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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
33/186

33話

 とにかく、こんな格下相手にしか通用しない嘗めプなんて魔界(アッチ)じゃ通用しねえだろ……と思ったトコで『そう言や、この世界のドコソコの子孫だってハナシだから、()()のレベルどころか空気すら知らんか』と思い直した。


 でもま、こんな魔力の無駄遣いができるって事は、触れ込み通りにそれなりの()()()はあるんだろうから油断せず――


『ぬかしおったな、小僧!! ワシこそは大江山が首魁、天下にその名を轟かせる酒呑童子の正統なる後継にして百鬼万魔を率いる鬼共の主、炎燼(エンジン)緋熊(ヒユウ)様なるぞ!! キサマのような下等な餓鬼の分際で何故緋猿(ヒエン)を討てたかは知らんが、我が息子を手に掛けた罪、その身でもって償うがいい!!』


「――は? えん、じん……エンジン? ……比喩? それ、カッコイイつもりなのか?」


 ……思わず聞き返しちまった。


 オホン、ま、まあ、狙い通りにどっかで聞き覚えがあるよーな無いよーなカンジの、()()()()()()()籠り気味のマヌケで威勢の良い口上が放たれたワケだが……ん、んん?

 なんでか知らんが、聞こえてくる声の音源が定まらない。まるで立体音響みたいに別々の場所に設置したマイクから流れてるみてえだ。


 しかも、何故か反響定位(エコーロケーション)が霞んで――いや、それだけじゃない。

 今もコチラに向かってきてるっぽい臭いや物音までも、段々と空気に溶け込んでくみてえに所在をぼやけてさせてきていやがる。

 大方、これも魔法による小細工だろうが……これじゃ、ヤツがドコに居るんだか特定できん。


 ぐぬ……いやさ、巫女さん曰く『ナンとか山のナンタラ』とやらはそれなりに長生きしてる曰く付きのバケモノだってハナシだったから、てっきりプライドの高い――それこそチョットの挑発で隙を見せるバカだと思っとったんだがね……


 いやいや、実際その通り、身隠してるってのにワザワザ挑発に乗ってくれちゃう頭軽い系のナメプ野郎だったワケだがよお……それが、まさか細かい居場所を悟られんようにする程度の注意力を持ち合わせてるとは思わなかったわ。


『どうした? この程度の手妻でもう手詰まりか? グハハハ!! まさしく竜頭蛇尾よな!! それとも、キサマの狐狸が如き卑賎な変化なんぞで我が秘術が破れるとでも思うておったか?  片腹痛いわ!! キサマ、もしやワシを笑い殺しに来たのか? だとしたら、成程、中々の妙手よな!! グフフフ、ガハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!』


 ムヌヌ……鬼種(オニ)が鬼の首でも取ったみてえなコト言いやがって。

 上手くねえんだよ()()が……


 でもま、どうやらナメてたのはオレの方だって事らしい。

 魔界を出てからは心機一転して人間らしい振る舞いを意識してきた……なんてワケじゃねえが、それでもやっぱ脱出してからどっかしらに気の緩みができちまってたようだ。


 あの()()と同類の()()を前に『弱そうだし面倒だし、最少の労力で片付けよう』だなんて、甘過ぎて吐き気がするような手抜きをする余裕、いや、怠慢を見過ごすトコだったんだからな。


 大体、相手が強いか弱いかとか多いか少ないかとか、そんな事で手緩めちまうくらいのマヌケっぷりじゃ、そもそも魔界(アッチ)で生き残れやし無かっただろうってのに……


「……フ、いやいやそうかそうか、フフフフフ、ああ、ああ、ホント全くだな。いや、失礼失礼、手抜いちまって悪かったよ、ハハハハハ――」


 いやホント、面白過ぎだな、実際。


 事もあろうに、魔界(本場)恐さ()も知らないまま人間界(おやま)ボスザル(大将)に登っちまったド三流の上級下位相当(ザコ)なんぞに笑いものにされるとはね。フフフフフ……


「ハハハハハ……ハァ――()()が調子に乗りやがってッ……!!」


 ――いいだろう、御所望通り本腰入れて相手してやろうじゃないか。


 んじゃ早速魔力コネコネ――なんてせずとも、頭にきた分だけ大量の魔力ができあがってたのか、全身の隅々まで魔力が満ちていやがる。我ながらなんとも単純な……

 だがまあ、こんだけあれば人間界(ココ)でも手持ちの魔法(カード)は大抵使えそうだからな、文句なんかありゃしねえさ。


 そんなワケで、()()に殺され掛けてオレヘ憑依した()()から、今のドラゴンチックな変身体と一緒に永久に拝借してやったとある魔法を発動準備。

 つっても、単純に魔力を集中させた右の鉤爪を振り被って、周囲の異常――つまりは魔法を叩き付ける対象へ意識的な照準を合わせるだけだが。



「――ガァアアッ!!!!!!」



 乾坤一擲、全力全開!!


 ……なんて事は勿論無いが、それでも、さっきの和装パーティとか縄文時代の何とかさんとかクマさんとかを相手取った時みたいな加減なんか欠片も交えず右腕を一閃。

 暴風どころか鉤爪の切先から鎌鼬だって起こせるような速度の一振りは、しかして、実際には周囲の小枝や落ち葉を揺らすどころか、風切り音を撒き散らすような事も無かった。


 代わりに――そう、その代わりに、風景の何もかもが()()()で焼き尽くされた。

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