41話
え~っとね……僕は今までさ、キューブの一つ一つが独立していて、それが人間界のそれぞれの時代へと繋がってるんだとばかり思ってたワケですよ。
だけど、それなら『キューブの位置が動く』ってのはヘンだよね?
過去、現在、未来って順番通りマジメに整列してるハズが、自分からその整理整頓を踏み荒らしてんだから。
それに、本当にキューブの一つ一つにそれぞれの時間の人間界が収められているんだとしたら、一度入った後の立入禁止が一列に並ぶのだって辻褄が合わなくなる。
カシャカシャ動き回って上下どころか左右にだって隣り合わない位置に移動してるんだから、列で並んだキューブ内を時間移動できるワケがないってね。
つまり、このキューブ達はあくまで見た目派手なだけの出入口に過ぎなくて、人間界って一つの世界の根幹に当たるのは、あくまで鉛筆の芯みたいな中心部分――って事なんだと思う。
でも、そうなると『なんで上に行くほど芯が剥き出しになってるの?』ってハナシになるけど……
「――扉が消えてるって事は、当然ソコからは入れないよな……? でも入れなくしたいなら、今までみたいに電源落としちゃえば十分だし……何か他に理由が……?」
呟きつつも相変わらず羽搏き続けてるのだけれど、眼下のキューブ消失は止まりそうにない――ってか、ドンドン勢いが増してるような気さえする。
いや、僕はさっきからずっと同じ速度で飛んでるハズ――少なくとも加速はしていないから錯覚なんだろうけどね。
恐らく、消えたキューブの崖がハッキリと目に見えるようなトコにまで迫ってる所為で、そんなふうに思うじゃないかな?
ホラ、画像が徐々に変化する系の間違い探しみたいに、『変化に気付くとソコばかりに意識が吸い寄せられてしまう』ってカンジ。
と、そんなふうにアハ体験していると、遂にキューブ消失の波が十数個先まで迫っていた。
流石にこの状況で進み続けようと思えるほど豪胆でも呑気でもないので、クルリと回転しつつ広げた翼から魔力を逆噴射して急ブレーキ。
ズモーンと広がる支柱と同じく真っ黒な僕の身体は、さっきキューブ消失に気付いた時と同様に、キューブ達を足蹴にするような格好で停止した。
まあ、さっきと違って壁面から見て十メートル以上の高度は取ってるから、踏んづけちゃいないケド。
「はてさて、中々にナカナカな光景だけど、一体全体どうしたものか……」
呟きつつ見下ろした先に広がっているのは、左右から一つずつ段々と消えた事で平面版ピラミッドと化している眩い黄色――鏡面チックな光沢が無い――のキューブ達と、その下から覗いている暗き深淵――じゃなくて、世界の中核に当たると思われる真っ黒い芯だ。
……なんて言うか今更だけど、こうして改めて見返すとやっぱり凄まじいスケールだなあ。
そのスケールの所為で右も左も芯の黒しか見えてこない。
まるで、深夜にさざめく大海原だ。
いや、背景が驚くほどの白さで『ザザァー』とか『ヒュゥー』とかの効果音も無いから、似通ってんのはスケールだけなんだけどさ……
――と言うか、そんなのに見惚れてる場合じゃない。
今はそんな『無くなってる部分』なんかより、『今もまだ残っている部分』について注目すべきか。
そんなふうに思い直し、飛行中からずっと右往左往させてた視線をさっきまでの進行方向へ向け直す。
すると、見えてきたのは――
「やっぱり、そうなるのかあ。なんとなく、『そうなるかも』とは思ってたけど……ドーユーコトなの……?」
ガラガラと崩れて殆どが黒に呑まれた巨塔と、その崩落から取り残されて真っ直ぐ伸びる一本だけのキューブ列だった。
しかも、そのキューブ列は他の仲間達が脱落した時点から、何故か灰色になっている。
これって、つまり……そーゆー事なのかな……?
