148話
最初に大気の無い二重の意味での虚空へ現れたのは魔物でも術師でもなく、結婚指輪みたくデカい宝石とかがあしらわれてるワケじゃない大人しいデザインのクセに妙に禍々しい雰囲気を放つ指輪だった。
この一度装備したら外れなくなりそうなカンジがする呪いの指輪っぽいのを最初の獲物にしたのは、何かしらの損得でってワケじゃなく、単純にサイズが一番小さかったからです。
ホラ、月への呼び出しにさっき学校で使った強制転位門を使ったからさ。
コレって仕様的に呑み込む大きさが小さいほど早く転移が済む造りだから、つまりは呼び出した中でこの指輪が一番小っさかったってコト。
その証拠に、他はまだ半分も出てきてないのが大半だし。
さて、こー言うと、『なんでワザワザ全身出てくるまで待ってんの? 途中でブツ切りにすれば壊すにしろ殺すにしろ手間が省けるっしょ?』なんて疑問に思うかもなんで、もう少し掘り下げ。
ココでのオレちゃんの目標は『地球上に存在する魔力を持った驚異の排除』なワケですが、ソレがきちんと果たされたかどうかの判定にブツ切りの死体とか部品の一部じゃあ、ソレでホントに排除が完了したかの確証が持てねーでしょ?
基本的に真人間スペックな身体の術師はともかく、オレを始めとした魔物は身体が欠けた程度で死に切らないヤツが大半だし、物の方はもっと厄介。なにせ、ドコまで壊せば脅威で無くなるのかが分からないからね。
ホラ、所謂呪いの道具的なのって『壊すと周囲へ呪いが振り撒かれる』とか『自己修復機能がある』とかってフィクションじゃあるあるじゃん?
で、今まさにそんなフィクションそのものな戦いを始めようとしてて、そーゆー可能性を考えないのは流石に警戒心皆無だショ?
ってなワケで、『確認の為にブッ殺すorブッ壊すは転移が完全に終わってから』って決めてたワケです、ハイ。
因みに、呪い的なのへの対処はフツーに対魔法の干渉魔法『存在干渉』があるから、ワリとどうにでもなるとタカを括っております。
ま、そもそも物理法則から逸脱してる魔力や魔法への対策として考え付いた干渉方法だから、そう悲観する程でもないと思うんよ。
そんじゃま、行きますよドーン!!
取り敢えず、大上段に振り上げた黒炎纏いの骨君での振り下ろし一閃が指輪を襲う――のは良いんだけど、ココでクエスチョン。
『地球の六分の一しかない重力環境下で物質を効率良く変形、破壊するにはどうしたら良いでしょうか?』
単純に殴る蹴る?
体重が六分の一になる世界で、質量を基に算出されるエネルギーをただ単にぶつけるだけ?
それじゃあ、地表に居る時よりずっと低威力になるのが目に見えてるし、下手すると壊せないまま遠くへ投げ飛ばすだけになりかねない。
無しだね。
じゃあ、骨っこや鉤爪で引き裂く?
確かに形状的にはできるし、実際に魔界で『思いっ切り動きながら刃筋を立てて振る』ってのはしっかり身についてるから、刃物でも爪でもそう難しくは無いよ?
でも、斬った後はどうするの?
さっきも言ったけど、単にバラバラに解体するだけじゃあ完璧に無力化できたかどうか確証が持てないし、斬った破片が月の低重力でアッチコッチに分散しちゃったら手間だ。
却下。
んじゃ、魔法を使おう。
空間魔法での中途半端転移とかでバラバラにするのも良いし、強制転移門を途中で閉めちゃえば破片も飛ばずに真っ二つ。
干渉魔法を使うなら主観干渉ならチリ一つ残さず消し飛ばせるし、物理干渉でも全方位から圧縮する形で力を加えさせればなんでもビー玉にできるよね?
うんうん、これなら確実だね!
……相手の数が多ければガス欠になるけど。
今視界に入るだけでも百や二百じゃ利かないくらい転移門ができてるけど。
うん却下☆
さて、となれば――こうしよう。
振り下ろす骨が指輪へ微かに切り込んだ瞬間に一瞬だけ手を止める。
こうするコトで指輪が骨に引っ掛かってる状態にし、ソコから更に骨っこを振り抜いて真下の月面へと投げ付ける。
幸い、呪いの指輪はソレ単体で動いたりし無さそうだから、ココで一旦放置。
次行こう次。
バサリと――いや、空気が無いからほぼ無音だけど――広げた翼でその場に漂いつつ、獲物を求めて周囲へ視線を向ける。月面は空気が無いから臭いや音がほぼ感じられない代わりに、光が遮られるものも無いから視界が素晴らしく利くね。
空気も無ければ魔粒子も無い以上、魔力はソナーで消費するよりも戦闘に専念させた方が無難だし。
ってコトで、最小限の移動用に魔力放出をして推進力を得たオレちゃんが次に狙ったのはペンダント――って、よく見たら結構な数の宝飾品が現れてやがる。
コレ全部呪いの装備なの?
『ハハ、呪い祓えたら儲けられそうだ。ま、全部盗品だけど』
ってなワケで、持ち主から無断で拝借した貴金属類を手当たり次第に骨っこで――直接触ると呪われそうだからね――叩き落しまして、一先ず目に付く分全部集め終わったトコで照準。
使うのは当初の予定通りに物理干渉で、叩き落したアクセ全部を全方位から包み込んで圧砕するカンジの黒炎展開を設定、使うのは当然いつもの黒炎の鞘を解除した骨っこに生じるトンデモ運動エネルギー。
もしコレで呪いなり魔法なりの反撃が飛んできても存在干渉が十分間に合う間合いだし、この二回を合わせても主観干渉一発分よりもはるかに魔力消費が少ない。
エコだね♪
んじゃ、発動――ズドン!!
地球でやれば、幾ら干渉力に殆どエネルギーを持ってかれてたとしても空気を切り裂く音がしたであろう振り下ろしは、しかして無音のまま虚空を過ぎ去りまして、眼下には黒炎が燃え盛る。
燃え上がってアクセ共を呑み込むとドンドン収縮していく黒炎が遠目にも見え辛くなった瞬間、聞こえるハズの無い破砕音が幾つも重なってシャンデリアでも落ちてきたみたいな轟音が響き渡った。
と、思った瞬間、魔界で散々味わったけどソレとは比べるまでも無く弱弱しくて数も一桁は足りてない殺気が飛んできて、ソレを追うようにさっき感じてた禍々しさや不気味さがより濃縮された魔力弾が迫ってきた。
う~ん、見たカンジ、大した威力も無さそうだけど、この手の攻撃って十中八九当たると何かしらの状態異常になる系の攻撃なんだよね。
しかも、追尾性能もありそう。
まあ、効果切れになるまで避け続けても良いけど、こんな序の序で無駄に意識を割くのもバカらしいんで――照準、発動。
骨君で迎え撃つように突きを放ち、その運動エネルギーを干渉力にして存在干渉を発動。
突きの引手を戻す頃には、魔力弾は黒炎に呑まれて跡形も無く消え去りましたとさ。
ハイ、これにてアクセ戦終~了~。
次は何かな~っと。