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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
138/186

138話

 ……だぁ~、クソッ。良かった、間に合った~。


 魔力欠乏による脱力感以上に伯父さんの安全が確保できた安堵感でまた立っていられなくなったけれど、本当に、本当にッ、ギリギリだった……


 もし、あの思考加速状態で伯父さん()()を対象とした異空間転移を思い付いてなかったら――どんなルートでもバッドエンドまっしぐらだったよゼッタイ。


 無理矢理魔力稼いで主観干渉に挑戦してたら、結局魔力不足で発動もさせれずに伯父さんの脳漿を浴びるコトになってただろうし、干渉魔法併用の空間魔法で雑照準な爆弾の転移除去も同上。

 伯父さんを通過制限付きの門に落とすんじゃあ体内の爆弾が引っ掛かるだけで取り除けなかったか、最悪引っ掛かった爆弾が脳内をグシャグシャに掻き回してたかもだし……

 ホント、あの切羽詰まったタイミングで行先設定に失敗すれば全身バラバラにしかねない転移を発動させるなら、僕が手ずから作ったあの異空間しか無かったよ。

 他の場所だったらミステリートリック張りのバラバラ殺人(分割転移)になりかねなかったし、爆弾の方を転移させて万一失敗しようものなら即アボンってなりかねないし。

 いや~、異空間(アッチ)も広く作っといて良かった。

 まあ、目覚めてないとは言え父さんと母さんに狭っ苦しい思いはさせたくなかったから、当然ではあるけれども。


 一応、言い訳をするのなら伯父さんに仕掛けられてた爆弾が頭の一つだけってのは結構早い段階で確定させてたんだよ?

 ホラ、最初に伯父さんのトコに跳んできた段階で、伯父さんの出血か所は手足と頭部だけって見て聞いて嗅いでソナーって特定してたから、半身不随起こしそうな背骨付近とか、物を詰め易い腹とかは()()()()()()()って分かってたし。


 とは言え、チョットもう、ホントに限界の限界。

 ただでさえ、最初の治療だけでも伯父さんへの主観干渉発動分の超絶魔力出費に加えて、干渉力に使った一振りで体力だってカラッカラ。

 ったく、変身状態だったのに内圧と摩擦と反動とその他諸々で全身の骨も関節もバッキバキで皮膚も筋肉もアッチコッチブチブチ千切れて血塗れってどーゆーコトだよクソったれ。


 ああ、もう帰って寝てたいけど、少し休まないと気力的にも体力的にも体構造的にも動けないし、魔力が無さ過ぎて空間魔法も無理。


 はぁ、仕方無い。

 すんご~くイヤだけど、このまま横になって一休み一休み――って、チョット待て。


「――ああ、あんなしょぼい花火だったってのは、つまりオレちゃんを生け捕りにする気満々だったってコトね……」


 遠退き掛ける意識を自分宛ての独り言で何とか繋ぎ止めつつ、朦朧としてた意識が聞き逃してたエレベーターと思しき駆動音を床伝いに聞き取る。


 幾ら頭に仕込む為の小型爆弾だったとは言え、流石にボヤも起きない程度の爆弾とか、対オレちゃん向けの火力じゃないのは自明の理。

 となれば、主力は別にあるワケでありまして……

 ただいま絶賛増援中なワケでした~。

 いや、まず最初の刺客が人どころか生き物ですらない爆竹だったけど。


 そー言えば、さっきからコッチ覗き見してるカメラもそのまんま放置してたし、変身も解けて真っ赤っかでぶっ倒れてるトコなんて見た日には、そりゃー『チャンスだ』って思いますよねそーですね。


 まあ、実際間違って無いし?

 今のオレちゃんってば人間界(コッチ)帰ってから最低最悪に弱り切ってるし? 

