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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
156/186

156話

 なんて、ふと気の抜けた瞬間に背筋へ氷柱が落ちたかのような寒気が走る。


 とは言え、ソレは()()の殺気とか幽霊の怖気みたいな外的な要因なんかじゃない。

 そもそも、ついさっきソイツら全部処分したばっかだし。


 だから、()()はオレ自身の頭の中、胸の内での問題だ。


「光咲の学校に伯母さんのパート先と――ご近所さんとかママ友とかか? 伯父さんの方も前職に戻るってんなら警察署か……あ、あのオッサンも連絡が来次第処分しないとか」


 口に出して目を逸らそうとしても、ふつふつと湧き上がり重く圧し掛かるような憂鬱が腹の中を掻き回してきて吐き気さえ覚える。


 そもそもの話として――


「………………考えるな」


 口に出しても思考は止まらない。

 懸念は疑念に、疑念は不安に、不安は恐怖へと膨張と混濁を繰り返す。


 そう、そもそもの話として――


 僕の所為で死に掛けた伯父さんが今も受け入れてくれると思うだなんて、虫が良過ぎるんじゃあないのか?


「――うるさいッ!!」


 そうだ。

 こんなのは当たり前のコトだ。

 自分が死に掛けた原因を後生大事に抱え込む馬鹿がドコに居る?

 その原因が何よりも優先すべきシロモノ――伯父さんなら伯母さんや光咲かな――ならともかく、それらよりも下に位置するのなら切り捨てるのが人情ってモンだろう。


 迎えに行った時、伯父さんは『お前は何も悪くない』って言っていた。

 ソレは逆説的に『()()の所為だ』と考えられるシチュエーションだったと伯父さん自身が理解していたコトの証明に他ならない。


 なら――ならば、だ。

 こうも考えるんじゃないか?

 『次は伯父さんじゃなく、伯母さんや光咲が人質にされるんじゃないのか?』って。


 実際、十分にあり得た未来だったんじゃないかと思う……

 特理共が今も恥知らずにものうのうと息をしていやがったのなら。


 でも、特理が居ないって事実(ソレ)を伯父さんは知らない。

 当然だ。

 あのクズ共の所為で消耗させられて今もぐっすりなんだから。


 そして、伯父さんは金見市から母さんの実家までの道程で必ず通る道路のすぐ傍に魔界へ続く――なんて言ってたっけ? 魔境? まあ、ソレがあるコトを黙ってた。

 きっとソコがホントに魔界へと繋がるかどうかなんて確認されてなんか無く――実際、あの事故の瞬間まで()()が閉め切ってたワケだし――て、あくまでも可能性の話でしかなかったのかもしれないけど、ソレでも忠告するコトさえせず沈黙を選んだ。


 とすれば、伯父さんにとっての優先順位に実の兄弟以上の人達が存在するのは確定なワケで、伯母さんや光咲を守る為に()()を切り捨てるのは十分にあり得る――


「…………………………………………………………………………ハッ、結構なコトじゃねえか」


 仰ぐ額に腕を乗せて呟いた声が他人の言葉のように耳に響いた。


 ああ、そうだ。

 別に何の問題も無い。

 伯父さん家の周辺掃除を終えればまた今まで通りの――ここ数日と同じ生活が続くってだけだ。何の問題も無い。

 寧ろ、毎朝のように訪ねてくる伯父さんに煩わされるコトも無くなるってんだから、得こそあっても失うモノなんて何も無い。


「…………そうだ。何も変わらない。そもそも、父さんと母さんと兄さんさえ呼び戻せば、後は消えるだけの()()が他者と関わりを持とうってのが可()しいんだ」


 そうそう、その通り。

 どうせ最後には消えるだけの()()なんだから、そもそも論として自身の生活環境の整備なんてのが無駄でしかない。

 逆に身辺整理に勤しんだ方が建設的まである。


 まあ、そんな超絶マイノリティ()()野郎とは真逆のマジョリティ伯父さん一家の安全確保は必要だけど、でもソレにグダグダと時間を掛ける必要も無いだろう。

 そもそも今日まで普通に暮らせてたんだろうし、緊急性も低そうだ。


 こうなったら環境整備なんてサクッと終わらせて、本格的に魔力集めに勤しもうかね?

 夜の方がゴミを見付け易いってんなら、文字通り世界中を飛び回って月とゴミを追い掛け続けても良いし。

 ハハ、やっぱ()()だな~オレちゃん――


 ……なんて、一人で勝手に躁鬱を反復横跳びする不健全な精神活動は、伯父さんが目を覚ますまでつづいたのでした~っと。


 で、夕方。

 午後五時過ぎの日が傾く頃に漸く伯父さんの意識が戻ったのか、父さんと母さんの寝室で物音とか息遣いの変化とかが聞き取れたのですぐに向かう。


 ……うん、すぐに向かってドアノブに手を掛けたのは良いのだけれど、ココからどうしようか?

 って言うか、どんな顔して出向けばええの?

 ()が原因で死に掛けたって言うのに――


『…………此処、は……たつみ、辰巳は居るか?』


 ――なんて葛藤は、ドア越しに聞こえた掠れ声の前に霧散した。


 止まった思考が止める間も無く勝手に動いた身体がドアを開け放ち、表情なんて取り繕う暇も無く寝室へと踏み込んだ。


「伯父さんッ」


 ベッドから身体を起こす伯父さんへと駆け寄りながらも、()()としての全感覚を研ぎ澄まして伯父さんを診る。


 ……脈拍や呼吸は乱れてない。

 傷や汚れも魔法で消したから大丈夫。

 寝起きな所為か目の焦点が若干合って無いけど、近寄る度に補正されて行ってるから問題無さそう。

 オールグリーン、って言って良さそうかな。


「伯父さん大丈夫? どっか痛いトコとか無い? 気分が悪かったりとか――」


 そんな素人考えの診断を下しながらも口は勝手に動いて、矢継ぎ早な聞き取りを行い――


「辰巳。済まない、心配掛けたな」


 伯父さんの言葉でいとも容易く凍り付いた。

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