チョットした確認の為にスィーっと羽搏き、その燃え尽き列へと肉薄andタッチ……へんじがない、やっぱりでんちぎれのようだ――って違う、そうじゃない。
オフンゲフン……さて、コレは――つまり、どういう事だってばよ?
「……あー、その、アレか。ココから先が僕の時代ってワケだ」
なんだかナルシズム且つロックなセリフを吐いてしまったけれど、入った覚えの無いキューブが出禁になってるんだから、きっとそういう事なんだろう。
つまり、僕は漸く自分の世界に帰って来られたってワケだ☆ オッシャー!!
ただ、一つ問題点を挙げるとするなら、過去の僕が居ると思しき灰色一列以外に他のif軸上のキューブ列が見当たらない事かな……なんだか、激しく気になります。
考えられるとすれば――なんだろう?
う~ん……ダメだ、全く思い浮かばない――『他のif軸では世界が滅んでるんじゃあ……?』なんてトンデモネガティブな可能性以外は。
「いや、まさかね……」
そうそう、それこそ『まさか』だよ。
そんなミラクル事変が起こり得るなら、僕が居た世界でだって何かしらの予兆が見られて然るべきだ。
だけど、十三年間生きてきた中でそんな世界レベルの大事件が起こった、若しくは起こりそうになったなんて話は一度だって聞いた事が無い。
まあ、だからって絶対にあり得ないのかって聞かれれば、それは否定するしかないけど。
なんてったって、魔物とか魔界とかが人知れず存在しちゃってたワケだし、今更常識ハズレが一つ二つ増えたっておかしくはないさね。
でも、だが、しかし、だ……もし、僕の想像が真実そのものなんだとしたら、千とか万とかじゃ聞かないレベルの数のif世界が消え去ったなんて事になるんだけど……
「……………………いや、いやいや、ないない。そんなワケないって! だって、世界だよ? 人類とか地球とか宇宙とかじゃなくて、そういうの全部ひっくるめた最上最大単位のスケールですよ? それが滅ぶとか消えるとか、そんな事があり得たら絶望過ぎて爆ぜるわ!」
全く、いやはや全く……
我ながら、なんともまあ悲観に過ぎたね。反省反省。
大体、現状で得られてる情報だけじゃ判断材料にするには全然足りないし、何が正しいのか証明する方法も思い付かないんだから、答えなんて出しようがないってのにね。
それに、何度も何度も繰り返しているような気がするけれど、僕が欲しいのは『家族で安心平穏に暮らせる』って結果だけであって、このキューブタワーの仕組みがどうのこうのなんて過程はどうでもいいんだし。
うん、そうだ、そうだよ。
そうとなれば、今後の方針も決まったようなものだ。
ここはやはり、さっき決めた通りにBプランを試そうか。
キューブ消失に何かしらの原因があったとしても、別に僕がそれをどうにかしなくちゃいけないってワケじゃないし、そもそも僕にはそんな事に従事する暇も余裕も無いからね……うん、大丈夫。
何も間違っていない……ハズ。
……ゴホン――とにもかくにも、切り替えていこう。
目指すは、下方に展開する平面ピラミッドなキューブ群。
今まさに触れている灰色の真下に並ぶ連中なら、ほぼ確実に僕の世界の過去に行けるだろうからね。
その方向で、灰色から余り離れずさりとて遠過ぎずの按排を見定めて侵入し、僕の家族を害する未来を――『事故が起こった』って歴史を変える。
具体的な行動は状況に合わせて臨機応変に……要は魔界と同じく出たトコ勝負。
上手くいくかは甚だ不安だけれども、今までも死にそうな目に遭ったって全部退けられてきたんだから、こんな所で尻込みしたりする気は無い。
現にさっきの戦国時代では、実際に歴史改変と言うかif世界への平行移動と言うかを成功させたワケだし、なんだかんだ言っても勝算は十二分にあるよね♪
んじゃまあ――行こうか!




