142話
なんて、僕個人の気分が悪かろうが伯父さんが殺され掛けようが、時間は止まらないし巻き戻ったりもしないのですです。
無常なりや。
ってなワケで、登校。
うん、我ながら殺され掛けた伯父さん放置してってのはどうかと思うけど、早急にやらなきゃいけないコトができたし、ソレをするのにも魔力は必要だからね。
こんな真昼間っから狩りに出掛けても獲物が見つからないのは分かってるし、なら学校でコンスタントに稼ぐってのがベターだと思うワケ。
それに、今もこーしてこの間の月面リモート授業の時と同じく眼球前に可視光線のみ通行可能状態に設定した転移門を発生させて伯父さんをリアルタイム監視中な上に、別に作った転移門から僕の魔力を常時流し込み続けて家中を魔力ソナーの探知範囲にしてるから、急な狙撃や襲撃にも対応可能、万事問題無いのでせう。
と言うワケで、午前六時半の校舎内に転移してきたワケだけど……うん、早過ぎた。
「そりゃ鍵掛かってますよね~……はぁ」
教室の引き戸を開けようとして、ガキッと引っ掛かる金属音を聞いて漸く我に返る。
あ~あ、やっぱり抜けてるわ、オレちゃん。こんな時間に鍵開いてるワケ無いって分かってたのに……
まあ、来ちゃった以上は仕方無いし、かと言っていつの間にか靴も履き替えちゃってるしで、今更外で時間を潰すのもメンド臭い。どっか学校内で時間潰すか~。
そんな腹積もりでアテも無くテキトーに徘徊しつつも、なんとなく上の階に足を向ける。
「……ああ、そう言や屋上なんて入ったコト無かったな」
フィクションでならいざ知らず、今時校舎の屋上が解放されてる学校なんて存在しないし、それはココも例外じゃない。
だけどそれは、逆説的に『封鎖されてるけど屋上自体はある』ってコトであり、『人目皆無な場所』ってコトでもある。
それに『封鎖』なんて言っても、ただ鍵が掛かったドアに隔てられてるだけ。
オレなら入るのなんて簡単だ。
鍵なんて干渉魔法でどうとでもできるし、魔力節約するなら中からドアを蹴破っても転移使っても良いし、なんなら外から直接ジャンプなりアイキャンフラーイなりで上がり込んでも良い。
そんな思い付きのままフラフラノロノロと足を運びながら、ふとここニ、三日の朝に顔を合わせてた女子さんのコトを思い出した。
相変わらず名前は知らないけど、そう言えば今朝は見掛けてなかったっけ……
なんて思い返しながらも、『いやいや、流石にココまで朝早くに登校してるワケ無いでしょ』なんて自問自答を完結させる。
……今日これからやろうとしてるコトを思えば少しだけやり難くなるから、あんまり思い出したくなかったけど、流石に何度もエンカしてれば顔も覚える。
そんな顔見知りを――なんて躊躇してられるほど余裕なんて無いから、結局はやらざるを得ないワケで、今から多少なりとも気が重くなるワケで……
「……まあ、どうでも良いか。所詮は赤の他人、お互い譲れねえモンが懸かってれば手は抜けねえってな」
あの体育倉庫で家族と友達の為に立ち上がったあの女子さんを、今度は僕が踏み躙るんだ。
躊躇ってられなくとも多少手加減を加えることはできるが……できるケド――
「ソレが逆に付け入られるスキになりそうだし、そうなって困るのは女子さんの方か……」
想定される敵対勢力が僕へと接触を図る場合、最初っから直接僕へと向かってくるとは考え辛い。
オレの脅威度は特理共が身を以って示したワケだし、アレだけ大規模かつ派手にやらかせば誰だって警戒するのが目に見えてる。
なら、僕の周囲に居る人間が標的になるのは自明で、ソレの範囲にはオレが助けた(気になってる)人達も含まれるかもしれない。
