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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
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15話

 コンパス君が言ってた故郷(クニ)とやらの上空に辿り着き、そのまま空中に留まって見下ろす僕の視界に映ったのは、映画の舞台背景(セット)どころか歴史番組でも滅多に見られないような茅葺屋根の群だった。


え? 『茅葺屋根なんて今更珍しくもない。《(ダッシュ)》な村で見慣れてるっての』だって?


 いやいや、オオカミさんの吐息で吹き飛びそうな豚造りの屋根じゃないんだって。

 なんか、建物の天井部分どころか外壁まで覆い込んだ()()()()極まったヤツなんだってば。


 いや~、まあね? 一応、中学一年を修了している僕のオツムにはコレを表す単語も浮かんでるよ? 

 だけど……何て言うか、それを口には出したくない。

 だって、コレを認めて、もし『ドッキリでした! ざ~んね~ん(笑)』なんて言われたら、多分、今度こそ平静を保てなくなると思うから……


「『こ、此処こそ我らが領主(クニヌシ)様の治めるオオマキトイノクニである』! 『ささっ、我が(ミタマ)の救い主よ、地上に降りるのだ。』『此処からは我が双脚でもって案内を承ろうでは――


「うるせえ黙れ。それどころじゃねえんだよ」


 人が深刻になっていると言うのに何なんだコイツ、なんて文句が自走状態に入り掛けていたオツムを駆け抜けていったけど、それはソレ。

 まさか、上空一〇〇メートルの位置から何人もが踏み固めた硬そうな地面へ強制フリーフォールなんて事はさせませんですよ?


 とは言え、やっぱり邪魔なので取り敢えず降下ビューン!!


「『――な、ハ、アアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ』!?!!!?」


 突然の重力再開のお知らせに誰かさんも大興奮! わーい♪

 ――じゃねえよ!!

 疑問だか悲鳴だか分からん絶叫が耳元でドップラーして余計にうるせえわ!!

 大体、テメエが降りたいって言うからワザワザ送ってやってるのになんだその態度!?


 まあ? 僕も大人ですしお寿司。

 それを口に出す気は無いので、ココは一つカワセミの如き速度と鋭さで着地を――ってカワセミだと水面ならぬ地面に突き刺さっちゃうから、やっぱりフクロウやハヤブサのように優雅に華麗に着地をば。


 脳内イメージの通り、獲物を急襲する猛禽のように翼を畳んだ空気抵抗の少ない姿勢で頭から落下していた僕は、地面に激突する寸前で頭と足の上下を入れ替えつつ翼をバサァ!!

 大きく広げた翼の空気抵抗と魔力放出で降下時の運動量を綺麗にゼロへ、両手をパーにして掴み持っていた人間を地上へ。

 そんでもって、直後に放出した魔力で再び上昇。

 これで面倒事とはオサラバしたワケだけど、やっぱり状況は芳しくない。


「………………一応、試してみるか……」


 乾草の屋根達とその合間合間に見える百葉箱みたいな脚長の建物を見下ろしながら、僕は魔界で御世話になっていた第()感を使用する事にした。


 その名も《全方位魔力放出型探索法》、通称《魔力ソナー》(命名:黒宮辰巳)。


 その効果は……まあ、字ヅラの通りと言いますか、大方の予想通りと言いますか……端的に言って『広範囲に散布した魔力で周囲の状況を知覚』するって方法でせう。

 安易なイメージにはHの二乗チックなオーラとか円をヨロシクドーゾ。


 でもコレ、場所によっては砂嵐や吹雪、更には蚊柱や蝗の軍勢にも似た蟲の暴風、挙句は比喩ではない血の海なんてシロモノまで実在する魔界では重宝したんだよ?

 まあ、魔粒子の無い人間界(ココ)でどれほど効き目があるかは未知数だけど……


 そんなワケで、いつもよりそこそこ多めに魔力をコネコネして圧縮。しゃがみジャンプみたいにタメを作った方が遠くまで飛ぶからね。

 んで、準備が整った所で解放!

 爆竹みたいに爆ぜた魔力が球状のまま上下前後左右全方位へ薄く広大に飛散し、眼下の国って呼ぶより集落とか村とかって表現が似合う箱庭チックな人の世界を包み込んでいく。


 もし、下から見上げている村人達に僕の真っ黒な魔力が見えていたら、この世の終わりとでも思うのかなあ……なんか、脅かしてばっかでゴメンね……


 益体の無い思考を繰り広げる傍らでも放出した魔力はズンズン進み、やがて勢いを衰えさせる頃にはドコへ振り返ってもグラサン越しの風景と相成りました。

 なるべく『濃度は薄く放出範囲は広く』でやったから、お先真っ暗、一寸先は闇なんて事にはなってませんのことよ?


 これなら、トイクニとやらの人々も『潰された視界にパニクって道路に飛び出して~』なんて事にはならないと思う。

 そもそも自動車どころかコンクリの舗装路も見当たらないけど。


 にしても、結構広がったな……僕を中心に球状に広がったソナーの探知範囲は半径だけでこの人里全部覆えてるっぽいケド……ん~、やっぱ白線で彩られたアスファルトの地面は無さそうだね。


「――さて、ココは一体何なのか、じっくりかっちり調べさせて貰おうかねえ……」


 呟き、瞼を閉じた僕は、ソナーが伝えてくる膨大な情報に意識を集中させた。

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