 いやはや、我ながら絶体絶命の大ピンチだね。

 もう少し後先考えようぜってカンジだ。

 いやまあ、伯父さん救出の為に全力を尽くしたコトに後悔なんて無いけれども。


 でもまあ、連中にしてみたら目論見通りにコトが運んでラッキーだったってトコかね。コレで数日越しに漸くオレちゃんを捕獲できる上に、散々喰らわされた()()()()の仕返しを直接できちゃうワケだし。


 なんて、床に突っ伏しながらつらつらと暇を潰すコトしばらく――いや、時計も無いし思考加速とかもあるから、主観時間がブレッブレなんだよね。

 まあ、とにかく欠伸を噛み殺しながら待ってると、漸く檻の外に足音が出てきた。

 いや、どんだけ深いんだよこの地下牢。


「ん~、あ~、ひと、ふた、み――八人、かな? 足音的に」


 コンクリート剥き出しのスベスベでヒンヤリしてるけど大分埃っぽい床の上で耳を澄ませてるワケだけど、聞こえてくる足音が何やら妙だ。


 別に足音一つでその持ち主の身長体重性別etc全部が読み解けるって程に足音聞き慣れてるワケでも特殊な訓練詰んだってワケでもないんだけど、それでも一緒に聞こえてくる靴音やら衣擦れやら金属音やらを聞いてれば分かるコトもある。


 まず、ガッシャガッシャと重い上に喧しい四つの足音は、その大きさと雑音から推察するに銃を持った戦闘要員だと思う。

 うん、ココまでは良い。

 ココまでは分かるよ。

 そりゃあ、バケモノ(オレ)相手に武力の用意が無いのは不安だろうからね。

 ……ソレが通じるかどうかは別として。


 でも、残る四つは何やら毛色が違う。

 ペタザワペタザワと裸足みたいな足音に、シャンシャンと季節外れのクリスマスっぽい物音が混ざってるって言う意味不明加減。

 はてさて、何が出てくるのやら……


 少し期待(?)しながら待ってると、や~っと辿り着いてくれたらしい足音八つが、オレが居る牢の前で立ち止まり、声の代わりに何かしらのハンドサインでもしてるのか、『グッ』とか『バッ』とかって動作音が聞こえてきた。

 う~ん、我ながら背後の状況も丸分かりな聴覚はエクセレンッ。


 と、檻からガシャガシャと物音が。

 まあ、鍵くらいかけてて当たり前か。


 んでもって、ギィィィイっと押し開かれた牢にガシャザペタザワっと足音が侵入。

 テキパキと布陣を整えたらしい八人の内の四人がうつ伏せの視界に入ってきた。


「……ああ、なるほど。坊さんだったのね。錫杖シャンシャン喧しいからサンタさんでも来てくれたのかと思ったぜ」


 なんて軽口に反応したのかしないのか、視界内の戦闘服にアサルトライフル装備の覆面オッサンズがガシャガシャと銃口を突き付けてきた。

 あ~あ、ヤダヤダ。

 剣呑剣呑。


「――対象発見。これより確保に移る」


 戦闘服共の中でも一番偉そうなのがそう言いだすと、周りを囲んでる坊さん達が一斉に錫杖をコンクリ床に打ち付けて、仰々しくシャンと一鳴らしし――


「「「「ハンニャーハラーミーダ――」」」」


 なんて、お経唱え始めやがった。

 ったく、なんて縁起の悪い……って、お?


 ヤイヤイ五月蠅い坊さん達に文句の一言でも言ってやろうと思った束の間、何やら僕を中心に魔方陣っぽいものが床一面に広がり、その光の中から明らかに透けてる光の縄的なモノが次々と伸びては幼気な男子中学生の身体を締め付けて来やがった。


 そのまま、全身を覆い尽す勢いで巻き付いてきた縄共は、一際締め付けを増した直後、まるで雪のように空気中へと溶け消えて霧散した。

 なに?

 この演出……


「オイオイ、いきなり来たと思ったらなんだコレ? 手品か? テメエら坊主辞めてマジシャンにでも――」


「黙れバケモノ」


 グシャリと、何の比喩でもなくオレの頭を踏み付けて話を遮ってきたのは、嗤われた坊さん達の誰かじゃなく、戦闘服のオッサンだった。


 オッサンはグリグリと他人の頭を踏み躙りながら、侮蔑のたっぷり籠った眼で睨んできた。


「こうして魔力を封じた以上、今の貴様は魔力の使えんただのガキだ。これ以上粋がるようなら――」


「黙らねえよクソ野郎。んなコトより、オレの質問に――」



 ――ダダダンッッッ!!!!!!



 今回オレの話を遮ったのは、連射された三発の銃弾とソレに抉られた太腿の傷口から駆け上がる灼熱の痛みだった。


 話を続けようとしてた口から、一息分だけ空気が漏れる。

 ソレは言葉にならず一つの間となったけれど、


「――答えやがれ、人質大好きのクソッタレ特理共」


 そんな痛み(モノ)には構わず、言葉を続けた。


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