34話
……いや、《黒い炎》なんて自分でもどうかと思うぐらいの厨二ワードだがよ、御存知の通りオレって年齢的に中二相当なワケだし、そもそもこの炎みたいに見えんのは魔法の副産物であって、オレが意図的に起こしてるワケじゃねえんだから問題ねえだろ?
……『なら、この厨二病魔法を解説しろよ。それまで判定は待ってやるから』だと?
え~、やだよメンドい。
こんなの要は、魔法を介して相手の魔法をぶん殴ってるってだけで、んな長ったらしい説明挟む必要無いし疲れるし。
大体、オレ馬鹿だから説明しきれっか分かんねえし、例え説明して見せても『やっぱ厨二病の産物じゃねえかチート野郎』とか『ハイハイ、俺Tueeeeなら間にあってますよっと』なんて言われんのがオチだろ?
――あ? 『実年齢中二設定のクセに高二病拗らせんなメンド臭い』? 『変に予防線張らずにさっさと解説移れよ。話進まねえだろうが』?
…………ハア、分かった分かった。これ以上は焦らさず解説させて頂きやすよっと。
と、その前に――
「――は……?」
――偽の風景を映していた魔法の裏、後方二〇メートルの辺りで、でっぷりした力士体型の赤鬼が所謂『ハトが豆鉄砲~』なマヌケ面晒してやがった。
魔物ってのは階級や種類に関わらず、人間界の生物よりも大型化してるヤツが多い。
これは、身体が小さいと他の魔物の魔力が体内に入り込んだ時、その魔力が体内に充満して、例の魔力同士の干渉で自前の魔力が消し尽される危険があるからだ。
だから、最下級の蟲類でも掌くらいデカかったりするんだが……にしても、このマヌケ、さっき見たヤツよりは小柄だが、それでも縦も横もオレやパーティ連中の倍はある上に分厚い筋肉で覆われてんのに、なんで隠れようなんて思ったんだ?
あんだけゴツイガタイしてりゃ『隠れ潜む』より『目撃者を生かしておかない』ってカンジで追手から逃れてそうにしか見えねえが……?
「が……あが……な、なん……ば、莫迦なッ!? そ、そんな、莫迦な事があるかッ!??!!! ワ、ワシの術が消されるなどとッ!?!!!!」
おお、オオ、やっぱアレだな。
上から目線のクソ野郎を踏み躙んのは爽快だな。
っつうか、『この程度~』だとか言ってたクセに狼狽すんなよみっともねえ。
と、赤い肌に髭面のクソムカつく魔物を睨み付ける。
オレの魔法――その名も《干渉魔法》は、その名の通り狙った何かに干渉できるようになる魔法だ。
……いや、中身空っぽのトートロジーだけで解説終了なんてしねえよ。
しねえけど……実の所、オレ自身もコイツの性能をキチンとは把握できてないんだよな。
だって、仕方ねえだろ?
この魔法の持ち主から変身体や魔法を奪った時はそんな事聞く暇無かったし、そもそも魔物から魔法を奪うって要は殺すって事だから聞き出す暇なんてねえし。
でもまあ、一応分かってる範囲で説明すっと、この魔法を使うには魔法発動に消費する魔力以外にも、干渉に使うエネルギーと干渉する対象が必要になる。
さっきやったのだったら、干渉に使ったエネルギーは振った腕に生じた運動エネルギー――運動量じゃねえよ? ソレだと音とか熱とかになる分のロスが勿体ねえし――で、干渉対象はエンジンとか名乗った排ガス製造機紛いが森に展開してた魔法が当たる。
んで、本来なら空気みたいに直接殴ったところで傷なんてつけられる筈も無い魔法って言う概念そのものを直接破壊した――ってのが事の真相……になんのかな……?
え~っと……ああ、アレだ! 《存在強度》!
あの理屈って、魔力だけじゃなくて他のありとあらゆるものにも適応されるらしいんだが、オレの魔法はソレを削り切ったんだよ!
……見えねえし聞こえねえし嗅げねえし触れねえから、ホントかどうかは断言できねえけど……
まあ要するに、オレの黒炎はなんでもかんでも焼き尽くす太陽神ネームで血涙なアレみたいに、なんでもかんでもぶっ壊せる必殺技的なもんだって事かな。
別に破壊じゃなくて干渉なんだから、もっと撫でるみたいにソフトな出力もできるけど。
――ってオイ、誰だよ、今『なんか《絶対防御》とか《次元切断》とかを彷彿とさせる、まさにいかにもな性能だな』なんて言ったヤツ!?
オレも思ったけど!
でも仕方ねえだろ!?
選ぶ余地なんか無かったんだから!
大体、選ぶ余地あったらもっと別の、炎とか雷とかの分かり易くて使い易そうなヤツ選ぶわ!
……ゲフン、話を戻すが……だから、もし仮に魔法を発動させても干渉用のエネルギーを用意しなければ、黒炎どころか微風の一つだって起きやしねえし、逆に何も狙わずに魔法を使おうとすれば、そもそも魔法が発動しねえから単なる素振りで終わっちまうってワケだ。
一応付け足すと、干渉に使うエネルギーは『自分で直接作ったエネルギー』ならなんでもいいみてえで、運動エネルギーだけじゃなく魔力でも発動できたりするから、『唐突に道端でシャドーやら型稽古やらを始めやがった変人』なんてならずに済ませられたりする。
ついでに、干渉対象への照準についても、距離とか遮蔽物の有無とかに関係無くただ『ソコに在る』って五感なりソナーなり直感なりで認識できさえすれば発動できっから、この魔法がまともに使えるようになってからは一度も不意打ちされた覚えがねえな。
まあ、その照準が曖昧だと魔法の発動時に消費する魔力量が跳ね上がっから、かくれんぼ中の魔物共を全部いっぺんに狙った時は、流石に息切れしそうになった覚えもあるが。




