155話
目撃者皆殺しのれっつぱーりーむーんから帰宅すると、時刻は十時チョット前。
ん~、一時間くらい?
出てきた連中の数を考えれば妥当な作業時間ではあるのかな?
曲がりなりにも世界規模での駆除だったワケだし。
にしても、結構な数の魔物が出てきたもんだよホント。
妖精っぽいのとかちっこいおっさん(?)っぽいのとか、なんかベースはペットショップとか動物園とか水族館とかにも居そうだけど所々が異形なのとか、ファンタジーお馴染みのモンスター&クリーチャー共とか、そもそもが生物の体を成して無い謎存在とか……
なに?
あのヒトデやクラゲみたいな形に人間の手足が生えてるのとか、目玉の群体とかは?
合理性の欠片も無い不細工さで今にも自滅しそうなのにのうのうと存在しやがって。
でもって、一番の問題はアイツらだよ、あの天使共。
なんで人間界にあんな上級上位にだって食い込めそうな魔物が七羽も存在してんだよ。
ホント危ねえ。
あんなの一羽だけでもフツーの人間相手なら国一つはまず余裕で更地にできるだろうし、七羽で協力して世界征服にでも乗り出したら一日で人間社会が終わるだろうよ。
まあ、魔界には七どころか余裕で三桁を超えるくらい上級上位が居たから、魔界の魔境っぷりが際立つような気もするけど。
って言うか、人間界の魔物共ってどうやって生きてきたんだろうか?
魔粒子が無い以上はただ息してるだけじゃすぐ魔力が枯渇して死ぬと思うんだけど……
まあ、順当に考えれば人間襲ってたんだろうけど、ソレでよく今まで生き永らえて来られたもんだ。フツーの人間ならともかく、術師相手なら駆除されるコトだってありえただろうに。
いや、あの天使共相手じゃあ手も足も出なかっただろうけれども。
とは言え、その辺の疑問はもう忘れてもいいか。
もう駆除し切ったんだし。
それに、単純な破壊力って意味での危険性とは別ベクトルな危険の存在も確認できたワケだし、今気にするべきはソッチの方かな。
ソッチの方が身近な分だけ遭遇率も高いだろうし。
そう、あの魔力単体で存在してた幽霊っぽい連中。
アレが本当に人間の死後に発生するとなると、今回危険なのは全部駆除できたのだとしても人間が存在する限りまた発生するんだろうし、ソレを定期的に駆除してもイタチごっこだ。
確率的にゼロへ近づけるコトはできてもゼロにはできないね。
一応、魔力であるコトに変わりないみたいだから、オレちゃんの魔力で相殺させて一瞬で消し飛ばせるだろうけど、ソレを常時維持するのは魔力的な出費が激し過ぎる。
ソナーとして一瞬パッと吐き出すならともかく、魔粒子の無い人間界じゃ体外の魔力はすぐに霧散しちゃうから常に放出し続けるコトになるからね。
それに、ソレを実現させたとして、魔力で満たされた空間に居続けるコトが人体に与える影響なんて分からないし。
実際、魔粒子は人体に悪影響があるってのは実体験|で学んでるし、魔力が無害だなんて思わない方が良さげかな。
う~ん、早くも特理を潰しちゃったデメリットが浮き彫りに……
連中が魔法や魔物に詳しいであろうコトはあの研究所の存在からしても間違いなさそうだから、それこそ魔物とか幽霊とかの魔法的存在への対処ノウハウを持ってそうだし、全滅は早計だったか……?
いや、伯父さんにしたコトを考えればソレは無いけど……
あ、その伯父さんに聞けば良いんじゃ――って、無理か。
伯父さん特理に居たって言っても魔力無いんだから魔法戦なんてしたコト無いだろうし、生身の物理攻撃で連中をどうこうできるとも思えないし。
一応、特理の人間を処理したってだけで、資料とか機密データとかまで処分したってワケじゃねえんだから、ソレを漁ってお勉強するって手もアリか……
加えて、危険って言うならそれこそその辺に居る他人共の方が問題かな。
現状は普通に日常が維持されてるようだから問題無いけど、もし何らかの要因で社会構造が崩壊するようなコトになったら――いや、コレはまだ杞憂で終わるかもしれない――魔物や魔界が存在するから全否定はできないけど――か。
だけど、反社会的な連中とか犯罪者ではなくとも他人を踏み躙ってヘラヘラしてるようなヤツらなんて腐るほど居るんだし。
そー言う連中の標的にされて心身ともに傷付けられるコトなんて大いにあり得るだろうし、そー言うのに限って外から見つけ出すのは難しいワケだし。
毎晩やってるゴミ掃除だって、目に付いたゴミを手当たり次第してるだけで、実際に伯父さんや伯母さんや光咲が日常的に関ってる人達までチェックできてるワケじゃない。
これから一緒に暮らすのなら、今度こそ誰も傷付けられずに済むように、何も喪わずに済むように――
ハァ……こんな身体になってからずっと感じてはいたけど、平穏ってのは随分と遠くにあるもんだねえ。
オレちゃん月にだって行けるってのに、到底辿り着ける気がしないんだけど。
「まあ、取り敢えず伯父さんが目覚めるまでは、僕もゆっくりしてようかね。今日は学校なんて行ったトコで真面に授業してるとも思えないし……」
まあ、そうなったのはオレ|の所為だって自覚は有るんだが。
だからと言って、ソレを後悔するつもりも気も無いからどうでも良いんだけど。
大体、犯罪者を雇い入れていた挙句に、この法治国家に於いて人数で囲って金をせびる無法者共まで放置してる学校側に問題があるってモンだ。
そりゃあ手を打つとも。
打たないと心配だよ逆に。
……そう言えば、光咲も今年で中学生だったっけ。
心配だ。
学校なんてロリコンショタコンの変態共と子供相手にマウント取って気持ち良くなりたいだけのクソ共しか居ないし、通ってる連中だって十把一絡げの玉石混淆だからなあ……
うん、チェックしよう、必ず。
流石に今すぐにとは行かないけれど、伯父さんが起きて、何事も無ければ、すぐにでも。
あ~、あと伯母さんの方もか。
伯母さんは普通に主婦だったと思うけど、パートとか御近所付き合いとかもあるだろうから、その辺を洗い出さないとね。
伯父さんにしても、あの寝不足オッサンがちゃんと手配してくれてれば新しい職場だし、そっちの裏取りも必要か。
「あ~あ……ホント、平穏ってのは遠いもんだ……」
居間のソファーに身体を預けて天を仰ぐ。
どうせ目を瞑ったトコで眠気なんてピクリとも感じないんだけど、今の内に休んどくべきだろう。
これからまた忙しくなるんだろうから……