169話 DEMvsタイムリーパー編 その一
どもども、こんばんにちは!
黒宮辰巳だぜい。
久々の更新だけれども、前回更新で『最初の御話』も一区切りついたコトだし、今回からは暫く番外編を御送りするんだぜ。
こうして綴る立場になったからこそ知った『ゴリ押し解決がどんな風に波及して行ったのか』を皆々様にも共有できればと思っておりやす。
ではでは、前置きはこの辺りにして――
どうか、楽しんでいって下さいな☆
俺こと山村光一はタイムリーパーである。
当たり前だが、この事実は友達や家族にも話したことは無い。
言った所で信じて貰えるとは思えなかったし、仮に信じて貰えたとしても今度は良いように利用されるだけだったからだ。
『仮』で済ませるべく能力を使った時は……なんと言うか、流石に堪えたよ。
それだけ『未来に何が起こるかを知った上で、好きなタイミングからやり直しができる』なんて超能力は強力なんだ。
特に、この現代の情報化社会では。
それに発動条件が良くある『自分の死』なんて重いものじゃなく『ただ念じる』だけなのも、この問題に拍車を掛けていた。
『なんの制限も、代償も無くただ念じるだけで好きな過去からやり直せる』
……俺が生まれた十六年前までって言うやり直し期間の制限はあっても、それだけの時間を思うまま無限に使い回せれば大抵の望みは叶えられた。
まあ、最終的に全部無価値だって気付かされたけど。
最初のルートでは、両親に頼んで競馬とか株とかで稼いで何でもかんでも好きな物を好きなだけ手に入れて来たけど、そしたら両親は仕事辞めて自堕落に過ごし始めた上に、その稼ぎを嗅ぎ付けて来たハイエナ共が鬱陶しかったから、稼ぐ前からやり直した。
同時期――あくまで俺の主観だけど――に通ってた小学校でも、とにかくやり直しを乱用しまくって、テストは満点、スポーツでは大活躍、いつもクラスの中心に居る人気者の地位を維持してきたけど、四年生の春に転校してきた女子に一目惚れして状況が変わった。
その子へのアプローチに何度やり直しを使ったか分からない。
それだけやっても一切振り向いて貰えず、他のクラスの中心人物にアッサリ靡いたあの子を見て俺は漸く悟った。
このやり直し能力で変えられるのは、あくまで自分の持ち札で可能な範疇に過ぎないのだと。
つまり、高身長イケメンに生まれられなかった時点で望みは無かったんだ。
そうして、俺はある種の結論を得た。
幸福になる為に必要なのは過度な望みを持つことではなく、ただ不幸を回避し続ければ良いのだと。
とは言え、まあ折角生まれた直後からやり直したんだしってことで、今居るルートではこれまで生きてきた中で手に入れて来た知識や経験を思う存分活かしていくことにした。
まず、健康健全強靭な身体作りから。
毎日の運動とバランスの整った食事に早寝早起きを前提とした規則正しい生活リズムの維持。
これだけで、前ルートの同時期と比べて身長も運動能力も見違えるレベルの成長ができた。
一応、顔の整形も考えた時はあったけど、試す前に調べて見た感じだと普通に暮らす小学生が手出しできる金額でできるわけ無いし、分不相応な物全般への執着が無くなったからか、今回のルートでは試す気も起きなかった。
それから、勉強と学校生活。
勉強の方は前回ルートで散々同じ授業とテストを受け続けてきたけど、それは単に記憶したってだけでちゃんと身に付いてたってわけじゃない。
現に今回のルートに突入してから受けた最初のテストでは、ろくに復習しなかった所為か一問ミスって満点を逃したし。
だから、今回のルートでは復習も兼ねて真面目に勉強することにしたんだけど、その結果として今回は一度もやり直しを使わずに前回ルートと同等の成績評価を得られた。
