152話
いやまあ、だから何だって話ではあるんだけど。
不意打ちのつもりだったんだろうけど、ココ月面だよ?
んな単純な打撃が効くかよマヌケ。
そもそも魔力自体もショボいし。
なんてツッコミを抱きながらも、流石にあとコンマ数秒で激突するって段階で口に出す暇も無く、おもむろに変身体の角で突き砕いてやろうと頭の向きを微調整して――
予想外に重い衝撃が、オレの視界を派手に揺さぶった。
『はぇ?』
間抜けた声が尾を引く前に、翼から魔力を吹かして吹っ飛び掛けた体勢を立て直す。
なして?
どーして?
重さなんて欠片も無いこの月面で、何をどーしたら吹っ飛ばされるん???
と、疑問符を浮かべながら視線で金棒を追ってみると、十メートルくらい離れた地点にさっき斬り掛かった青鬼とは明らかに別個体と思われる黒い肌の鬼が居た。
うん、肌の色だけじゃなく、服装も違うから確実に別物だ。
なんだよ、縞々パンツの代わりに黒革のズボンって。
誰が作って着せたん?
ま、いいや。
その黒鬼は自由落下を開始した青鬼には目もくれずにコチラを睨んでいて……
って、チョット待て。
なんでテメエこんな空中にいつまでも留まって――いや、どうでもいいや。
どうせ魔法だろ?
さっきの不意打ちも、空中浮遊も。
そんな分かり切ったコトよりも――
『サッサと死ね』
そうそう、既に一匹へ掛ける時間としては最長タイム更新中なんだから、サッサと片付けないとね。
転移門はまだまだ残ってるんだし。
そんなワケで、魔力吹かして突撃かましたワケだけど、骨っこの一閃は慌てて振りかざしたっぽい金棒に遮られて黒鬼には届かなかった。
いや、正確には金棒そのものに防がれたんじゃなく、その手前の何も無い空間を通り過ぎようとした瞬間に波紋みたいなエフェクトが現れて弾かれたってカンジかな。
よく見たら黒鬼の足元にも似たような現象が起きてるし、コレがコイツの魔法で間違いなさそうだね。
『反発とかか反射ってトコか? どー見ても脳筋な見た目のクセに小賢しい魔法持ってるじゃねえか。おかげでこっからは乱戦だよクソッタレ』
そう、コイツに時間取られた所為で周りでは次々に転移が完了していて、未だに多い大人の術師共とか人間大の異形共とか珍しいトコだと埃塗れの棺とかも落ちてきてる。
まあ要するに、ルーチンワークはココまでってコトだね。
一応、どこかしらで手間取るだろうコトは予感してたし、ソレが初っ端に遭った可能性もあるんだから別に気にしちゃいないけど……
ソレはソレ、コレはコレ。
実際に邪魔されて手を止めさせられれば腹も立つのです。
『つーワケでサッサと落ちろクソが』
照準、発動、ドッカーン!!
最低限の運動エネルギーで発動した黒炎が、黒い二本角の上で爆発するみたいに燃え上がって黒鬼の纏う波紋を焼き尽くし、残りのエネルギーを宿した骨君が有無を言わせぬ勢いで黒鬼を月面へと叩き潰した。
うんうん、オレちゃんの存在干渉の良いトコロは、相手の魔法の性質を無視してただ強度の高低だけを比べて勝ってれば破壊できるってトコだね。
触れただけで衝撃に反発、或いは反射するのだとしても、その魔法の強度が低ければ御覧の通りってカンジ。
まあ、逆に言えば、超高度かつ超強度で張り巡らされた幻惑魔法とかが相手だと、魔物自体はフツーに殴れば一発KOでも、その魔法との衝突でエネルギー全部消費させられる場合もあるってコトだけど。
まあいいや、取り敢えず次。
こーなった以上、転移直後の混乱を狙った不意打ちをしてる最中に下から狙い撃たれるかもだし、放置して結託されたり共食いとかで強化されたりしても面倒だし、月面の連中から先に片付けるとしようか。
『まあ、突然こんな場所に連れて来られて状況把握とか酸欠と内圧の対処に忙しいだろうし、会話どころか呼吸もできないって時点で結託なんてできねえだろうし、そもそもの力がショボいから多少強化された程度じゃ雑魚のまんまだけども』
頭蓋骨から伝わる独り言で気分を切り替え、取り敢えず手近なトコに居る青鬼黒鬼を追う。
吹かした魔力で急降下し、頭が潰れてピクリともしない黒鬼の下敷きになって藻掻く青鬼の頭上に到達。
着地の寸前に一回転して身体の上下を入れ替え、鉤爪ギラリなあんよを真っ青な顔面へ。
そして――
『』
『あ? なんか言った?』
鉤爪にスライスされる寸前に牙のはみ出た口元が動いてたような気がするけど、その一刹那後には踏み潰しちゃったんで結局分からず仕舞い。
うんうん、黙ってろよ魔物め。
でもって、骨っこ振って発動した魔物処理の物理干渉でこの鬼二匹と叩き落して溜めてた分を圧縮破壊。
コレで魔臓器も潰れてるハズだから、再生なんてしないっしょ――っと、またもや仕返しの魔法っぽいものが。
ハイハイ、存在干渉存在干渉。
ったく、往生際の悪い……
『さて、こっからが本番かな?』
真っ白な大地に佇む魔物共――術師と思しき連中は全員這いつくばってる――を見下ろし、ニッコリと両頬を引き裂いて見せる。
ああ、本当に――腹立たしい。
まさか、人間界にこんなにも魔物が湧いていやがるとか。
しかも、さっきの鬼共みたく和風な連中も沢山だし。
なんで特理共はこう自分達の義務を放棄しておいてのうのうと他者を踏み躙りやがるのか。
ホント頭にくる。
そんな感情に合わせるように、身体の内側からビキビキと音が響いてくる。
筋肉やら骨やらが軋んでるのか、それともより強靭に作り替わっているのやら。
ま、目の前の連中を潰すのに不足は無いね。
余剰はありそうだけど。
んじゃ、第二ラウンドと洒落込もうか。