144話
まずは、オレ自身の衣装合わせから。
「へ~ん、しんッ!! ってな……ハァ、下らねえ」
ポーズなんか取らずフツーに座ったままやったから、なおさらってね。
ま、いつも通り変身体纏って真っ黒い悪魔みたいなシルエットの恐竜頭になりましたよっと。
でもって、照準。
干渉するのは、今から発動させる空間魔法の標的設定で、『《嚆矢中学の全生徒、全教師、及び用務員――いや、ココは確実に『《今現在嚆矢中学に所属している人間》に該当する者達の頭上』からこのアリーナへと続く転移門を構築。
通過許可は人間のみ対象で。
んじゃ、開門っと。
今回は門の開け方にチョット一工夫。
開門から一秒ほど掛けて頭頂部から足裏へと転移門自体が下降して全身を呑み込み、自動的に転移を完了させるカンジで。
転移門はその名の通りあくまでも通り道でしかないから、移動には自発的に門を潜ってもらう必要があるから、今までは自由落下で門に落とす落とし穴方式だったけど、これだと落下の衝撃で大なり小なり痛い思いをしちゃうので、コッチの主張をしっかり聞いて欲しい今回は却下。
かと言って、転移だと転移位置が少しでも被れば人体同士で『いしのなかにいる』になっちゃって、結合部位の切断、切除とか必要になっちゃうかもだし、最悪の場合は全部纏めて肉の塊一丁上がりって流れにもなりかねないから、コレも却下。
ってなワケで、『作成済み転移門の位置操作』って言う一手間を加えたワケですが、果たして結果は――
――ざわ…ざわ…ざわ…
な~んて、オノマトペがお似合いな環境が出来上がり~、ってね。
ハァ……いや、まあ、自分で作った状況だから仕方無いんだけどさ、動揺が落ち着いて、オレちゃんがゆっくりお話しできるようになるまでどれくらい掛かるんだろうね?
なんか、コーチョーとか言うオッサンが『はい、静かになるまで~分掛かりました』なんて嫌味を言いたくなる気持ちが分かってきたよ。
あ~、ヤダヤダ。
取り敢えず、コッチからアクション起こして無理矢理黙らせるんじゃあ魔力が勿体無いし、テキトーに連中眺めながら待つとするか……
ん?
なんでスウェット?
視線の先、我が身に起こった理解が追い付かずに視線を右往左往させてる連中の中に、明らかに中学生くらいの年嵩なのに制服着てないヤツがチラホラと。
……?
…………ああ!
ビョーキか!
じゃなきゃ、私服の――それも休日ぐでぐでスタイルなんかしてねえわな。
ま、ソレが身体のなのか頭のなのかまでは知らんけど。
いや~、想定では教員以外のPTAとかこの私立中を経営してる連中を引っ張り出すつもりだったんだけどね。
ま、その目論見通り経営陣と思しき高級スーツのオッサンとかエプロン装備のオバサンとかも引っ張れてるから、失敗ではないけど。
それに、病人だろうが引き籠りだろうが私立嚆矢中学校の関係者として校門素通りできるワケだし、なんなら連絡表とかも持ってそうだし、見逃すワケにはいかねえか。
うん、これなら成功と言えるのでは?
……イマイチテンションが定まらねえが、とは言え、だ。
今後の予定を鑑みれば、ココでのタイムロスは避けたい――ワケでもないか。
時間が経てば経つほど魔力は回復するワケだし。
いやでもやっぱヤダ、こんな本質的にはどうでも良い連中相手に待ちたくない。いや、その不満で魔力もグングンだけども、やっぱイヤ。
となれば仕方無い、彼らにもコチラの不満が伝わるように誠心誠意力を込めて呼び掛けるとしようか。
まずは深呼吸。
深く深く空気を吸って肺を一杯に――うげ~、密閉空間に充満したニンゲン臭が……
いや吐き出すな、我慢我慢。
吸って吸って――よ~し、充填完了。
では、せ~の――
「――ゴォギャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」
ガパッと開けた口腔から、肺の空気を全て吐き出す勢いで思いっ切り咆える。
うん、皆まで言うな。
分かってるさ、こんなのは人間が扱う言語じゃない。
ケダモノの威嚇だ。
ゴリラのドラミングと一緒だね。
でも、しょうがない。
オレは彼らにとって、父さんや母さんや兄さん達のような特筆して尊重すべき人間で無いどころか、ただ同じ学校に所属してただけの、ちょっと道で擦れ違った程度のどうでも良い他人共の一人に過ぎないんだから。
……お互いにね。
そんな関係性で『静かにして下さい』なんて言ったって、『オマエが黙れ』と返されるのがオチだ。
実際、小学生の頃の授業中にそんな遣り取りがあった覚えがあるし。
それに、効果は覿面だ。
なにせ、アレだけ騒々しく纏まりの無かった有象無象共が、皆一斉に耳を抑えてコッチを注視してるんだから。
……いや、コッチ見んな。
う~ん、自分で集めておいてアレだけど、やっぱ人前ってのは緊張しちゃうね。
オレちゃんってば、こー見えてあがり症だから。
今にして思えば、兄さんはどーゆー気持ちでパーティーのスピーチなんて熟してたのやらね……
僕には絶対マネできそうに無いよ。
ってなワケで、干渉魔法で聞く体勢を――と思ったんだけど、この更に後の予定を考えるとココで魔力を消費するのは上手くない。
仕方が無いので我慢我慢。
な~に、魔界でも魔物共の群れにガン見されるのなんて日常茶飯事だったっしょ? ついでにストレスで魔力ガンガンだし。
さあ、咆哮で震え上がった空気――勿論、二つの意味で――が落ち着く前に息を整えまして、
「フゥ――さて、んじゃ話をしようか」
うっわ、声が上擦る。
ハズい。
いやまあ、魔界での時は肉体言語で怒鳴り合ってただけだから、ノリもテンションも違うんだけどさ。
う~ん、なんでこんな緊張させられなきゃならねえんだ?
もう危険分子確定で即処刑で良いのでは?
んん、落ち着け落ち着け、最初は簡潔にコチラの目的を告げようか。
「今日、アンタらに集まって貰ったのは他でもない、ぼ――オレの周囲の安全を確保する為だ」
うん、良し――いや、なにも良くないけど。
まだ話し始めたばっかだけど。
なに一仕事終えた~的に帰ろうとしてんのオレ?
気合い入れろや魔物。
って言うか、まだ要件言っただけで従うかも抵抗するかも聞いてねえし。
いや、聞く来ねえけど。
ただ一方的に通知するだけだけど。
とにかく、ちゃんと分かるように位置から説明しねーと……
こんなコトなら、スピーチのカンペでも用意しとけば良かったよ。
ってなワケで、次は説明責任を果たすコトにしました。