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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
166/186

166話

 伯父さんの御見送りから数時間後の夜分――いつものお散歩である。


 とは言え、昨日から原因不明の(ゴミ)獲量低下現象が起きてるからか、1ヒットあたりの量も少なければ、そもそものヒット数も少ない。多くても精々が四、五人。

 単独ってのもザラだ。


 例えば、見るからに家賃低そうなオンボロアパートの一室で、押し入れに展開した家庭菜園セットでイケナイ葉っぱを育ててるヤツとか。


 或いは、薄暗い高架下の疎らな街頭の下に屯して、偶然通りかかったバーコードハゲオッサンを囲って金せびろうとしてる輩とか。


 それから、ブオンブオンと騒音を撒き散らしながら歪な改造バイクに二人乗りして車列を縫うようにして走り抜ける危険運転クソ野郎とか。


 こんな連中を見付け次第、空間魔法での侵入、割り込み、或いは転移召喚をして確保し、変身体のスーパーフィジカルで引き裂いたり抉ったり千切ったり踏み潰したりしてから干渉魔法で無かったコトに……を繰り返して無様な泣き言を引き出す。


 するとまあ、僕の内心には『こんなゴミクズがのうのうとしてるのに、なんで父さんと母さんと兄さんは……』とか、『ゴミクズらしく悪()を撒き散らしてたクセに、自分の番になったら助けを乞うとか死ねば良いのに……』とかって苛立ちが募り、ソレが魔力へと昇華。


 今夜も今夜とて良いカンジに魔力収集ができてる訳でありますが、人間界(ココ)に帰って来てからの特理関連から端を発した今までの面倒事が明日のお引越しで一応の区切りになるって意識が有る所為か、自分でも分かるほどにドコか気も漫ろだ。


 これから一体、僕はどんな生活を送るコトになるんだろうか?

 伯父さんの家に引き取られてから、家族の一員として認めて貰えるのか?

 学校の方は今日の授業風景や休み時間のコトを思えば今まで通りに惨めなボッチ生活が続くんだろうけど――


 なんて、シャボン玉のようにフワフワと脳裏に浮かぶ想像を薙ぎ払う。

 そう、これらはあくまでも直近の問題に対する対症療法に過ぎない。

 こんな()()に成り下がった僕を迎え入れようとしてくれる伯父さんへの、せめてもの礼でしかない。


 僕が――()()が成すべきコトは二つ。

 下らない間違いによって喪われた父さんと母さんと兄さんを呼び戻すコト。

 そして、その間違いの根幹たる()()を完全にこの世から消し去るコト。


 これらを果たす為にまだまだ時間が掛かりそうだからと足場を固めたに過ぎない。

 忘れるな、オレ()にはもはや人間としての幸福なんて望むコトすら烏滸がましいんだから……


「――――ハッ……あ~、やり過ぎたなこりゃ」


 湾岸沿いにあるゴミ処理場の上空に大型の改造バイクだけを転送して自由落下で廃車にし、残った危険運転ゴミ二つを高層ビルの屋上に転移させてから甚振ってたんだけど……

 うん、意識が逸れてた所為か干渉魔法の発動を忘れてた所為で、余分な息遣いの聞こえない屋上は真っ赤っかだった。

 それも、血の海に漂う肉や骨が元々どんな形だったかも分からなくなるほどに。


 もし仮に、ココでの一部始終を見る人間が居たとしたら、十中八九顔を青褪めさせてゲーゲー吐き続けるハメになりそうな凄惨な状況だけど、生憎とやった記憶が曖昧だ。

 一応、手足や翼や尻尾に感触が残ってるからオレがやったのは間違い無いだろうし、そうじゃない可能性なんて排除済み――の、ハズだ。


「ハァ……ハイハイ、照準っと」


 未だに蟠るこの不安はなんなんだろうね?

 魔力を持つ危険極まりない敵性存在は全部駆除できたハズなのに。


 まあ、分かってはいるさ。

 魔力、なんて言う可能性の塊が存在する世界でifを意識せずに居られるほど、僕の胆は太くないってトコか……

 我ながら情けない。


「――――――あ……?」


「――――――う……?」


 うん、成功。


 主観干渉は狙い違わずゴミ共の()()を無かったコトにしてくれたようだ。

 まあ、最終的には半身不随の産廃確定なんだから魔力の無駄使いではあるんだけど。


「一応さ、こんなオレでもまだ自分が人間だって思いたくはあるんだよ。そのある種の帰属意識のお陰で命を拾ったんだよ、テメエらは。ホラ、言うコトあるだろ?」


 その『無駄使い』ってワードになんとなく腹が立ってきた所為か、随分と意地の悪い言葉が出てきた。


「――な、にを……言っ、て……?」


「だーかーらー、ワザワザ無駄な出費をしてまでテメエらゴミを生かしておいてやってるオレに何か言うコトはねえのかって言ってんの」


 ココで分かり易くフィンガースナップ。

 燃え上がる黒炎に湿った破砕音が連続した。


「「アギィガ――!??!!!」」


「ハァ――言うコトねえならコレで終わりだな。お疲れさん」


 続けて各所に燃え上がった黒炎がゴミ二つの自由を完璧に奪い去り、あとに残ったのは無害な合計百キロ超えの肉塊二つ。

 ハイ、転送っと。


「フゥ……さて、そろそろビョーイン空けに行こうかね」


 昨日の収穫量減少で『今晩は別に行かなくても良いかな~?』なんて先送りにした収容所(病院)掃除だけど、流石に今日やらないとベッド足りなくなるだろうからね。


 それに、この際だから中央病院送りにした産廃共が結局どんな扱いになってるのか確認するのも良いかもしれない。

 何もできないように()()したとは言え、まだ息をしてるゴミを見れば良いカンジに魔力稼ぎもできそうだし。


 ただ、前回みたく数ある病院の中から一つだけ空きを作るってやり方は変えてみようかなとも思う。

 こう数日毎に空けに行くって言うのも面倒だし、纏めて一発の主観干渉で片せられるならその方が魔力消費も安上がりだからね。


「市内の病院――入院環境のあるトコだけでも片手じゃ足りないくらいか? まあ、まずはザッと回ってみるかね」


 各病院の屋上辺りにでも止まって魔力ソナーで患者の存在を確かめて、具体的な人数って言う標的設定をある程度明確化させる要素を集めておけば、主観干渉もより効率的且つ省魔力で発動できる。


そんな目論見の元、オレちゃんは黒翼をはためかせたのでした~。


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