149話
ふいっと上げた視線の先、小物系に次いで現れたのは三角定規大のお札ベタベタの木箱とか草書っぽい字がツラツラ羅列された包帯がグルグル巻きのミイラ――手先、足先のみ――とか……
『オイオイ、いよいよホラー展開も本番ってか? バトル漫画的ノリを期待してたんだが、コレならスラッシャー同士の共食いの方が期待できんのかね? ま、喰い合った結果、最後に残ったのが順当に満身創痍になるのか、蠱毒的なアレで超強化されんのかまでは知らねーけど』
誰にも聞こえない軽口を叩きながらも結局やるコトはさっきまでと変わらずで、転移完了した魔具を直接触らないように黒炎纏いの骨っこで一ヶ所に固めて適当なトコで物理干渉。
潰し丸めた後で反撃の魔力や魔法が飛んで来たら存在干渉で迎撃して次――ってね。
いやあ、楽勝楽勝。
今んトコ干渉魔法は二種類とも効かなかったり防がれたりはして無いし、この調子で進むんなら術師とか魔物が出てきてからも余裕を持って臨めそうだね。
ま、ソレは良いんだけど……
う~ん、なんてゆーか減った気がしねえ。
初期位置から移動しちゃってるから何とも言えないんだけど、さっきから周りに見える転移門の数が一向に減ってないように思える。&検索転移門の欠点だなこりゃ。
自分で作っておいてアレだけど、魔力さえ足りてれば幾らでも作れるからってその『幾ら』が具体的に幾つか分からねえってのはチョットね……
現に今こうして気分萎えちゃってるワケだし。
『まあまあ、流れ作業の屠殺なんざ毎晩やってるようなモンだし、ソレと同じって考えればストレスで魔力補充もできる死ね☆』
そう、逆に考えよう。
『こんなに沢山処分しないといけない』ってんじゃなく、『これほど沢山の脅威がオレの――いや、僕の大切なものを脅かしている』んだってな。
……………………うん、燃えてきた。
今なら火でも吹けそうだ。
上がってる火の手は真っ黒だけど。
湧き上がる魔力に身を任せ、一抱えサイズの魔具と、なんかチラホラしだしたキモグロいヌイグルミみたいなカンジの魔物らしき未確認生物共へと飛び掛かる。
『――――!??!!!』
『――――!?!!!!』
『――――!!?!!?』
え、なになに、聞こえない聞こえな~い♪
会話できねえんだよココ、息できねえ時点で察しろクソが。
ってか、なんだコレ?
妖精? 小鬼? インプ?
まあ見当たる限りでも種類はイロイロだし、パッと見じゃあそれらしい単語も出て来ないヤツもゴロゴロしてるし、なんならフツーの犬猫サイズだけど滅茶苦茶邪悪な顔した毛玉とかも居る。
人面チワワ?
ま、そもそもソレらがどーゆー存在かなんて考える必要も無いし、どーでもいいか。
少なくとも転移門の『全部纏めて』って設定は間違いなく機能してるのが確認できたワケだし。
でもって、現れ始めた魔物共の殺処分については、目の前に全身を晒してくれてるって時点で相当なアドですな。
なにせ、魔物には全個体共通で魔臓器って言う明確な弱点器官があるワケで、『臓器』って名称の通り身体のドコかにあるのは確実なんでゲス。
となれば、だ。
魔具と同じように黒い炎で全身丸めて潰せばそれでオシマイ、臓器の破壊どころか肉も骨も一緒くたに圧し潰して遺灰のダイヤモンドみたいになるってワケ。
んじゃ早速――照準、発動。
『『『――!!!!!!』』』
ハイハイ、断末魔の悲鳴なんて聞こえない聞こえな~いっと。
突然息のできない真空の世界に連れ出された挙句、瞬く間も無く月面に叩き付けられて、次の瞬間には生きたままダイヤモンドへと加工……
うん、中々に酷い展開だ。
化けて出てきそう。
ま、その『化けて』って部分は今飛び出してきた人魂っぽい魔力に存在干渉喰らわせてるから実現しないだろうけどね。
『にしても、代わり映えしねえな……まあ、うだうだ殺し合って時間無駄に消費するよりは、ルーチンワーク染みた作業ゲーのが多少はマシだが』
うん、別に期待してたってワケじゃないんですよ?
ただチョット、人間界帰って来てからストレスフルな状況が続いてたから、頭空っぽにして肉を裂いたり骨を砕いたりしたいかな~、なんてほんのり思ってただけで。
とは言え、勿論そんな自分の欲求を満たすだけの無駄行為に耽る暇も余裕も無いので、文句を言いつつも身体は半自動で月面叩き付けと干渉魔法発動《塵取り》を交互に繰り返してくれてるワケですが。
この場合、幸いって言うべきなのかな。
段々増えてきた魔物共だけど、最接近する月面叩き付けの時の反撃は今んトコは皆無。
まあ、当然と言えば当然か。
なにせ、突然気付いたら見知らぬ場所――しかも、息ができない上に空中――に居て、ソレを理解し切る間も無く安全基準ガン無視の紐無しバンジーでお月様に顔面ダイブ、そしたら周りの連中と一緒に纏めて圧し潰されるってんだから、何が起きてるのか理解できてるかすら怪しいし。
ただまあ、拍子抜け感は否めないね。
不意打ちに次ぐ不意打ちとは言え、この程度で何の反応もできなくなるとか、生存本能の有無を疑うよ。
まあ、真っ当な生き物じゃないからある意味納得だけど――
――カキン!
『――んお?』
そんな風に慣れが油断を生んだ直後だった。
干渉魔法発動時以外は黒炎を纏わせて無駄な破壊を撒き散らさないよう手加減していたとは言え、角や鉤爪以上に難くて頑丈な骨君の切っ先から硬質な手応えを感じると共に太刀筋を流されたのは。