37話
んなワケで、宙吊りにしてた魔物を締め上げたまま手の届く高さまで下降。
「ッギ……ギザマ、は……ご、ごのワジが――
「だから喋んなっつってんだろ。魔物の分際で二度も言わせんな」
目の前に持ってきた魔物の顔面を、ヤツ自身を焼く仮想物質製の炎剣ごと鉤爪で輪切りに。
誠心誠意真心込めた要請を無視する悪い口なんて要らん。
さて、これでもうムカつく戯言を聞かずに済むが、頭を潰した程度で死ぬほど魔物は潔くねえからな。
ココは入念に処理するとしようか。
――では、照準。
目標は今も持ち上げてる――と言うより、ぶら提げてるってカンジに弛緩した首無しと、その下に落ちたグロい金太郎飴達。
干渉には、意識的に魔力を込めた右脚のストンピングを使用。
んじゃ、ドスンッ!! っと。
「――、ギベ
あっと言う間も無く着火した黒炎が力士みてえな首無しデブと足下の肉片を包んだ直後、生々しい粘着音に交じってありきたりでぶつ切りの断末魔が漂った。
瞬きの後、黒炎が晴れた所に残ったのは、干渉エネルギーにミキサーされて数千リットルもの紅い水になったスクラップ野郎と、それが地面に落ちるバシャッて水音だけ。
ん? 『ヤクザみたいな死体処理するとか、もう特定の臓器探す気なんて無いだろ』『さっきの開き発言はなんだったんだ?』『やっぱし人物設定ブレッブレじゃねえか』?
あ~、まあ、面倒臭くなったってのは事実かな。
繰り返しになっちゃうけど、折角人間界に帰って来たんだから、もうそろそろテンション戻したかったし。
……ホントは魔法を使われた時点で『魔法を使った何者かが居る』って事を認識できたから、やろうと思えば初手でこうできたんだけどね。
でも、ただでさえ曖昧な照準はバカみたいに魔力消費するってのに、それを魔力の使い辛い人間界でやると最悪不発で終わるかもだったんで、今回は丁重に見送らせて頂きやした。
魔法が展開されてる空間じゃ例の『魔力同士は~』ってヤツの所為で魔力ソナーも上手く機能しねえから、猶更まともな照準なんてできねえし……
にしても、この魔法の利点は、こうやって狙った物だけに力を作用させられるトコだよな。
今みたいに物体へ好きな形で負荷を加える《物理干渉》にしろ、魔法の時のように存在強度に干渉する《存在干渉》にしろ、どんだけデカい力を干渉させても狙った物以外に力は及ばないからな。
これでもし、思うさま殴る蹴るの暴行で解体しようと思ったら、終わるまでに余波でこの山が漫画チーズみてえな穴塗れになってたかもだし……うんうん、そう考えると環境に優しいクリーンな魔法だね☆
……まあ、現状既に魔物の放火の所為で、辺り一帯山林から灰と炭だらけの禿山へ暗黒進化しちゃってるし、これまたあの魔物が起こした熱風の所為か天気の方も急激に悪くなってきてたりするから、今更環境もヘッタクレも無いだろうけど。
「――ふう……取り敢えずはこんなトコか。総評としたら雑魚も良いトコだけど、あの程度がデカい顔できるって事はやっぱ人間界って平和なんだなあ~……んじゃあ、そろそろ、このキューブともおさらばと行こうかね」
溜まった精神的な疲れを息と一緒に吐き出してから、自分の内側に意識を向けて魔力を練る。
こうして、僕の三度目のキューブ探索は無事終了した。
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――さて、三度目のキューブ探索を終えての考察タイムと行こうかな。
自作の門を抜け、キューブタワーが浮かぶ真っ白無重力空間に戻った僕は、脱がされてた変身体を殆ど無意識の内にもう一度着直して腕を組んだ。
「ふむ――まず、今回のキューブは前回と同じく戦国時代の合戦場と繋がってた。コレは間違いない……問題は、その合戦場に魔物と魔力を使える人間が現れた事か……」
そう、現時点で確認できている中で一番大きな差異はそれだよね……ハァ……
……ウオッホン、取り敢えずの収穫としては、二度目のキューブ探索で立てた仮説――縦軸は時間に対応している説が、今回のキューブ内の時代を鑑みるにほぼ正解だって分かった事が挙げられるかな。
でも、今回見付けた差異から導き出される仮説は、ある意味では時間旅行に必要不可欠な要素が絡んでくると思う。
まあ、端的に言って、このキューブタワーの横軸は所謂『もしもの世界』――同じ時間軸にありながら様々な選択の違いによって分岐した別の可能性の世界――へ繋がっているんじゃないかと思ってるんだけど……どうだろう? 結構いい線いってるんじゃないかな?
この説なら、同じ時間の同じ場所で違う事が起きても不思議じゃないし、『魔物が人間界に干渉する』なんて可能性は他ならぬ僕自身が一番懸念していた事なんだから、今更『あり得ない』なんて否定できないし。
だが、しかし、だ。
僕の推測通り、本当に横軸がもしも軸――いや、ココは短カッコよくif軸と呼ぼう――で縦軸が時間軸だった場合、考えたくないけどタイムパラドックス的な問題にぶち当たっちゃうよね……




