161話
「――――、昨日の今日でよくそんなコト聞きに来られたな? 怖くねーのか? オレ、『機嫌を損ねるな』とも『全員処分判定だ』とも言ったが、こんな風にワザワザ手間掛けさせてペナルティ受けるかもとか考えねーのか?」
オレちゃんとしては疑問100%なつもりで聞いてみたんだけど……
なんかコレ圧強ない?
大丈夫?
「考えましたよ、勿論。でも、そもそも貴方が最初からそのつもりだったなら、こんな風に会話する事さえできなかったでしょう? なので、最初に挨拶してくれた時点で大丈夫かな~、と」
大丈夫やったわ。
いや、逆にどゆコト?
この女子さん心臓に毛でも生えてるの?
メンタル形状記憶合金?
魔界の不思議超合金なの?
ミスリルアダマンタイトヒヒイロカネ?
いや、コッチも少し言い方アレだったかな~、なんて言った後で反省してたのにコレですよ。
よーするにオレちゃんのコト試してたってワケでしょ?
ソレも自分の身を賭けてるって分かっていながら。
ホントにどゆコト?
どんな胆の据わり方?
チョット撫でただけでピーピーヒャーヒャー泣きじゃくるゴミ共に爪の垢煎じて飲ませてやりたいわ。
「……あっそ、で? 何が聞きたいんで?」
とは言え、そんなコト掘り下げても仕方無いのでサッサと本題(?)に移るとする。
いや、オレちゃん側はもう聞けたいコト聞けたから、もう帰っても良いかな~なんて思わなくは無いんだけれども。
「何もかもですよ。貴方は何の理由も無くあんな理不尽を働く人じゃないでしょう? なら、それだけの何かがあったんです。その、伯父さんが拉致されたと言ってましたが、もしかして学校関係者の誰かが犯人なのですか?」
……うん?
何故そーなる?
オレちゃん別にそんなコト言ってな――ああ、そっか。
フツー特理なんて知らねえわな。
となると、『興味津々の連中』なんて言っても伝わるワケがねーのが道理なワケで……
となると、女子さん視点ではあの場に集められた学校関係者の中に犯人が居て、その報復の為に暴れて見せたって見えるワケか。
よーするに、オレの言葉足らずが原因だったってワケだ。
いやまあ、だからって謝る気とかはサラサラねーけども。
「いや、違うよ。運悪くタイムリーに起こったってだけで、昨日集めた連中と拉致は無関係だ」
端的に否定すると、女子さんは喜びも安心もせずに『そうですか』とだけ返して、
「それなら、何故あんな事したんですか? 貴方ならあんな風に皆を脅すまでも無く、自分自身は勿論、周囲の人達だって守れるのに。あれでは無暗に敵を増やすだけで逆効果じゃないですか」
叱り付けるような言葉を、何故かドコとなく気遣わし気に感じる口調で紡いできた。
……いや、こんなのは単なる勘違いだな。
取り敢えず、女子さんとしては突然暴れて見せた上に悪臭塗れの空間に放置しやがったバケモノへ文句の一つも言いたい気分だったんだろうよ。
まあ、ソレを汲んでその物言いは見逃してやる。
良かったな女子さん。
オレちゃんが寛大で。
「ハハ、そりゃ間違いだぜい女子さん。アンタの言ってるコトは――
「あ・い・は・ら・ち・さ・で・すっ!!」
……なんかご立腹なんですが。
そんな単音ずつ強調しなくても覚えてますですよ?
