147話
ハイ!
やってきましたTha Moon!!
この真っ暗な空と焼け付くような空気に真っ白な大地が我々の命運を決める特設リングとなります!!
この天上の地獄で迎えますは魔物に術師に+αのクズ三昧の大乱闘!!
地球上に存在する全クズ共が蠱毒の如く喰らい合い殺し合うッ!!
ただ一人の勝者が決するまでッ!! 唯一の生存を賭けた戦いだァァァアアアアアア!!!!!!
…………ハァ、眠たくなっちまうぜクソッタレ。
学校から直通で月面にまで転移して来たワケだけど、ココまでは順調……と言えるのかね。
伯父さんを痛めつけた特理の撃滅から始まり、僕にとって最も他者と触れ合う機会の多い場――転じて、最も潜在的な敵対者が居るであろう私立嚆矢中学校の制圧……
ココまでで、最低限のクリアリングは済んだと言えるんだろうけど、区切りとするにはもう一押し欲しいトコロ。
その一押しってのが、今回企画した『地球上に存在する魔力や魔法で人を傷つけたコトのあるヤツ、ないしは傷つける可能性大なヤツは人も動物も物品も、勿論魔物も全部纏めて消し飛ばしてやるゼ☆ ただし月面でな!!』大会なワケです、ハイ。
まあ、つまり、オレみたいなヤツは全部死ねってコトだネ。
ソコまでして漸く必要最低限の安全ってヤツが確保できる……ハズ、だと思う。
う~ん……
やっぱり『少しでも魔力を持ってるヤツは問答無用で全員――』って条件にした方が後腐れ無さそうにも思えるけど、流石にソコまでやると何人殺す羽目になるか分かんないし……
こんなオレちゃんでもチョ~ット遠慮がですね、無きにしも非ずなワケでして、ハイ。
……ハ、ハハハ、ハハハハハ!!
自分で言ってて嗤えてきた。
なにが遠慮だ下らねえ。
今まで散々好き勝手やっておいて!
魔力持ちとその関係者だからと、特理のニンゲン皆殺しにしておいて!!
挙句、学校では魔物そのものの姿まで晒した上に人殺しの実演までしておいて!!
今更どの口が言ってんだクソ魔物がッ!!!!!!
ああ、ああ、分かってるよ分かってるさ!!
家族が害された?
だから危険を排除する?
んなもんただキレて暴れる為の方便だろうが!!
大事だ大事だ言ってた家族を鬱憤晴らしの理由付けになんか使いやがってクソカスがッ!!!!!!
テメエこそッ!!
テメエこそがッ!!!!!!
存在しているだけで他を損なうだけの生きる価値の無い魔物カスなんだってッ!!!!!!
分かってんだよクソッタレッッッ!!!!!!
でもッ!!
じゃあッ!!
どうしろってんだよ!?!!!!
全力の干渉魔法でも死なねえ魔物がッ!!
月なんて言う地球上の生物ならまず生きられない環境下でもピンピンしてられる魔物がッ!!
一体どうやって死ねってんだッッッ!!!!!!
そもそも死んで何が解決するッ!?
何が好転する!?
何も変わらねえだろうがッ!!
父さんと母さんと兄さんが魔物の所為で死んだって間違いが正されるコトも無ければ、その魔物の実在を秘匿して利権を貪る組織が世界規模で放置されるまんまじゃねえかッ!!
こんな状況でッ、死んで一抜けなんてできるワケねえだろがッ!!!!!!
