178話 DEMvsタイムリーパー編 その十
「――だーッ、クソッ!! また失敗か……」
五月三日の朝九時半。
自宅の玄関で今まさにスマホをポケットに仕舞い込んだ直後の時点へループし、到着早々に頭を掻き毟りながら吐き捨てるが苛立ちは一向に晴れない。
当然だ。
今ので|超能力者解放チャレンジ《タイムリープ》は記念すべき累計五〇〇回目。
それだけ繰り返しても、『誰一人欠けない完全勝利』どころか、まず最低条件であるところの『研究所勢力の撃退』すらできていないんだから。
「クソッ……これだけやって未だ攻略チャートすら立てられないとか、無理ゲーにもほどがある……投げる気はサラサラねえが」
いや、一応の仮チャートは何度か立てたんだが、最終的に全部破棄させられたんだよな。
どのルートを辿っても、ある程度進めた時点で必ず誰かしらの犠牲者が出るから。
具体的には、ゴールデンウィーク最終日の五月五日。
その早朝と言うか深夜と言うかな午前一時時点で、必ず死人が出る。
まるで、運命か何かの強制力で決まっているかのように。
まあ、そもそもその時刻まで辿り着けるループが数える程度しかないし、今居る時点にまで戻ってくる機会自体も致命的な失敗を犯した場合にだけだが。
それでその『致命的な失敗』計九回の具体的な内訳としては、内五回は俺自身が手足を吹っ飛ばされたり、撃たれたりして致命傷を負ってループを余儀なくされた。
勿論『五月五日の午前一時』にまで辿り着けずに重傷でやり直しってのが殆どだったから、今更その五回なんかどうでも良い。
そう言えない他四回こそが問題で、マスターにリンさんにありすちゃん……そして、先輩がそれぞれ一回ずつ、それも俺の目の前で……
……言い訳をするなら、先輩が絡んできたループはついさっきまで居た一回だけで、そもそも先輩をこの件に巻き込む気なんて無かった。
その為に先輩への『五月四日の待ち合わせのキャンセル』の連絡はいつもマスター経由で頼んでたんだが、前回のループではマスターがミスったのか、或いは先輩がマスターを問い詰めたのか研究所攻略作戦の現場に現れて、それで――
「…………クソッ」
ああ、クソッ。
今思い返しても腹が立つ。
ホントに最初の、ループを始める直前と同じような状況になって、また庇われた。
またあんな顔をさせちまった。
また『ごめんね』なんて言わせちまった。
先輩は一ミリも悪くないのに。
悪くないどころか、義務も責任も無いのに。
クソがッッッ!!!!!!
「――――フーッ…………取り合ず、もう一度状況を確認するか……」
わざと口に出すことで多少なりとも気持ちを落ち着けさせながらスマホを取り出し、カレンダーではなくメモ帳を起動した。
そこにはこれまでのループで得た情報が箇条書きでびっしりと書き起こしてある。
こうして振り返って状況整理するのに使えると思ってやったが、ループ時刻ミスるとメモ全部消えたりするから、その辺の注意は必要だ。
実際、ありすちゃんが目の前で――って場面でループした時は気が動転し過ぎて朝九時丁度に戻った所為で、メモどころかカレンダーまで真っ新になって随分凹まされたし。
逆に先輩の時は滅茶苦茶に怒鳴り散らしたくなるくらいハラワタ煮え繰り返ってたのに、頭の中は妙にスッキリしてたんだよな……
……自己分析は後にして、それよりもこれからについてだ。
まずは、今回の一連のループ攻略に於けるターニングポイントの確認から。
一つ目は最初のループでも踏んだ『喫茶店バンジョウへの来店』。
このルートを選ぶと確定で研究所からの襲撃を受けて拉致られる。
ループ前の待ち合わせや最初のループと同じように。
しかも、マスターの超能力を相殺できるありすちゃんに加えて狩猟部隊の精鋭が攻めて来るから、どう頑張っても回避、反撃は不可。
確実にループを強いられるバッドエンドルートだ。
まあ、その最初のループでマスターの連絡先を手に入れられたお陰で回避自体は簡単だし、連絡を入れてからバンジョウへ向かうと狩猟部隊の逆追跡イベントが発生して、滅茶スムーズに研究所の拠点への襲撃、拉致被害者救出作戦に繋げられるけど。
しかしながら、その研究所への反抗計画にもターニングポイントが存在する。
いや、した。
それはズバリ『ありすちゃんから得た研究所拠点の情報をマスター達反抗勢力に伝える』か否か。
結論から言うと、これをすると何故か反抗作戦中に裏切り者が出て計画を潰され、反抗勢力の生存者達と一緒に捕まるか、後ろから撃たれて致命傷を負いループを強要される。
しかも、不可解なことにループを駆使してスパイを見付けても更に別の裏切り者が出てきて必ず計画が頓挫する。
うん、訳が分からない。
で、訳が分からない事象には超能力が絡んでると決め付けてループを繰り返して探ってみると、その当てずっぽは大当たり。
なんと、研究所勢力には幽体離脱して特定条件を満たした他者の肉体に乗り移る能力者が居た。
で、その能力の対象条件ってのが『その憑依能力者GA
名前を知っている女性』のみらしくて、これが分かるまでは散々手を焼かされた。
ありすちゃんのくれた情報にも無かったから、恐らくは研究所側の切り札的能力者だったんだろうな。
ただ、最初にも過去形にした通り、居ると分かってさえいれば幾らでも対策できる。
反抗勢力を男女の二組に分けて、男組が先行して潜入。
俺のループ情報から憑依能力者の元まで到達して無力化し、女子組が潜入して合流。
この流れで始めればもう怖くない。
そう思って始めた憑依能力者攻略作戦の初回でマスターを男組に加えたら、何故かマスターが憑依されかかって頭抱えたりもしたけど。
まあ、全ての超能力が脳ミソから出力されるものである以上、肉体の性差よりもの脳の性差で条件判定があるってのはまあ納得ではあるけど。
とまあ、そんなこんなで研究所の切り札を潰しつつ作戦を進行させると時刻は午前一時に迫るわけだが、その『午前一時到達』がある種のターニングポイントになってるのかも知れない。
『かも知れない』ってのは、未だに確証が取れないからだ。
だって、どう考えてもおかしいだろ?
午前一時到達時点で何故か必ず俺は躓いて体勢を崩し、それをフォローしようとした先輩やマスター、リンさんやありすちゃんが、或いはフォローが間に合わずに俺自身が、不意打ちの銃撃を受けるってんだから。
それも計九回、午前一時になると必ず、だ。
いやホント、なんであんな何も無い通路でいきなりスッ転ぶんだ?
運命論?
未来は訪れる前に既に決まってるって?
んなバカな。
それなら今までの遣りたい放題タイムリープなんかできるわけねえじゃん。
とすれば、何かしら見落としている要素があって、それの所為でやられてると考えるべきだ。
……まあ、十中八九ありすちゃんの知らない研究所側の超能力者の仕業だとは思うけど。
ただ、その場合はまた憑依能力者の時みたく一からの捜索になるから、またループが嵩むことになるな……
「まあ、今更か」
もう一度声に出して気持ちを切り替え、家を出る。
また検証ターンになるから、使えそうなものを色々見繕う必要があるし、マスターへの連絡に足が付かないように公衆電話も使いたいし。
そんなわけで、今回のループも駅前へのお出かけから始まるのだった。