「……アイハラチサさん、貴女の言っているコトは全て間違いです。その根拠も一から十まで説明してやるので、そのちっちゃなお口を挟まないでくれるかしら?」
怒りをぶつけられた所為か、ココまでの会話で明確にイラっと来たのでちょいと語気を強めると、流石に女子さ――アイハラチサさんも怯んだように口を閉じてくれた。
ヤレヤレ。
「まず、アンタはオレのチカラってヤツを過大評価し過ぎだ。オレはあくまで敵をブッ殺したりブチのめしたりが得意ってだけで、ソレは周囲の平穏無事と直接は繋がらない。当然だな。幾ら得意って言っても、まだヤッてない連中の凶行を止められるってワケじゃねえんだから」
まあ、実際は事前に狩れるだけ狩ってるんだけどね……
とは口には出さず、肩を竦めて見せると、アイハラさんは合の手を入れるように、
「それなら猶更じゃないですか。自分から周り中全部を敵に回すような真似をして、それこそ皆が協力して法や倫理を無視した手段に出たら守り切れなくなるとは思わないんですか?」
そう切り返してきた。
うん、確かにアイハラさんの言う通りだね。
連中が本当に全員で一丸となって綿密な計画の上で実力行使に及ぶとしたら、魔力無しでも伯父さんや伯母さんや光咲に手が届くかもしれない。
そして、届いてしまったらその時点で負けだ。
昨日の伯父さんのようなコトが起これば、その時点で取り返しが付かない。
だがしかし、だ。
実際にそんなコトが可能か? と問われれば、まず間違い無く無理だろう。
「思うよ。ただソレは、今すぐに起こり得るとは思えないがな。根拠は二つ。まず一つは、この学校に於いて大人も子供も関係無く纏められるような規格外の頭目が居ないコト。もう一つは、二年後に生かしてやる条件を個別評価にしたから、多少纏まれたところで必ず裏切り者が出て来るって点だな」
そう、考えてみれば当たり前のコトだ。
簡単に命を脅かせる怪物への反抗心なんて、何百人全員が持ち得るワケが無い。
なら、そんなニンゲンどもを集団として纏め上げるのは容易じゃない。
全員を纏める気なら、それこそ兄さんレベルの卓越した指導者が必要だろう。
そして、例え一定数の反抗勢力が作れたとしても、今度は二年後以降の生存を賭けての個別評価が団結を邪魔する。
こんな競争原理があれば必ず足を引っ張るヤツが出て来る。
秀でる者が居れば妬む者が居るってな。
こちとら、人間共の悪意には詳しいんだぜい?
それに、
「だがそもそも、だ。幾ら纏まったトコでオレ自身を排除できない以上は幾らでも痛めつけられるんだから、殺して治してを繰り返せば嫌でも大人しくなるさ」
そもそも、纏まったトコロでオレって言う脅威を排除できないのは分かり切ってるんだから、そう恐れる必要は無い。
あくまでも、現状に於ける学校関係者の脅威は僕の情報を握っているって一点に集約されるのだから。
「だから、本当に問題なのはこの学校にオレに比肩する――或いは上回るようなチカラを持つヤツが居た場合だ。生憎とオレちゃんは他人を味方に引き込むようなコミュ力は皆無なんでね。遠からず敵になり得るヤツが居ないか炙り出しをする必要があったってワケ」
そう言い切ると、女子さんは『そんな、まさか――』と否定の言葉を驚愕で彩って呟いた。
『ま、居なかったけど』と溢すと『そうですか』って胸を撫で下ろしてたけど。
まあ、自分でも考え過ぎだとは思うよ?
実際に魔物や術師の類は居なかったワケだし。
でも、万一にも居た場合、ソレが僕の個人情報を使って伯父さんや伯母さんや光咲を脅かす可能性は否定できない。
或いは、オレを排除する為に伯父さんや伯母さんや光咲を利用するコトだって考えられる。
ソレを防ぐ為に、ワザワザ人を集めて姿を晒したんだが……
まあ、結果的には無駄足になってなによりってトコか。
一応、オレちゃんの召喚魔法を回避した可能性が捨てきれなくはあるんだけど、今のトコロ被害が出てない以上は対応でき兼ねちゃうから放置するしかないし。
それからもう一つ――
「それに、今後オレみたいに力を得るヤツが学校関係者に出ないとも限らない。その可能性を見据えるなら、昨日やったみたく予め釘を刺しておいた方が予防になると思った、ってトコだな」
コレも考え過ぎではあると思うんだけど、まあ確率としてゼロと言い切れない以上は対策するべきだろう。
掛かってるのは伯父さんや伯母さんや光咲なワケだし。
とは言え、どんなきっかけでそーなるかなんて予想もできないから、今回みたいなスマートならざる方法になっちゃったワケですがね。