176話 DEMvsタイムリーパー編 その八
――――意、識が……
「――、」
――――意識が、戻っ――
「――――、――!!!!!!」
いやなんだこれェッ!??!!!
何も見えない喋れない動けないッ!??!!!
「――――!! ――――!!!!!!」
目隠しをされて何も見えないッ!!
これ猿轡かッ!?
手足どころか腰も胴も頭でさえも縛られてるッ!?
なんだ椅子か!?
電気椅子なのか!?
いやいや、落ち着け落ち着け――こんなのは何ともない。
こんなのは母親に『言う通りに金を稼げ』と罵倒されながら父親に首を締め上げられた時に比べればなんてこと無い。
こんなのは親友だと思ってた相手にカッターで腹を刺された時に比べればなんてこと無い。
大丈夫、ダイジョ~ブ……
……いやまあ、気分的には多少落ち着いたけど、一ミリも大丈夫じゃねえなコレ。
最低最悪が最悪になったってだけで何処にも救いがねえよ。
でもまあ、多少冷静になれたおかげで状況が推察できた。
ついさっきの衝撃と意識の暗転からして、俺は路上で襲われて拉致されたってとこだろう。
犯人?
心当たりからして研究所の連中ぐらいしか無いし、今も痛む背中に受けた二発の針みたいなのがテーザーガンならほぼ間違い無いだろう。
前のループで色々あったから調達する為に軽く調べたことがあるんだが、海外の会社の社名がそのまま名前になってるこの射出型スタンガンは、その構造上銃刀法に引っ掛かる所為でまともなルートじゃ手に入らないし、普通の拳銃より値も張る。
そもそも最初から高校生一人を攫うつもりだったなら、バンと頭数揃える方が金も手間も掛からない――って前提で頭を回せば答えも見えてくる。
犯人は『日本じゃ手に入れるのも難しい武器で不意打ちしてでも反撃を封じるつもりだった誘拐犯』ってなり、その誘拐犯は反撃を想定している――更に言えばその反撃が致命傷になりうることを警戒しているとも考えられる。単なる高校生の反撃が、だ。
つまりは超能力者への対策を講じての犯行。
超能力者を知っていて、海外製の違法な武器(銃器は大体違反だけど)を日本に持ち込めて、それを他人様に向けて躊躇なく振るえる無法者……
うん、世界中でご活躍だって言う研究所が犯人で間違い無いやろ。
「――目が覚めたかね」
おやおや、予想通りのクソ野郎のご登場だよ。
ついでに答え合わせもしとこうか? いや、喋れないけれども。
「――――!! ――――!!」
「ハハ、流石にティーンエイジャーは活力に満ち溢れているな。丸二日も眠りっぱなしだったと言うのに羨ましい限りだよ、少年」
椅子に革ベルトか何かで固定されてるっぽい全身を暴れさせながら『〇〇ね!! クソ野郎!!』なんて口汚く罵ってやるも、目の前に居るっぽいオッサンどころか椅子の方すらビクともしない。
いや、この椅子頑丈過ぎだろ。通りで座り心地最悪なわけだ。
ケツも背凭れも堅いし冷たいし、そもそも暴れても揺れすらしないしで、岩にでも括りつけられてる気分だ。
「――――!!!!!! ――――!!!!!!」
「まあそう焦るな。今目隠しも外してやるから――オイ」
最後の呼び掛けは、俺に向けられたわけじゃなさそうだ。
そんな感覚を裏付けるように正面に居る誰かはその場から動かず、右後ろの方から気配が近付いてきた。
その気配は俺の後頭部の辺りで何やらゴソゴソとやり出して――
「――――!!!!!! ――、――――」
絶句、した。
「――、――――!!!!!! ――――!!!!!! ――――!!!!!!」
幾ら声を上げても明確な言葉にならない。
だから――って訳だけじゃないんだろうが、恐らくは俺と同じように拘束椅子に捕らわれている先輩とネルケさんとリンさんには届かなかった。
「シィ~、フフ……まだ全員お休み中だ。ああ、一応言っておくがN6kの――今はネルケだったか? 奴の見せる幻覚じゃないぞ。この通り――」
「――ッッッ!!!!!!」
正面に立つ白髪白髭白衣の眼鏡ゲス野郎が徐に懐から取り出した拳銃をマスターの方へと向けようとした時点で反射的に声が出たが、
「……本物だ」
当然のように、その制止は無視された。
窓の無い部屋に雷のような発砲音が反響して本能的に身が竦み、瞼が下りてきてしまうが、すぐに押し上げて確認すると――ネルケさんのスカートに赤い染みができて、右足があるであろう辺りが赤く濡れていった
「――――ッ!!!!!! ――――ッッッ!!!!!」
「元気も良ければ威勢も良いな。平和ボケしたジャパニーズスチューデントとは思えない。実は鉄火場など慣れっこかね? フフフ」
目隠しの所為で表情は分からないが、撃たれても身動ぎ一つしないマスターは、ついさっきまでの俺と同じように気絶させられているようだ。
しかし、あんな派手に出血するってことはまだ心臓が動いてるってことでもある。その点だけは安心だ。
「さて、早速だが本題に入ろう。今見て貰った通り――そして、君もこの二日間体験していた通り、今の君達は我々の許可無くして意識を覚醒させることもできないわけだが、そこまで完璧に手中に収めた者を態々起こしたのには当然訳がある――来たまえ」
手術台に取り付けられた照明のように強い方向性が定められた光は陰影をより強調する。
つまり、頭上から照らされた俺や先輩、ネルケさんやリンさん、そして正面のゲス野郎以外部屋の状況が全く分からないが、奴の呼び掛けによって陰の中から新たな人物が現れた。
「紹介しよう、S9t――我々が最近開発に成功した強度5の念話者でね、触れた者の意識を余す事無く読み取り、またその読み取った情報を他者へと発信することもできるのだよ」
そう声高に語られた超能力者は、そのゲス野郎の縦横どの方向から見ても半分にも満たない小さな身体のあちこちに包帯が巻かれた、病的に白い肌と骨の浮いた手足をした手術着の子供だった。