22話
…………………………………
……………………………………………………………………
…………………………………………………………………………………………………………
――あれれぇ~? あそこに見えるのはなんだろぉ~?
キューブに入った直後に襲われる感覚の明滅から覚めた直後、僕の胸に去来したのは極めて単純な疑問だ。
前回と違って地上で出入りした僕が立っていたのは、やっぱり変わらないだろうなあと思ってた死屍累々の戦場だった。
うん、まあ、これくらいなら許容範囲ですよ。
天気だって、さっきと同じように気持ち良く晴れ渡ってるし。
ええ、ええ、ワタクシこと黒宮辰巳は温厚なニンゲンですから、この程度は無問題なのです。
嗚呼、静寂と安寧を齎す芳しき鉄と潮の香り……
ん? 『度々妙な反応してるけど……血、好きなの?』だって?
ま、まあ、その……今まで『進行、遭遇、殲滅、休憩』ってのを気が遠くなるくらいサイクルさせられてきたからか、血の匂いがして物音も動く影も無い場所ってのが妙に心を和ませるって言うか……魔界だと屍骸が腐って悪臭撒き散らすって事もないし、それもほっとけば勝手に自壊して魔粒子に還ってくし。
……エッフン、そんな事よりも注目すべきは、まさに『空間や時間を股に掛けるからこそ見付けられた差異』と呼ぶべき何かの存在だ。
いやね、当初の懸念に反して簡単に見付けられた事はまさに僥倖なワケだけれども、その見付けられた物が問題と言うか、者が問題と言いますか……
……ぶっちゃけソレは『自分の身長と同じくらいの長さをした金棒を握る巨大な鬼』でした。
『――ゴギャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!』
なんか、すげく聞き覚えのある怒鳴り声がする。
――ゴブッシャァァァ!!!!!!
なんか、よく聞き慣れた肉が叩き潰される音と、自分以外に何一つ動く物が無くなった戦場で充満していたあの身の安全を連想させる鉄っぽくて塩っぽい匂いがする。
『――グォワオオオオオオオオオオォォォォォオオオオオォォォォォオオオオオオオ!??!!?』
なんか、瞼が剥ぎ取られたみたいにかっ開かれた眼球と、人外チックな長さの犬歯と黄ばんだ乱杭歯を見せびらかして、心地良い低音の断末魔を上げている何かが宙を舞ってる。
―――――――――――――――――――――……………………………………………………
――ハッ!? い、今まで僕は何を……?
確か三度目のキューブ突貫で戦国時代の人間界へ入って、そこで人間界には居ないハズの魔物を見付けて……
……あ~、うん。
どうやら、いつの間にか僕の身体は自動操縦に切り替わっていたらしい。
その証拠に、何故かさっきは五〇メートルくらい離れた場所で焼き鳥串を頬張るみたいに死体の腰握って頭齧ってたハズの鬼が頭だけになっていて、ソレを肌と同じく赤い角を取手代わりに握って持ち上げていた。
「え~っと……なんで……?」
疑問はアレとかソレとかコレとかの諸々の全てに向けてだったけど、当然、この血の海の中に応えてくれるヤツなんて誰も居ない。
「……キ、キサマ、何もn――
――ゴシャッ!!!!!!
なんか、まるでぶっとい筋肉の束に圧された気管から漏れたみたいに低く籠った音が、手元の何かから聞こえたような気がした。
……けど、気付いたら振り抜かれていた黒い腕とキラキラ舞って空気を彩る赤い雫とか粉雪みたいに細々と砕けた欠片とかを見届けてたら、なんかもう、どうでも良くなった。
「――さ~てさて、調査開始と行きますか!」
掌に残ってた角を投げ捨て、空いた手を組んで思いっ切り上に伸び~っとしつつ、晴れやかな気分で行動開――しようとして、視界の端で未だに蠢く生首大の肉塊を発見。
コレって、あの鬼型魔物の爆散した肉体から零れたのかな~? と思った頃には、知らない間に肉食恐竜みたいな骨格と鱗と爪を具えていた足が勝手にストンピングを連打していた。
なんとなく興が乗ってたのか『グッチャグッチャ』なんて粘着音が十回ぐらい繰り返された頃、漸く僕は黒い足を止めた。
すると、恐らくは魔物共通の器官にして心臓部や核とも言える魔臓器らしき肉塊は『~だった』とでも言うべき有様になっていて、その脇に転がってた金棒と一緒にサラサラと消えちゃいましたとさ。
コレでもう、あの鬼が飛んだり跳ねたり再生したり襲ってきたりする事は無いネ♪ 安心アンシン☆ 出オチ乙でせう。
ん? 『ゴキゲンだね……(白目)』、『少しは自重しろよ……』だって?
いや~、御見苦しい所を御見せいたしやした、サーセンサーセン。
でも、仕方ないじゃん。
こんなにも分かり易い《差異》ってヤツを見せ付けてくれたんだから!
テンションだってアガっちゃいますよ!
フヒヒヒャハハハハハ!!




