159話
……まず結論から言えば、仮名『検索魔法(現状ほぼ確定)』は思った通りの効果を発揮した。
うん、確かに検索条件に合致するであろう連中へと転移門が繋がったよ。
うんうん、ソレは良い。
良いんだけど……問題なのはその検索条件の設定が馬鹿には難しかったってコトか。
いやね、今回ワザワザ『悪意を抱いていると判|断《》できる存在』なんて言う僕の主観的判断で検索したのはさ、善意とか愛とか友情とかで他者を傷付けられるような所謂サイコパス連中も網羅できるようにって意図だったワケですよ。
そのおかげで、なんか部屋中、壁一面に光咲の盗撮と思しき写真が貼られまくった一室でPCモニターに照らされてニタニタしてる気色悪いストーカー野郎を見付けられたから、まったくの無駄だったってワケではねーんですよ? ええ。
でもさ~あ?
光咲が居るグラウンドの別視点とか眉間に皺寄せた陰険そうなババアが腕組んで唸ってるフツー(?)の一般家庭の台所とかの、同級生とかパートの同僚らしき連中とかが見えてもど―すりゃええねん。
コレはアレだね、対象範囲を広げ過ぎた所為で危険度の低そうな連中までヒットしちゃってるってカンジだね、うん。
オレちゃんが想定してたのは魔物共とか毎晩狩ってるゴミ共とかみたいな物理的、実際的な脅威であって、ヒソヒソ陰口叩いたりとかSNSとかで悪口書くだけの不快な小物共とかきょーみねーんですよ。
まあ?
日常生活に於いては直接的な暴力よりもそーゆーのに晒される機会の方が多いだろうし、どんなにショボくても悪意である以上は無視できないけども。
実際、そーゆーのがエスカレートして自殺に追い込まれるなんて今時ありふれてる死ねクソが。
それに、ぱっと見は危険性低そうに見えても実は殺人計画実行中だったって線も無くは無いしね。
幾ら五感が強化されようが直感が未来予知並みに働こうが、他人の腹の底まで見通すなんてできねーのです、ハイ。
でもだからと言って魔物やゴミみたく発見即処分なんてやってたらキリが無いし、そもそも顔見知りがいきなり消えたりしたらその方が伯母さんや光咲の精神衛生に宜しくない結果になりそうだ。
なのでまあ、どー見ても同級生には見えない無精髭のストーカー野郎とコイツの部屋の物品全てを対象にした干渉だけで済ませまして、取り敢えずは様子見ってコトで検索、展開した転移門を閉じる。
でもって、部屋に戻りながら念の為維持してる転移門で伯母さんと光咲を見守る。
そろそろ暗くなってくるから出掛け時だけど、折角作った転移門だし少なくとも伯父さん一家が無事に揃って団欒を始めるまでは警護しとこうかね。
――と言うワケで、アレから何事も無く帰宅した伯父さんと光咲が揃ったコトでお晩となった伯父さん一家から転移門を切ってお出掛け。
毎晩恒例の金見市お掃除ボランティアなワケだけれども、はてさて。
特理が消えた影響は如何ほどのモノかしら?
なんて期待――ではないけれど、多少マンネリ化してきた感のある夜歩きに変化を求め、今日も変身体でバッサリビュービューと飛び回っているワケですが……
う~ん?
なんか反応が悪いかな?
夜空を飛び回りながら火薬とか硝煙とか薬品っぽい臭いを追って回ってヒットした建物にソナーを流し込んでるんだけど、なんだか昨日までみたいに『待ち伏せてます!』ってカンジがしない。
いや、探ったカンジだと一応武装してたりはしてるんだよ?
でも、なんか全体的に人数がまばらだし、居る連中もなんとなく落ち着かないって言うか、ビクついてるって言うか……
まあ、居るからには片付けるし、一人たりとも見逃す気は無いんだけども。
後で知ったトコロによると、昨日の時点で警戒が無意味どころか逆効果だったと悟って、あっちこっちでこの街から逃げ出す連中が続出してたんだとか。
まあ、人数が多いトコ優先して狙ってたし、然もありなんってトコか。
また、オレの目的が人だけだったから人的被害の割に物的被害が少なかったし、その被害も夜間のみってコトで、安易にこの街から離れられない地元民共はワザと巡回やら集会の人数を減らしたりとか活動時間をズラしたりと、涙ぐましい努力をしてたんだってさ。
ま、その甲斐無く――ってハナシはまた後日。
とにかく、今夜のスコアは百に届かずだったワケだけど、その分一人一人と戯れる時間を長めに取った御蔭で魔力収支はほぼ変わらずの量を獲得できたので良きかな?
まあ、今夜遭遇したゴミ共にとってはゴシューショーサマってカンジだろうけど。
ってなワケで明くる土曜日、春休み開け最初の半日授業の日なワケだけれども。
「――黒宮君!」
……なんか、登校直後に待ち伏せされてたんだけど。
何故?
しかも、その相手は教師どころか保護者や高級スーツの太々しい役員共でもなく――
「…………あ~、おはよう。初めまして?」
「初めましてじゃないですっ!! 相原千沙っ!! 貴方のクラスメイトですっ!! いい加減覚えて下さいっ!!」
そう、『アイハラチサ』さん? とか言う――ハァ……
ああ、うん。
嘘です冗談です。
覚えてますよ、ええ。
ココ数日、集会開いた――いや、万一にも遭遇してサシのお喋りなんてしたくなかったんでコソコソ身を隠してた昨日を除けば、毎朝の習慣みたくお喋りしたあの女子さんだった。
本日は昨日と同じく教室前へ直接転移してきてたんだけど、どうも昨日の今日で昇降口でのアンブッシュが不確実だと気付いたらしく、こーして今日も一対一で会敵してしまったワケなのです、ハイ。
「ハイハイ、スミマセンデシタ……で、こんな朝っぱらから何の用?」
つっけんどんな物言いにはご容赦を。
なにせココ数日しつこく付きまとってきてた相手だ。
どうせ――
「いえ、その……昨日の事について話したいんです。付き合ってくれますか?」
ハッ、やっぱりね。
どうせそんなコトだろうと思ったよ。
コレまでの態度やら振る舞いやら言葉やらから察するに、この女子さん結構なお節介焼きさんなカンジがするからね。
突然あんな真似すれば、根掘り葉掘り聞いてくると思ったよ、メンドくせえ。
とは言え、ココでバックレても結局最後は付き合わされるハメになりそうだし、コッチとしても昨日あの後どうなったのかを聞いとく良い機会ではあるし……
まあ、ココは折れてやるとするかね。
「分かった。んじゃついて来な」
そう言って踵を返すと、RPG風に女子さんを引き連れながら屋上へと向かったのでした~あ。