また、学校生活に於いても、前回ルートで培った対人テクニックがあったし、クラスメイト達の趣味嗜好性格を把握してたから、小学校卒業までだけでなく中学校生活でもずっとクラスカースト上位をキープできた。
あとは、共働きの両親が順調に昇進を続けられるようやり直しを駆使して裏から手を回したり、突発的な事故の回避をしたりして順調に時を重ねた。
しかも、運の良いことに――或いは俺が前回ルートから行動を変え続けてきた影響か、例の転校生が現れることも無く、遂に県下でもトップの進学校への入学を果たした。
だけど――
「ねえ、君も超能力者でしょ?」
突然の出会いが、またもや俺の人生を狂わせて来ることになった。
「ふふふっ、実は私もなんだ♪ ――――むんっ!!」
そう言って、人気の無い放課後の廊下で窓に向かって手を伸ばしたその女子生徒は、睨み付けるように視線へ力を籠め――
瞬間、窓の鍵が独りでに開き、そのままガラガラと開閉音を鳴らし始めた。
そんな光景に目を奪われて呆然としている俺の手を取って、彼女――小鳥遊燕先輩は文化部棟の奥にある文芸部室へと招いた。
なんでも、先輩は物心付いた頃からこの念動力と超能力者を探知するレーダー能力を持っていたらしく、日頃から自分と同じ超能力者を探していたとのこと。
「いや~、でも入学した学校で会えたのは君が初めてだったよ~」
そんなことを出会って五分も経たない相手に見せるにしては無防備過ぎる笑顔と共に告げられて、俺は――いや、俺はそんな惚れっぽい奴じゃあなかったと思うんだが……
ただ、そんな甘酸っぱい葛藤は、
「――それで、君はどんな能力が使えるの?」
たったの一言で瞬く間に凍り付いた。
あとで本人から聞いた話によると、先輩は近くに居る超能力者の位置は分かっても、その超能力者がどんな超能力を持っているのかまでは分からないのだそうだ。
ついでに『でも、これのお陰でお父さんやお母さんと逸れても迷子にならずに済むんだよ~』ってのは、尻尾を振る子犬のように笑う先輩談だ。
まあ、この時は色々と余裕が消し飛んでいて、咄嗟にやり直しを使ってその日の遭遇を避けたけど、同じ学校に通っている以上は避け続けられる筈も無く、結局はこの日の遭遇を受け入れて、何度目かも数えてないその言葉へ正直に答えることにした。
でも、恐怖は拭えなかった。
今のルートでは真っ当な価値観を持つ社会人として生きている両親を完膚なきまでに堕落させた力だ。
うっかり溢してしまったクラスメイトとは、このルートでも避けてしまいたくなるような変貌を齎す力なんだ。
なのに、初対面の――それも実際に物体へ直接的な影響を与えられる超能力を持った相手に知られれば……
悪い想像ばかりが込み上げて先輩の顔を正面から見れなかった。
告げた後、顔を背け、瞼をきつく閉じた俺に、先輩は――
「……そっか、大変だったんだね、君も」
優しく労わるように俺の頬を撫でくれた。
小さな背丈なのに爪先を震わせながら持ち上げて、目一杯腕を伸ばしながら。
……超能力に目覚めた直後に先輩は、同じく超能力者である両親から超能力者を捕まえて非人道的な実験を行う研究所の存在や、常人とは違う力を持て余して破滅してしまった人々のことを聞いて、或いは実際に接して育ってきたそうだ。
だからこそ、先輩は自分達と同じ超能力者の為になれればと超能力者探しに勤しんでいて、血を吐くように話す俺を気遣ってくれたわけだ。
…………うん、別に俺への好意からってわけじゃあ無い。
無いけれど、救われたのは事実で――
だから、俺はその日から先輩の活動を手伝うことにしたんだ。
――それが、あんな悲劇を招くだなんて、過去に戻れても未来を見通せるわけでは無い俺には知る由も無かった。