29話
「下らねえ面倒は省かせてもらったが、要するにアンタは隠して欲しかったんだろ? コレで文句ねえんだろうから、さっきの質問に答えてもらおうか?」
「――はっ、あ、や、しょ、承知しましたっ。なっ、何なりと御聞き下さいませっ」
「…………………………」
いや、『御聞き下さいましぇ~』じゃなくて。質問に答えろって言ってんだろうが。
コレはアレか、もっかい言えって事か?
アホな遣り取り挟ませておいて、偉そうに催促してるってワケか?
やっぱコイツ、オレの事ナメてんだろ……
つっても、ココで突っ掛かったら益々話が進まねえし、そもそも貧弱な人間の肉体がオレの容赦ナシのツッコミに耐えられるとは思えん。
ったく、誰だよ、『変身体を解けば話が円滑に進むかも』なんて言ったヤツは……
……仕方ない、ココはコッチが抑えてやるか。不本意だが。
「……『アンタらはどうして襲ってきたんだ?』。ホラ、答えろ」
「は、はいっ。え、え~っと、そ、それは……その……」
なんだか、質問がエラく棒になっちまったけど、コチラの心情的に仕方無かろう。
んな事より、だ。
何故コン巫女ハンはオレの質問に答えへんのや?
アレか、やっぱしナメとんのかワレェ?
ワイの事、アメちゃんハートの甘々チャンとでも思うとりはるんどすか?
――なんてふうには言わねえさ。
さっき変身を解いたり着直したりした時点である程度アタリは付いてたし、そのあからさまに答え難そうな調子で確信できたからな。
要は、オレも魔物の仲間だとでも思ってたんだろ?
確かに、中身はともかく変身体だけを見ればそう勘違いするって事くらい理解できるが……同類扱いに腹が立たねえワケじゃないがな。
まあ、ソレを口にしなかった心遣いってヤツに免じて、今回は大目に見てやるか。
「ハァ……もういい。その態度でなんとなく分かったからな。今の質問は流せ」
「は、はいっ……えっと、あっと……その、申し訳御座いません」
ココで謝んなよ! なんか若干惨めになってくるだろうが!
――っとと、落ち着け落ち着け~……
「――チッ、もういいつってんだ顔上げろ。ハァ……んで、結局アンタらは何が目的でこんなトコにまで来たんだ?」
「は、はい、我々はとある大鬼の退治の任を受けて、この地へとやって参りました」
「ふーん、退治ねえ……」
なるほどなるほど、段々とこの世界の全容ってヤツが見えてきた。
要するに、やっぱココは魔力や魔物なんかの『超常現象が広く認知されている世界』なんだ。
それは連中が魔力についてある程度体系化されてるらしい知識を持ってる事や、コイツらの目的を聞けば――いや、それ以前にオレとの接敵時に何の躊躇いも無く攻撃に移った事を鑑みれば一目瞭然だ。
何故って、ドラゴニュートなオレの姿を見れば、普通は『ば、バケモノーォ!?』とかってなるハズだろ?
こんな時代の日本に仮装を楽しむ文化だの特殊メイクだのなんて存在しねえんだから。
なのに、連中はオレを見付けても、まるで予想通りとか想定の範囲内だってカンジで襲い掛かってきたんだぞ?
コレって要は、連中がオレみたいな超自然的な生き物の存在を知ってたって事だろ。
だから、ココは『超常が認知されてる世界』ってワケだ。
その辺の裏付けは今までの質問でできてたから、コレでほぼほぼ間違いねえだろ。
ん? 『いつも通りの穴だらけなガバガバ理論乙』? 『つらつら言葉並べてりゃ頭良さそうに見えるとでも思ってんのかwww』?
ハハハ、止してくれ。オレがバカだって事は、バカにだって理解できてるさ。
これまで天才の兄さんを傍で見てきて散々思い知らされたからな。
それに、ココがどんな世界かなんて、ホントのトコはどうでもいいんだよ。
オレはこのキューブに移住しに来たワケじゃないんだから、最初の列の戦国時代との違いが見つかればそれだけでも収穫だし、その違いってヤツが元の時代に戻る上での障害になりそうもないって分かれば、それ以上の事には興味無いしな。
さて、ならあとは何を聞こうか……やっぱ、この世界の魔物共について掘り下げるべきか……
「……そう言えば、さっきココで魔物――じゃなくて、え~っと……レイジンヨーマだっけ? んなカンジの、え~っとまあ、デカくて赤い鬼みたいなヤツが居たんだが、ソイツを追ってたのか? この世界にはあんなのがゴロゴロしてんのか?」
「お、大きな、赤鬼、を見たのですか……!? 彼の者は大江山の末裔と目される百鬼の主格の仔にして、齢三百を超える大妖怪なのですよ!? そんな相手に武器も持たず一人で、しかも目視できるほど近付いて、何故……――っ!?!!!!」
なんか言うだけ言って凍り付いちゃったんだけど、巫女さんの言葉は思わず出たって調子のクセに、一応はコチラの求めていた答えになってんだから驚きだ。
この人、なんだかんだ言ってオレなんかより頭良いんじゃ……
え? 『ソイツ(を追ってたの)か、にも、ゴロゴロしてんのか、にも答えてなくね?』だって?
いやいや、『見たのか』って確認するみてえに聞き返してきてるし、その後ろに続く御丁寧な説明文的にも『ソイツ(略)か?』を肯定してるカンジだろ。
しかも、ワザワザ口に出した辺り、高齢なほどレアで強力って扱いらしいから、つまり『あのレベルはゴロゴロしてませんよ』って言いたいワケだ。恐らく、きっと。
……でもまあ、一応確かめとこうか。
これで早とちりだったら恥z――ゲフン、二度手間だし。
それにあの鬼と同じレベルは少なくても『魔物自体はゴロゴロしている』ってんなら問題だ。
最下級の蟲共ですら、映画のグンタイアリみたいに人間を白骨化できちゃうくらいには危険だからな。
――にしても、アレが『大妖怪』ね。
あんなの魔界の連中が言ってた番付じゃ、人間界での弱体化を加味しても精々中級の中位程度が良いトコだろうに……




