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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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177話 DEMvsタイムリーパー編 その九

「これの強度(ストレング)ならN6kからでさえも情報が取得できるだろうが、面倒なことに『意識を読み取る』と言う能力の特性上、意識の無い相手――即ち気絶している者や非生物には使えない、謂わば限定的なサイコメトリー能力でね。故に君を覚醒させたわけだ。まあ、S9tは元々対人戦闘での運用を想定して開発を施した検体であるからして――」


 外道共による人体実験の被験者――そのイメージを忠実に再現したかのような小さ過ぎる人影の登場に、増々もってゲス野郎共への怒りと嫌悪が増すが、俺には先輩やリンさんみたいにこの拘束を振り払えるような能力は無い。

 っつーか、まともな神経してたらあんな嫌らしい笑みを浮かべながら子供撫でるとか有り得ねえだろ。

 幼児性愛者の加虐趣味者かよ。

 お巡りさん、コイツです。


 グダグダ汚物を垂れ流す横顔を噛まされた革製の猿轡を思い切り噛み締めながら睨み付けてやると、視線を向け直してきたクソゲスは愉快そうに声を上げやがった。

 フ〇ック!!!!!!


「――ハッハッハ!! ああ、君もアレか。人道主義を掲げて人類の進歩を阻む偽善者の類か。数多の犠牲の上に成り立つ文明技術を享受しておきながら、実際に手を汚す覚悟を持たないどころか口先だけの否定をするだけ! いざ普及すれば何食わぬ顔で貪る豚共! ああ、汚らわしい鬱陶しい! 全く以って下らない」


 うーわ、出たよこの手のクズの自己弁護超理論。

 何を言おうが、何を考えていようが、テメエがヘラヘラ嗤いながら他者を踏み躙れるクズだってことに変わりねえだろうが。

 ああ、汚らわしい鬱陶しい。

 全く以って下らない。


「さて、S9t。まずはこいつから浚え。取得情報はいつも通り()()()に流せ」


「……は、い」


 ゲスの命令を受けて茫洋と虚空を彷徨うようだった瞳が俺に照準を合わせてきたが、そのたどたどしい歩みを見せられてしまえば、超能力者に迫られる危機感なんてゴミ共への怒りですぐに塗り潰された。


 実物を見てはっきりした。

 『追い払う』だなんて甘い考え、こいつ等には――研究所の連中には通用しないし、それで済ますだなんて情けを掛けてやる価値も無いんだってことが。


 ただ、この怒りが目の前の傷だらけの子を怯えさせたら本末転倒だ。

 今から内心全部読み取られるんだろうが、せめて表情くらいは取り繕わねば。


 そう思って、食いしばった猿轡を噛み締めて感情を抑えつつ、なんとか笑顔を作って――いや、何故そこでヒく?

 なんか微妙に顔引き攣ってるし、さっきまでの感情乏しい系無表情キャラはどこ行ったよ?


「ハ、この局面でそんなふざけた手段で逃げられるとでも? S9t」


「……はい」


 いやふざけてねえよゲス野郎。

 ちびっ子も何微妙に意を決した風なんだよ。

 そんなに俺の面おかしいか?

 福笑いじゃねえんだぞこの野郎。


 などと思いつつも、まあ猿轡越しにムームー言ったとこで意味ねえんで我慢我慢。


 そして、検体番号的な呼び名のちびっ子が俺の頬に触れた。


「……――っ」


 番号呼びのちびっ子から微かに息を呑む音が聞こえた。

 その様子を見る限り、恐らくは他人の意識を読み取るってのは愉快なことじゃねーんだろう。

 まあ、読み取られた側に苦痛も無ければ、そもそも『覗かれた』って感覚も無いのは、この状況的には助かる。

 読み取りで死ぬほどの苦痛を受けてたりしたら、いざって時に動けなくなりかねねえし。


「S9t」


「……――は、い」


 ……おい、ゲス野郎。

 ちびっ子の足元が覚束ねえんだが?

 こんな消耗すること強要しといて何だそのでけえ態度は?

 死ね。


 と、やること成すこと一挙手一投足が気に入らないクソムカつくゲス野郎への呪詛が沸き上がる頭の中に、


『……にげて』


 弱々しい、なのにハッキリと聞こえる声が響き渡った。


「――――!?」


 一瞬ちびっ子の方に向き掛けた視線を、強引にゲス野郎へと固定して睨み続ける。

 俺の態度から何かを感じ取られて、ちびっ子の方に飛び火したら目も当てられないからな。


『……おにーさんが、しりたいこと……おくる、から……いますぐ、たいむりーぷして……』


 やっぱこれ、ちびっ子のテレパシーか?

 読み取り能力は触ってないとできないのに、テレパシーは自由って……

 いや、マスターと同格の超能力者って評価は伊達じゃないってことか……?


『あと……ちびっ子、は……やめて……わたし、は……ありす…………S9tでも、ちびっ子でも……ない』


 なんと、微妙なお年頃で御座ったか……

 ではなく、このテレパシーを受信した直後、


「――――ッッッ!??!!!」


 頭が割れるかと思うような特大の衝撃と同時に、膨大な量の情景や会話が頭の中を突き抜けて、その膨大な量の記憶が瞼の裏へと焼き付けられた。


「――ッ、――ッ、――ッ――――……」


 込み上げてくる吐き気や眩暈を堪えるべく呼吸を繰り返して苦悶の嵐をやり過ごす。


 そうして、チカチカと点滅する視界にまたゲスと小さなテレパシストの姿が戻ってくる頃には、送られてきた記憶にこの研究所に関するあらゆる情報が網羅されていたことも理解できた。


「――さて、次だ。準備しろS9t」


「……はい」


 情報の抜出が終わったからか、ゲスの意識が俺からマスターの方へ移っていた。

 これなら、タイムリープする隙は十分にあるだろう。


 幸い――と言うより、連中は俺を起こす前に能力診断を行って俺の超能力が『ごく小規模なテレパシー能力』であると決め付けていたが故の油断なんだが……

 まあ、そのテレパシー対象がまさか『過去の自分』限定だなんて普通は思わないだろうから仕方無いねマヌケが。


 おかげで研究所お手製の超能力抑制装置、通称《拘束装置(リミッター)》を使われることすらなかったのは僥倖だった。

 これを使われてたら、タイムリープでの脱出も叶わずに詰んでたとこだ。


 密かに胸を撫で下ろしつつ、タイムリープの発動に取り掛かる。

 戻る地点は……まあ、無難に最初と同じく五月三日の朝九時、外出直前のタイミングで良いか。

 そこからやり直せば研究所の襲撃を回避するのも、逆に撃退してやることだってできるだろう。


 ってなワケで、発動――する直前、ゲス野郎の死角から此方へと視線を飛ばしてきた『ありす』と目が合った。


『…………ばいばい』


 ……………………、ハァ――……


 ああ、クソ。

 そうだよな。

 何度だってやり直しができるってんなら、理論上最高値ってやつを目指すべきだよな。

 これはゲームじゃなく現実で、秤に乗ってんのは人の命や幸福なんだから。

 それに、受けた恩を返さないってのも目覚めが悪いし。


「――――」


 どこか寂し気な少女を多少なりとも励ませるように頷き返して、タイムリープを発動した。


 目指すは、今居る研究所の日本支部に囚われた超能力者達の解放。

 その過程で連中を完膚なきまでに叩きのめせば、先輩やマスター、リンさんへの襲撃も防げるだろう。


 そんな腹積もりでいた俺が見積もりの甘さを後悔するのは、今回のタイムリープから実に十二時間後のことだった。

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