135話
曰く、自分達が集まっていたのは一昨日から始まった謎の集団廃人化事件についての調査報告及び情報共有の為であり、その対応策として下部組織を使って半グレ共やチンピラ共を扇動して、ソイツらを囮に犯人を特定しようとしてたんだってさ。
まず、昨日の段階で『半身不随の全盲聾唖者が突然金見市中央病院の入り口前にダース前後、多ければ数ダース単位で現れる』って事件について、被害者親族以外にも関係者間では結構周知されてたそーな。
また、昨日今日と何故か一切の報道がされてないらしい上に、ネットやらSNSやらで幾ら書き込もうが呟こうがいつの間にか消えてたり書き換えられてたりするらしいけど、まあ『人の口に戸は立てられない』ってゆーし、その辺についてのモロモロは割愛。
で、そーしてこの話が広まると誰もがこう思うワケだ。『この事件は複数犯による襲撃、見せしめだ』って。
だってそうでしょ?
襲われてるのは『柄が悪い』を通り越して犯罪者と犯罪者予備軍の集団ばっかで、総数は百を超えてる。
しかも、その全員が一夜の内に目も耳も聞こえず動けも喋れもしない肉袋にされちゃってるワケだからね。
ココまでだけでもフツーに考えれば一人でできる作業量じゃないのに、その肉袋全部を――総重量で言えば十トン近いブツを人の目どころか街頭カメラにすらも映らずに病院まで運ぶとなれば、いよいよもって一人じゃ不可能だ。
一晩でやり切るんだとしたらそれこそ数百単位で動かせる兵隊と専用の加工工場を用意しないと無理だってさ。
いや~、ヤクザ屋さんは発想が怖いね。
だから、下っ端とかイキったガキ共を嗾けて囮にして、自分達の手の者はソレを監視させて犯人グループを特定、追跡して拠点兼加工工場を割り出してから総攻撃――って策を立ててたんだってさ。
ま、結果は魔物のクセにイキリまくりなオレちゃんによる単独犯で、動機も組織間の抗争なんてチューガクセーにはフィクションの世界なお話じゃなくって、単に魔力ペコちