184話 デウス・エクス・マキ―ナvsタイムリーパー編 その十六
「――とまあ、仕組みはどうあれ要するに超能力者は実在してたってことよ。で、それを研究するって名目で人体実験繰り返してるのが研究所なの」
うん、脳の変異とか強度とか、イロイロと専門用語満載な小難しい説明に加え、その用語を作った研究所の所業についても含めた講義の締めくくりは何とも簡素なものだった。
「へ~。まあ、魔物が居るのに他は居ないなんて断言できるワケねえし、そーゆーモンかね……」
返事ではなく思考を纏める為の独り言を吐き出し、周りに集まった連中へ視線を巡らせる。
話を聞く限り、超能力者ってのは『脳の変異によって超常現象を引き起こせるようになった人間』を指すらしい。
ん~、変異……変異ねえ……
たったそれだけで、魔力も無しにあんな魔法みたいなこと引き起こせるもんなのかね?
ま、原因が分かってるならソレで良いや。
どうせ、確かめる機会なんてこの後幾らでもあるんだし。
「んじゃまあ、行こうか皆の衆」
言ってから、黒炎で押さえ付けた連中の後背、ソコにある手術室の入り口っぽい両開きのドアへと足を向ける。
ついでに喧しいお口を塞ぐ分の黒炎以外は消して、研究所勢力やら共に追従を促す。
魔力ソナーとエコーロケーションでその奥にまだ人が居るのは分かってるからね。
ソイツらから話を聞くのに利用させて貰おうか。
「……えーっと、それって私達も含まれてるのかしら?」
と、メイド服のオッサンから渋い声で女言葉を投げ掛けられた。
う~ん、目的も超能力者についても話が聞けたし、何より一度補足出来たら転移でも召喚でも干渉でも使えば幾らでも対処できそうだから、取り敢えず今の所は用ねーんだが。
まあ、こんなトコへ――ソナーやエコロの反応的に恐らくは地下施設――ワザワザ武装して侵入したくらいだから、用件も済ませずに帰るワケねえか。
「あ? ああ、付いて来たけりゃ付いて来ても良いよ。コッチとしちゃあ、両方の陣営から話聞いてからどう始末するか考えるってだけだし」
さて――っと、コラコラ。
「「――――!?」」
「なあ、今言ったよな。『どう始末するか考える』ってさ。勝手な真似するなよな」
黒炎から解放されてなんか勘違いでもしてしまったらしい黒白ツインズを干渉魔法でもう一回床に押さえ付ける。
テメエら今なんかしようとしてたよな?
さっきの口振りから察するにサイコキネシストなのかね?
「ったく……まあ、来たくねえならそれでも良いさ。用があったらコッチから呼び出すだけだし」
溜息を吐きながらサッサと視線を切って奥の入口へと進む。
その間、研究所側もメイド側も超能力や銃弾どころか言葉や身動ぎすら発さずにオレを見送ってくれた。
お行儀のお宜しいコトで。
ハイ、おーぷんざどあ~。
「――――ッ!??!!! ナ、何だキサマッ!? その恰好はなんだッ!? いやッ、それ以前にどうやって侵入したッ!? あの無能共は何をしているッ!?」
おおう、マッドサイエンティストとか人体実験とか聞いてたからロクでもねえ野郎が控えてるだろうとは思ってたけど、ココまでドンピシャだと笑えてくるな。
反吐が出る。
「――ハァ……」
うん、責任者が居るんならソイツ捕まえて話聞こうと思ってたけど、これなら話聞くまでも無かったな。
この自分を神かなんかと勘違いして、初対面だろうと構わず他人を見下してくるって時点で、伯父さんや伯母さんや光咲にとって害にしかならなさそうだし。
ってなワケで、さっさとオハナシする姿勢を整えさせる。
干渉干渉。
「――――プゲッ!?」
「まったく、傍から見りゃ不法侵入された被害者なのに、その態度がもう盗人猛々しい加害者のソレなんだわ。どうせ『無防備な相手が悪い』とか言って責任逃れの自己弁護するクズなんだろ? すっかり見慣れちまったよそのツラ」
さっきの兵隊や超能力者達のように病室染みたつるつる床に圧し付け、ふと視線を上げると眼鏡の白髪白衣の傍に居た手術着の女児が驚愕の表情で俺と白眼鏡を交互に見遣っていた。
「あ~……もしかして、君が例の捕まってる人達ってヤツか?」
「――――!?」
声を掛けるとコクコクと赤べこのように肯定してくれたが……
さて、どうしようかコレ?
こんな怯えられてると視線を向けることすら可哀そうに思えるし、そもそもオレは魔法が使えたり魔力が使えるってだけで社会的にはただの中学生だ。
ココから連れ出したとして、その後の生活をホショーして上げることなんてできないし、そもそもあのメイドオッサンの話を信じるならこんな境遇の人が何人も居るって話だし……
「…………ハァ、はい集合っと」
天を仰ぎながら空間魔法を発動。室内の鬱陶しい機械類やら薬品棚やらと入れ替えるようにさっきのエレベーター前フロアに居た連中を陣営関係無く召喚。
助けに来たと言うなら押し付ければ良いし、研究所側にも用ができたトコだったしってな。
「さてさて、見ての通り話は済んだ。よってさっき言った始末に掛ろうと思う」
ぎっしりとまでは言わないが、どうにも窮屈に見える人口密度の中心で手を叩いて注目を集め――る必要も無かったか。
黒炎の口枷を付けたまんまな研究所陣営は元より、メイドオッサン側もざわつきがすぐに収まって視線が向けられた。
うへ~。
思わず向けられた視線全てを潰してやりたくなったけど我慢我慢。
「え~……取り敢えず、この施設に捕まってるって言う監禁被害者達はメイドオッサン達に任せる。最初からソッチには用ねえし。なんで、今連れて来てやるからサッサと引き取って行くよーに」
「いや、ちょっと待って――」
向けられる視線の数に震えそうになる喉をなんとか動かし切ると、案の定メイドオッサンが声を上げてきた。
ま、聞く気はねえけど。
「はい、待ちません」
言いながら召喚魔法発動。
対象は単純に『この施設内に囚われてる者』。
するとまあ出るわ出るわ。
総勢十三人もの手術着の老若男女が未だに潰れたお手々に呻いてる連中をクッションにドサドサと。
「じゃ、コイツら連れてって。オレじゃあ面倒見切れねえからな」
「…………分かったわ。で、そこで燃えてる(?)研究所の職員達についてはどうするつもりなのかしら?」
何やら諦めたかのような声音の同意と共に、恐らくはさっき聞こうとしていたであろう質問が投げられてきた。何をそんな決まり切ったコトを……
「は? んなの処分するに決まってるじゃん。馬鹿馬鹿しい」
ノータイムで言い切ると、メイドオッサンと愉快な仲間達が間抜けな顔で絶句しちゃった。
そんな驚くことかね?
「いや、だって、人が平々凡々に過ごしてる街で拉致監禁に殺人傷害やりたい放題な犯罪集団なんか居て欲しくないだろ? こんな当たり前の理由なのにそんな驚かれる方が心外だわ」
なんて、ワザワザ説明してやったってのに、返って来たのは有り得ないものを見るような視線だった。
いやまあ、変身状態なのもあるんだろうが、そんな『ツッコミどころしかねえ!?』みてえな顔しなくても……