冒頭に到着したのでした(まる)


 ……ハァ、なんだかテンションが安定しない。

 いや、魔界(アッチ)出てからずっとこんなだったと思うし、見られた所で『旅の恥はカキステ』とかって言うらしいから別に良いけど。

 大体、変身体の下は躁鬱モード以上に見せられないような状態――『街に繰り出したら通報から逮捕……は年齢的にまだ一応セーフかもだから、補導かな?』ってレベル――だし。


 ああ、そういや、そろそろ服どうにかしないとなあ。

 う~ん……でも、お金以前に『服を買いに行く為の服が無い』って状況だし……かと言って、テレビの超開放的ギャグ集団とか七海の覇王とかヴァチカンの石像とかに倣って葉っぱで隠すなんて論外だし……どーしよ?


「まあ、そもそも僕にできそうな改変作業って、山を平地に均したりとか会社一つトラックごとブッ潰すとかみたいに、生身じゃ出力不足になるかもな作業内容になりそうだから、服なんて後回しで良いかな……丁度夜だから、幾らでも隠れられるし」


 それに、上手く改変が進めば『魔界(アッチ)で服を失くした』って過去も無くなるだろうし……なんて続けつつ、キューブへ入った直後にほぼ意識せず着直した変身体の翼を広げる。


 服の調達にしろ過去改変という名の破壊活動にせよ、キューブ内での活動には時間制限があるっぽいから、あんましグズグズはしてられない。

 サッサと動かないと。


 ってなワケで、取り敢えず空から状況確認。

 最初のキューブ探索と同じように葉っぱと枝のカーテンを突き破り、満天の夜空へ――って、おお!

  山の中だからか、星がスゲくキレイに見える!

 やっぱアレだね。

 星を見るなら、電柱だのビルだの排ガスだのって遮蔽物の無い山の空が一番って事かな。


 ……地球の常識的にはどうかしてるけど、魔界(アッチ)って星どころか月も太陽も無いクセに、場所によって明るかったり暗かったり暑かったり寒かったりなデタラメ状態だったから、こんな星空を見せられると改めて『帰って来たんだなあ……』って気分になるね。


 ――っとっと、今はそんなノスタルジーに浸ってる場合じゃない。

 さあ、確認確認。

 どれどれ――


「――あ、」


 思わず出た言葉の続きが喉に引っ掛かった。


 でも、そんな事はどうでもいい。


 そんな事より、遂に――遂に見付けた!

 街だ街だよ!!

 帰って来たんだヒャッホウッ!!!!!!


 そう、真っ暗な虚空に浮かぶ僕の視線の先に広がっていたのは、夜闇と自然とを追い出して煌々と光を放つ懐かしき市街地だった。


 ってか、眩し過ぎじゃありませんコト?

 なんだか光源が多い所為か、街へ被せるように後光じみた半球状の結界が見えんだけど。アレって僕入れるよね? 弾かれたりしないよね?


 などと、すっかり魔界(アッチ)に毒された不安が頭を過ったけど、当然ながらそんな不思議原理の万能硬質ガラスは存在していない。

 だって、臭いとか音とかフツーに届いて来てるし、魔力とか魔粒子とかは感じないし、って事は、そんなオカルトバリアなんて無いって事で……って、この考えが既にアレか……


 ――って、いかんいかん。また時間無駄にしてる。取り敢えず、目標が見えてるんだから、まずそこから行ってみようか。


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