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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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182話 DEMvsタイムリーパー編 その十四

「――ハッ。折角設置した試作機に掛ったのがたったの一人だけとはな。まあ、転移自体は成功しているのだから、試験運用としては及第点か。オイ、S9t!」


 完全武装の狩猟部隊に取り囲まれ、その内の猟犬(ハウンド)二人掛かりで取り押さえられていると、頭の上から聞き覚えのある濁声が降ってきた。


 ああクソ。

 成功だが最低の気分だ畜生め。


 転移装置を通過後、皆の目を盗んで単身で引き返しつつメッセを書き書き。

 単独でこの研究所の首魁と思われる人物の元へ転移し、傍に控えているであろう高強度(ストレング)サイコメトラー(ありすちゃん)を離反させる――って作戦を、ループ知識から導かれた成功の確証も交えてなるべく簡潔な文章に纏め、最下層への突入タイミング含めたその他諸々の微調整も加えて送信。

 然る後に転移装置を作動させて――今に至るって訳だが。


「すぐにこのガキの意識を浚って上の不埒な侵入者共を丸裸にしろ! 貴様らもだ! 何をぼさっとしている!? いつまでハッカーを野放しにするつもりだ!? さっさと制御を取り戻せ! この鬱陶しい目隠しを取り払え! 今すぐにだ!」


 ハッ、ケツに火が着いてあの鬱陶しい余裕が消し飛んでやがる。

 実に小物らしい有様だな。


 そして、ギャーギャー叫ぶゲス眼鏡に圧されて、ありすちゃんが俺の額に触れた。


「……――っ」


 いよっし!

 伝わった!

 これでまたありすちゃんにマスターの能力をジャミングされずに済む!

 それだけで、あのゲスとそれに媚び諂うクソ犬共の制圧が楽になる。


 とは言え、まだ高強度(ストレング)超能力者である狩人(ハンター)五人をどうにかしねえとだが……

 まあ、さっき送ったメッセの通り、午前一時丁度にマスター達が来てくれれば、俺の転倒はマスター達じゃなくコイツらの足を引っ張ってくれるだろうから、上手く立ち回って――


『……じじょうはわかった。じかんあるし、はなし……つうじそうなひとには、こえかけてみる』


 ……、…………? ………………!

 マジか!?

 流石ありすちゃん!

 愛してるぜ(notロリコン)。


 ……冗談はさて置き。

 転移装置を起動させる直前に確認した時には、午前一時まで残り約十分。

 その間にありすちゃんが懐柔工作に動いてくれるってんなら――いや、待て。

 そんな真似して大丈夫か?


 ありすちゃんの場合はサイコメトリーで俺の意識を直接把握できた上に、この子自身に研究所への忠誠心が薄かったみたいだから味方に付いてくれたが、他の連中が同じようにすんなりいくか?


「――オイ!! 待――グッ!?」


「動くな!!」


「大人しくしていろ!!」


「ああ、煩い煩い!! オイ! そいつが次に無駄口を叩いたら顎を吹き飛ばしてやれ! 息さえあれば人質にはなるからな!」


 俺を囲ませた人垣の奥へと戻ろうとするゲス野郎に向けて――と見せ掛けて、それに付き従わされているありすちゃんへと警告を伝えようとしたんだが……

 上手く伝わったか?

 下手したら、午前一時を待たずにループしないといけなくなるんじゃ――


『だいじょうぶ……だめそうなら、あんじかけて……へやのすみに、かくれてもらう』


 ……わぁ、ょぅじょたのもしぃ~。

 なんつーか、いざって時の即断即決って性差でるよね。

 うっかり電話相談一本で違和感察してマスターから研究所潜入作戦聞き出して電撃参戦した先輩然り。

 ループ前の最初の接敵の頃からいの一番に一番槍掻っ攫ってくリンさん然り。

 そう言や、五人の狩人(ハンター)の内に三人も女性居るもんね。

 戦闘部隊の主力の過半数が女性とかラノベかよ。

 ほんとに現実か?

 いや、超能力がある世界で今更だが……


 なんて、冷たい床の上で安堵するやら戦慄するやらしていると、後ろ手に回された両手の親指が結束バンドで縛られ、


「オラ、立て!」


「抵抗するなよ。風穴空けられたくなけりゃな」


 わ~、ハリウッドのアクション映画で主役に一瞬で伸される雑魚脇役っぽい台詞。

 まさか実際に聞くことになるなんてなー……

 いや、それ言うなら俺も捕らわれのヒロインみたいなポジションになっちまってるけれども。

 はぁ……

 儘ならねえな~。


 とは言え、ここまでの流れは計画通り。

 地上や地下への攻略中にハンス氏がカメラやエレベーターのハッキングをしておいてくれたおかげで、コイツらにとっての安全地帯である最下層は孤立無援状態。

 そこへ、非戦闘員の高校生がたった一人で転移してくれば情報収集に利用されると踏んでたし、実際に前回のループで実証済み。

 案の定、今回も殺されずにありすちゃんと接触できた。


 まあ本当なら、前回同様にマスターの能力へのジャミングを止めて貰うだけの消極的協力が取り付けられるだけで良かったんだが、何やら今回は積極的に動いてくれるらしい点が不安要素ではあるか。


 で、肝心の午前一時対策だが、それを考える上で無視できないのはどのルートでも必ず確認できる現象が二点あること。


 まずは俺のおマヌケさんな転倒。

 そして、その直後の銃撃。

 この二つは今までのルート全てで必ず引き起こされている。

 いるが、そこで重要なのは『二番目の銃撃で撃たれる人間までは共通していない』って所だ。


 そう、つまりは今回のようにマスター達と離れた地点に居れば、俺の転倒がマスター達の行動を阻害することは無く、逆に研究所側に隙を作ることもできるかもしれない。


 勿論、これは検証の一歩に過ぎないんだから、失敗で終わる可能性の方が高いだろう。


 だが、ここで正解を引ければ、あとはこの研究所の所長だっつうあのゲス眼鏡を抑えてゲームセットだ。

 永かった一連のループにも漸くホイッスルが――って訳だ。


 さてさて、あとは手筈通り午前一時丁度にマスター達がこの最下層にまで辿り着ければ――


 研究所側にとっての襲撃者が必ず現れるであろうエレベーター前の通路にまで引き連れられながら、緊張で顔を強張らせた猟犬(ハウンド)共に内心でほくそ笑んでいると、元々少なかった残り時間は弾丸のように過ぎ去ってあっと言う間に午前一時を迎えた。


 直後、ポーンと間の抜けた効果音と共にエレベーターがこの最下層へと到達する。


「「「――――ッ!?」」」


 狼狽は確かにあったが、それでも高い練度からすぐさま銃口がエレベーターへと向けられた。


 そして、









                                          」






 ――――――――、――――な、にが……起きた……?


 ――――なん、だ……?

 ()()は?


 …………気が付いた時には、全てが手遅れだった。


 リンさんの転移によるスタングレネードの投下とそれに続くマスター達の奇襲によって制圧される筈だったエレベーター前フロアは、全身を黒い鱗で覆われた恐竜面の悪魔に席巻されていた。

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