――ハァ、ハァ、ハァ~……ダメだ。
頭ん中が支離滅裂だ。
いや、やるべきコトはハッキリしてるし、それも見えてはいるから、滅茶苦茶なのは感情だけかな。
まあ、この急を要する事態ではまず捨て置くべき雑念だからなんでも良いけど。
大体、僕の中での感情的な納得なんて、それこそ最後の最後に余裕が有り余ってれば考えても良い程度の優先順位だ。
それなら、そんな無駄なモノは全部魔臓器にくべて魔力に変えてればいい。
感情も葛藤も罪悪感も、全部無駄なんだから。
ってなワケで、湧き上がる雑念全部魔臓器へ――って、身体のドコにもんなオモシロ臓器見つからなかったから、取り敢えずいつものように腹の底から沸き上がるようなイメージで魔力を練り上げる。
すると、いつものようにスッ――と感情の波が引いていき、全身から真っ黒オーラが立ち上ろうとするので、ソレを呼気と共に身体の中へと留め抑えるイメージも思い浮かべる。
魔界でも人間界でも毎日のように繰り返して、今ではほぼ自動でできるようになってた魔力製造のプロセスを意識的に利用して精神安定を図るテクニックなワケだけど……
今にして思えばコレとアホほどよく働く上に百パーの命中精度を持つようになった直感があったから過酷な魔界も乗り越えられたのかもね。
感謝感謝。
ま、生き残れて良かったのかどうかは、今となっちゃあ微妙――どころか大分怪しいトコだけど……
あ~止め止め。
なんにせよ、やるべきコトは決まってんだからさっさと取り掛かろうじゃないか。
それに、今回に限っちゃあ先に済ませた二回分の安全保障作戦と違って、成功の目途はほぼ五分かソレ以下だしネ。
だって、今度の敵は地球全土からの招集だ。
大抵の術師は月って言う環境下のおかげで呼べばその時点で終わりだろうけど、魔物や魔――そう言えば物に魔力が宿ってる場合ってまだ出くわしたコト無かったっけ。
まあ順当に魔具とかで良いか……
とにかく、その魔具と魔物については別だ。
魔物については、その一種であるオレがこーしてピンピンしてられてる時点で環境変化程度は耐える可能性大だし、魔具に至ってはそもそも生き物じゃないって時点で空気や重力や有害な光線なんかの有無程度に左右されなさそうだ。
なんにせよ、ブッ殺すブッ壊す一択だろうね。
空気がねえから会話もできねえし。
……まあ、やろうと思えば干渉魔法でどうとでもなるけど。
まあ、そんな無駄なコトに割く魔力があるなら一匹でも多く、一つでも多くブッ殺したりブッ壊したりする方がよっぽど有意義ってな。
……万一の場合、もしかしたら、ありえなくはない可能性の一つとして、地球上に存在する魔物や魔具の中には、人との共存共栄を果たしているヤツやモノも居て、術師の方も正義の味方的な悪人だけをターゲットにしているようなヤツが居るのかもしれねえ。
だけど、人を傷つけたコトのある、ないしは傷つける可能性が大きい――言い換えるなら、いざって時の実力行使が選択肢に入ってるって時点で危険だし、そもそも魔力なんて言う他者を踏み躙るコトにしか使えないクソにすがるクズなんて、須らく余すコト無く排除されるべき害悪だ。
勿論、オレも含めてな。
その害悪が互いに潰し合うのは逆説的に有意なハズだ。因果応報、禍福は糾える縄の如し――はチョット違うが、まあ要するに、その内オレの番も周ってくるってコトで。
今回は報復を下す側に立つとしよう。
『さてはて、オレの最期が回ってくるのはいつになるのやら。ま、精一杯励むとしようじゃないか』
骨伝導で伝わる自分のセリフの白々しさに噴き出すのを堪えながら、左目に展開した転移門を解除。
万一にも、ココでの戦闘が転移門を通じて伯父さんへと影響を及ぼす、なんて考えたくないからね。
続けて左腕から戦いにしか役に立たないけど滅茶苦茶頼りになる『骨』君を抜き放ち、迎撃準備完了。
魔法を発動する。
干渉魔法の併用によって出来上がる転移門は、それだけで満天の星空を埋め尽くすほど。
『大盤振る舞いだな。久方ぶりに歯応えのある戦闘になるかね?』
コチラの魔力残量は、今朝のゼロから回復した分引くコトの今使った空間、干渉併用発動の分で、昨日までの半分以下。
加えて、魔粒子が無いのは地球上も月も変わらずなんで、魔力を使っての――特に長時間戦闘には不向きな環境。
オレの基本的な戦闘スタイルは、肉弾戦ゴリ押しに干渉魔法による数や距離及び耐性無視の決め技を加えた搦め手無しの真正面戦闘になるから、単純な戦力のぶつかり合いならともかく、搦め手専門の相手が上手く嵌ると手古摺る可能性もある。
一応、干渉魔法も空間魔法も自由度が高いから搦め手対策になるし、実際魔界では何とかなったけど、空間魔法の方については座標の認識やら計算やらが必要な所為で、最早感覚だけでも発動できるほどに習熟した干渉魔法のように瞬間発動はできないから、出番はこの呼び出しだけかね。
尤も、魔力消費を考えたら気軽に撃てるワケじゃないから、基本は変身体と『骨』君オンリーでの白兵戦になるかな。
『さあ、始めようか』
骨から鼓膜に響く自分の声に牙を剥くように笑みを浮かべ、バビロンっぽく虚空に展開された転移門から続々と降り注ぐ連中へと飛び掛かった。