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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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171話 DEMvsタイムリーパー編 その三

 色んな意味で置き去りにされてた俺が漸く復帰し、先輩がいつも使ってるらしい店奥側のカウンター席の隣へ腰掛けると、喫茶店らしい本格派なコーヒーが出されつつ、改めて自己紹介タイムが始まった。


「ではでは改めまして、私がこの喫茶店バンジョウでマスターしてるネルケ・タワールよ。こっちは従業員のリン・ホアジャオちゃん。同じ超能力者同士、ヨロシクね」


 ……バチコーンと、男前イケメン(メイド服装備)から特大のウィンクがブッ放されたんだけど、幾らループを繰り返そうがこんな状況への最適解なんか分かるわけ無いので、


「小鳥遊先輩の後輩で山村光一って言います。こちらこそ宜しく御願いします」


 無難に返すだけに留め、会話の主導権を明け渡しながらコーヒーを一啜り――うまッ!?

 なにこれ、この――なんだろう?

 口一杯に広がる香りが『ああ、これが芳醇ってことね』って悟りを開かせてきて、その上であのインスタントとか缶とかペットボトルのヤツ特有の舌を刺すような苦みが皆無。

 これならブラックのままでも全然イケる――

 っと、いかんいかん。

 食レポに意識持ってかれてたぜ。


 でもまあ、ぶっちゃけ、今日先輩が何の為に他の超能力者と引き合わせてくれたのかってのを聞く前に二つ返事しちゃったから、ここからどう話が転ぶのか不安と期待が半々なんだが……

 まあ、言うて単なる顔合わせ程度で済むんじゃ――


「それで、ネルケ姉さん。今日はどうしたの? 電話じゃ言えない要件があるみたいな感じだったし、先月はお店が閉まってるどころか連絡も取れなかったし、相当忙しくしてたんじゃ――」


「ええ、まあね。先月の中ごろから研究所の動きが活発になってきててね、それで私達も色々対応してたのよ。その所為で今日まで予定をずらして貰ってたんだけど……その前にね、コーイチ君。君の能力について聞かせて貰えるかしら?」


 Oh……

 なんだか早々にきな臭い予感。

 研究所って確か平然と人体実験ブチかますヤベー連中じゃなかったっけ?


 チラリと先輩へ視線を向けると、コッチを見上げながらこっくりと頷き返してくるだけだった。

 なるほど?

 教えないと話が進まないと。

 ……ハァ、しょ~がねえな~。

 まあ先輩が信用してる人達みたいだし、別に教えちゃっても良いか。


 一先ず、カップに中途半端に残ってたコーヒーを飲み干し、


「端的に言えばタイムリープですが……これを話の前に確かめるってことは、その研究所とやらが俺のこと狙ってたりするんですか?」


 外れてると嬉しいな~、なんて期待を乗せた質問と一緒に能力を開示する。


 すると、赤毛のイケオジは驚き半分苦み半分な表情でこっちをマジマジと見つめてきた。

 それも最初の能力開示時点ではなく、後半の確認部分を聞いた直後に。

 ……マジか。


「タイムリープ……成程。その察しの良さは人とは違う時間を生きてきた賜物なのかしら?」


「さあ? でも確かに、結構乱用してたんで精神年齢が見た目通りじゃないかもしれませんね。まあ、それでも高校入学以前でしかリープしてないんで、社会経験とかは皆無ですが」


 お道化るように言いながら平静を装ってみるけど……

 いや、『察しが良い』って、それもう俺の疑問肯定しちゃってるよね?

 え、いや、マジで?

 俺が狙われてんの?