だから、区別無く容赦無く須らく平等に無慈悲に取り掛からなきゃいけねえのです、ハイ。
そんな風に、下らない自己弁護、自己肯定を展開させながら、自家精製したストレスで魔力作りに勤しんでいると、気付けば目の前に屋上への扉が。
半ば確信しながらも一応ドアノブを捻ってみると、案の定押しても引いても開かないワケで。
「ハイハイ、魔法、魔法っと……」
テキトーに物理干渉を使って鍵穴に黒炎を展開し、ソレをモノホンの鍵みたく摘まんで捻ると開錠ガチャリ。
うん、やっぱり便利過ぎるゼ干渉魔法。
壊すも治すも動かすもなんでも御座れってな。
……その便利な力でやったことの大半が、今んトコ『傷害』と『殺人』と『不法侵入』ってラインナップなのがまさに魔物ってカンジだけど。
そう言えば、この干渉魔法ってパンチキックや武器攻撃なんかの運動エネルギーとか、魔力なんかを別のエネルギーに変換させてるんだよな。
ホラ、物理干渉なら運動エネルギーになってたり、存在干渉では『干渉力』とか言うオリジナルパワーになってたりってさ。
……主観干渉は起きてる現象が単純なえねるぎーの遣り取りだけで解決するワケ無いようなコトしてるから分類がムズいけど。
だから、もし仮に伯父さん一家だけ残して人類を滅ぼさなくっちゃいけなくなくなった時の為に、電気エネルギーやら熱エネルギーやらを適量発生させられるよう練習しとかなきゃだよな~。
これからのコトを本気で見据えるなら。
なんて、逃避させようとした思考が結局元の場所に戻ってきたことに溜息を吐きつつ、予想を裏切らない無人状態の屋上へと踏み込む。
……うん、なんて言うか大したことない景色だ。
一望できる景色は街一色でつまんないし、その景色も僕の身長の倍近い高さの緑フェンスで遮られちゃってるからイマイチ。
コレならお空を飛んで見下ろした方がもっと高くて気持ち良いね。
ま、独り占めできるって及第点は満たしてるワケだから大目に見てあげますとも。
なんて、何様な感想を片隅に追いやると、閉めたドアを背凭れに床へ直接座る。
うん、これからやろうとしてるコトを思うと変に緊張しちゃって落ち着かないから気分転換でもって腹積もりで来たんだけど、正直あんまり効果が無い。
かと言って、こんな野外でお勉強する気にもならない――ってか多分集中できない――し、他に気を紛らわせる方法も思い付かない。
予定としては登校時間が終わってから動くつもりだから、あと二時間くらいは待たされると思うけど……
ホント、どうしようか、この待ち時間。
「あ~、あ~~、あ~~~、どうしよっかホント」
雲一つない青空を見上げながら、なんにも思い付かない残念な脳みそを揶揄してみるけど、そんなコトで思い付くなら苦労は無い。
「あ~~~~――あ、そうだ」
思い付いた。
自食しよう。
ホラ、アレだよアレ、『自分のスピリチュアル的な何かを限界まで削って魔力を作ろう』ってヤツ。
アレなら、加減を間違えれば気を失えて、起きたら何時間後でした~ってなるからヒマ潰しにはちょうど――って良くないわタワケ。
伯父さんどうすんだバカ。
じゃあ、さっき言った干渉魔法の練習する?
発電でも発熱でもドンと来い――って、あとで使うんだよ魔力。
もはや使い慣れ過ぎて最適化が済んだ物理干渉ならいざ知らず、魔力ドカ食いするのが目に見えてる干渉魔法の新技なんか連発できるか。
思い付かな過ぎて迷案ばっか弾き出しおったアホの蟀谷に拳骨をくれてやる。
結局、なにも思い付かなかったので、もう諦めて伯父さんの警護を続行しつつの日向ぼっこに勤しみましたとさ。
チャンチャン☆