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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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39話

「――さて、じゃあ、上る前にまずは最初の列に戻ろうかね。『魔物の居ない普通の合戦場』から続く未来なら、きっと魔物が居ない()()()()世界へ通じてるハズだし……」


 今更ワザワザ確認するまでも無いけれど、僕が元々居た世界では魔物なんて存在は実在するワケの無い空想や妄想の産物でしかなかった。

 いや、もしかしたら、映画みたいな社会の裏側とか国家間の駆け引きが絡むような場所とかでは確認されてたのかもしれないけど……

 それでも、表面上は目の前に怪物が出現するなんてオモシロオカシイ事態が発生し得ない世界だったんだよ。


 つまり、僕らの世界は『魔物なんて存在しない世界』或いは『魔物の存在が厳重に秘匿されてた世界』だったってワケだね。


 だから、当然の帰結として、今居るキューブ列――つまり『魔物の存在が広く認知されている世界』の未来が僕らの世界へ通じてるとは考え難い。


 そんなワケであるからして、ココは一旦二番目に入った灰色キューブ列のトコまで戻ってから、そこで改めて上を目指そうと思った次第なワケでせう。


 まあ、キューブに入ってた時間は二度目より今回のが明らかに長かったので、まずは下降からかな?

 そうしないと、二度目との高さの差の所為で見失っちゃいそうだし。


 と、門を出てすぐ悶々と思索を展開し続けていた所為で、ずっと背を向けっぱなしだったキューブタワーへと振り返り――


「――――は……?」


 『横はif軸』説はあながち間違いでもないんじゃないかって思わせる光景に直面した。


 なんと、今まで頑なに同じ列の中だけで起きてたキューブの変色が、都合二ヶ所ほどキューブ数個分離れた別の列へとズレていたんだ。


「これはアレか? さっきやった鬼退治(ゴミ掃除)の影響で歴史が変わって、軸移動しちゃったって事なのかな……?」


 一応、、変更距離は数個分程度だったから見失ったりしなかったのは幸いって言えるだろうけど、この軸移動の原因として真っ先に思い浮かんだのはそれだ。

 斃した鬼種(クズ)も丁度二匹だったし。

 それで二回分の軸移動が起きたんじゃないかな?


 大方、あの二匹が死んだ事で本来起きるハズだった出来事が消えて、そこから歴史の分岐、可能性の軸移動が起きたってカンジかな?

 まあ、何がどう変わったのかっていう改変の詳細までは、流石に分からないけど。


 にしても、なんていうか……実際に目の当たりにしてみると薄ら寒いと言うか、プレッシャーと言うか……歴史だの過去だのって、こんな簡単に変えられちゃうんだなあ……ハァ。


 でも、そうか……何はともあれ、これで過去の改変は可能だって分かったワケだ。

 これなら、やっぱりBプランも順調に進むよね?

 うん、そうだ。そう思う事にしよう。


 さて、んじゃ気を取り直して、飛行開始!

 バサッと翼を広げながらサマーソルトターン、からの~魔力放出ドーン。


 飛行時の放出用には、例の如く『魔力コネコネからの~』なんて考えていたのだけれど、キューブ内同様、既に練られて身体に溜まってた分がまだ残ってるので、ソイツを消費する事に。


 うんうん、やっぱり()()を見付けちゃうと、僕ってヤツはどうにも熱くなり過ぎて、バカみたいに無駄な量の魔力を創っちゃってるねえ。

 まあ、あり過ぎて困る物じゃないから良いケド。


 ん、アレ……?

 そう言えば、キューブから出ると変身体の方は消えるのに、体内の魔力量は全然変わってない……?

 なんで? なして?


 ……ま、いっか!

 どーせ、も~幾つ寝ずともお正月~♪ ……じゃなくて、この謎空間とはオサラバなワケだし――っと、見えてきた見えてきた。


 基本真下、たまに斜めへと下り、さっき入ったであろう灰色とその真下の赤紫が重なる境目を視認し、僕はそこでまたクルッと一回転。

 勿論、逆噴射した魔力でピタリと停止しつつ。


「一先ず到着っと。さてさて、それじゃあ、改めて元の列に戻ろうか――って、え~っと……右と左どっちだったっけ……?」


 別に円柱(タワー)なんだから、どっちから行っても最終的には目的地に着けるハズなんだし、そもそもキューブの中と違って時間制限みたいなものは無いんだから、急ぐ必要も無いんだけど……まあ、気分的にね。


 え~っと、確か、コッチに来る時に選んだのは――利き手側、お箸を持つお手々の方向……だったっけ?

 それなら、今度はグルッと時計回りに進めば良いか。


 な~に、もし間違ってても、羽を止めなきゃその内着くさってね。

 ってなワケで、もっかい出発進行~、オー。


 もう『以下略』で締めて良さそうにも思うけど、何度目かの魔力放出and羽搏きを開始。

 右手側に見える赤紫達をなぞって進み始めたワケだけど、さっきの降下と違って行きの時に結構張り切って進んだからか、中々終点が見えてこない。


 それだけ、このキューブタワーが太デカいって事で、それに見合った膨大な量の時間や可能性に事細かく対応してるって事でもあるんだから……まあ、文句は飲み込むべきかなあ。


「――にしても、縦は結構ごちゃごちゃ変色してるクセに、横軸は濃淡の違いも見分けられないくらい揃えられてるとか、一体全体どんなルールで色付けしてるのやら……っと」


 押し込んだ物の代わりに素朴且つど~でもいい疑問を吐き出していたら、やっとこそさ灰色が見えてきた。やれやれ。


 瞬間的に翼を畳んでクルリと体勢を入れ替え、蹴り足と翼膜から爆発させるような勢いで魔力放出――そうやって、減速無しで直角に方向転換して急速上昇。

 向かう先は戦国時代の遥か未来、栄華と文明の光が溢れる新世紀……なんちゃって。

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