 まあ確かに、この現代社会じゃあサイコキネシスとかパイロキネシスとかよりも有用だろうけれども。

 でも、その分変化そのものは俺自身にしか発生しないから、第三者が俺を超能力者だって断定するなら、それこそ先輩みたいな探知能力が無いと――


「ま、待ってネルケ姉さんっ! ほんとなの!? コーイチ君が狙われてるって!?」


 普段は天然な先輩もイケオジの迂遠な肯定を聞き逃せなかったのか、衝動のままに勢い良く立ち上がってちっこい身体を精一杯伸ばしながら思いっ切り睨み上げていた。


 まあ、ね。

 俺が狙われてるってことは、その周辺に居る人間にも被害が及ぶ可能性が高いんだから、巻き込まれかねない立場になっちゃった先輩が文句を言うのは当然――


「落ち着いて、ツバメちゃん。今すぐに危険に晒されるって訳じゃないし、ちゃんと順を追って説明するから」


「――分かった、けど……隠し事は無しだからね。情報を出し渋られて一番困るのは当事者のコーイチ君なんだから」


 …………、いや、まあ、うん。

 たった数週間の付き合いしかないけど、下らない自己保身なんかで声を荒げたりするような人じゃないよね、先輩は。

 分かってた分かってた、うん。

 さっきのは、単に俺の思考回路が汚れ切ってたってだけだ。


 なんて、ビミョーに黄昏てた俺を置き去りに始まった現状説明によると、先月の十日頃から活発化したと言う研究所の勢力が世界各地で超能力者狩りに動き出していて、その活発化の波がついにこの金見市にまで波及したのだとか。


 まあ、この街って貨物港もある上に県内に空港がある関係で人の出入りが激しいから、寧ろその影響が出るのに一ヶ月近く掛かってることの方が疑問かもだけど。


 そんで、超能力研究をしてるだけあって超能力者を見つけ出す方法も熟知してる研究所は、探知機や探知能力者を使って市内の調査を始めていて、中でも俺のタイムリープ能力のような超能力者の中でも特に珍しいタイプを優先的に探ってるから、街中での能力使用や単独行動は控えるように――とのこと。


「まあ、私やコーイチ君みたく物理的な作用が殆ど無い能力者は使ってる現場を押さえられでもしない限り、そうそう探知されたりしないけどね。ツバメちゃんレベルの探知能力者なんて、研究所でも一握りでしょうし」


 へぇ、先輩ってやっぱり凄いのか……

 なんて思いつつも、口に出した疑問は別のことだった。


「ネルケさんの能力って?」


『テレパシーよ。送信範囲は精々二百メートル程度だけどね』


 ――――!?

  こいつ、直接脳内に……!?

 いや、このネタ実際にできる時が来るとは思わなかったわ。


「ネルケ姉さんのテレパシーは凄いんだよ~。言葉だけじゃなくて記憶にある映像とか音とか匂いとか触感とかも送れるし、範囲内にさえ居れば一度に何人にも送信できるんだから」


「ふふふ、それならツバメちゃんやリンちゃんも凄いのよ~。ツバメちゃんのサイコキネシスは乗用車だって持ち上げられるくらいにパワフルだし、リンちゃんのテレポートだって一回に跳べる距離は短いけど連続で使えばスポーツカーだって置き去りにできるんだから」


 なんつーか、他者を紹介する時にこんなにも誇らしげに語ってるとこ見ると、人間性で負けた気分になるよね……

 いや、そんな風に感じる俺の精神性に問題があるのは分かるけれども。


 ってか、リンさんってテレポーターだったの!?

 すっごッ、能力バトルものなら強キャラ確定じゃん!

 実生活でも便利そうだし、良~い~な~。


「……マスター、じゃれ合ってないで話を戻したら?」


 なんか俺の羨望の視線を誤解したらしいリンさんがマスターに向けて冷や水ぶっかけてるけど、微妙に頬が紅潮してるとこを見る限り照れ隠し成分も含まれてるらしい。

 はっは~ん、さてはこの人も良い人だな?


「あら、そうね。まあ、脅すような言い方になっちゃうけど、さっきも言った通り私やコーイチ君みたいなタイプの超能力者は見付かるリスクは低いけど、その代わり捕まった後の扱いは悲惨よ。生きたまま脳解剖に掛けられたりするし、コーイチ君みたいなレアな能力者は薬物とか暗示とか超能力とかで洗脳されて操り人形にされたりもするから、くれぐれも見付からないように気を付けて――」


 と、中々に物騒な注意が言い切られる直前、例のノスタルジックな鐘の音と共に店の入り口が開かれた。


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