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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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179話 DEMvsタイムリーパー編 その十一

「――ええ、分かったわ。ありがとねコースケ君」


「いえ、此方こそ。ではまた明日、同じ時間に連絡します」


 さて――これで研究所拠点への潜入ルートへのフラグは立ったし、あとは潜入に備えての買い物かな。


 まず駅前公園の公衆電話から一報を入れ、マスターの方で研究所の盗聴対策を整えて貰ってから改めて俺のスマホへ連絡して貰い、雑踏の中に紛れることで俺側の盗聴対策としつつ、自己紹介から事のあらましを説明して協力を取り付ける。

 これでマスター主導の研究所潜入計画が始動するので、あとは俺自身の準備に移れる。


 今までは潜入用の衣装として、動き易さと隠密性を考えて光沢の無い真っ黒なスポーツウェアの上下を揃えるだけだったが、今回は転倒対策になりそうな靴とかも見てみると良いかもしれない。


 そう考えて、駅近くのスポーツ用品店で幾度も買ってきたスポーツウェアを買い物籠に入れつつ、靴売り場へ。


「……いやまあ、あったとしても気休めにしかならねえだろうけどさ」


 うん、まあ、知ってた。

 靴新調した所で何の対策にもならないだろうな~、なんてことは。


 いや別に、せっかく来た靴売り場で『グリップの効きそうで夜闇に紛れそうな黒いやつ』とかねえかなーと物色して、見付けられたのが野球のスパイクだけだった所為で不貞腐れてるとかじゃねえですよ?

 他の靴は大抵反射板付きで夜間の運動時でも目立つような造りのばっかだったりして『これさえなければ……』なんて文句が溜まってきてたわけでもねーのです、はい。


 まあ実際、靴の種類に関わらず、履き慣れてない靴で生死の懸かった戦場を進むのは逆に危ないよね、とも思うし。

 唯一反射板の無いスパイクは野球用ってこともあって金属スパイクだから、肝心の研究所拠点内の床じゃまともなグリップ性能なんて期待できねえし。


 いや、その履き慣れた靴で散々スッ転んで比喩で無く醜態晒しまくってたわけだし、計画実行は五月四日の夜十時から。

 今からなら丸一日以上は時間もあるんだし、この時間で履き慣らしていけば良いだけか?


「ならいっそ登山靴とかで探す方が良いのか? それともミリタリーショップか?」


 そんな風に考えこみながら歩いてた所為か、


「早く早く――わっ!?」


「――っと」


 棚の陰から飛び出してきた小柄な影に反応が遅れた。


 幸いにして衝突する前に身を引けたが、その所為で目の前の女の子の倒れかけた身体を支えることはできなかった。


「危――――」


「――っと、大丈夫? 光咲」


 中途半端に伸ばそうとした手の先で、まるで瞬間移動でもしたかのように突然現れた少年が、女の子と同じくらいの背丈しかないにも関わらず、一切体勢を崩すことなくラクラクとその身体を支えて見せていた。


「ありがと、辰兄さん」


「どういたしまして。其方も怪我はありませんか?」


 と、恐らくは兄妹であろう二人が笑顔を交わし合ってから、兄の方が改めてこちらに顔を向けてきたが――ッ……


「あ、ああ。大丈夫。悪かった、考え事をしてて注意が散漫になってた」


 明らかに年下の、恐らくは中学一年生か小学校高学年としか思えないような外見なのに、思わず謝罪と自己弁護が口を突いて出た。それだけの凄みが、強要するだけの圧が、その仮面のような笑顔から覗く全く笑っていない視線から放たれていた。


「いえいえ、此方もはしゃぎ過ぎてましたんで、お互い様です」


「ちょっと辰兄さんっ。もう……すいませんでした、失礼しますね」


 思わず後退りそうになる身体をどうにか押さえ付けていると、やたらと礼儀正しい兄妹の内、兄の方は軽い会釈を、妹の方はぺこりとお辞儀を返してきてから店の奥へと進んで行った。


「――――ぷは、…………なんだったんだ、アレ……?」


 知らず知らずの内に追っていた少年の後姿が棚の奥へと消えて行ったところで、気付かない内に詰めていた息をやっと吐けた。


 いや、俺だって何度もループ繰り返す内に結構な荒事の場に巻き込まれる場面もあったし、それで多少は肝も太くなったと思ってたんだが……


「……どっかの組長の御曹司とかか? 或いは空手の全国大会で優勝でもしてんのか? まさか、超能力者だったりするのか?」


 呆然と呟きながらも、はたと目的を思い出して頭を振る。


 些か衝撃的な出会いだったことは否定しないが、そんなことよりもはるかに大事なことが今の俺にはあるんだ。こんなところで時間を無駄になんかしてられない。


 気持ちを切り替える意味も込めて店を後にする。

 いや、別にビビってるって訳じゃねーからね?

 ここには良いカンジの靴が無いってだけだから。


 そうして向かった別の店でも結局は良い靴を見付けられないまま――翌日の夜九時。

 マスターからの連絡を受けて合流し、主観累計五十回を超える研究所潜入を開始した。


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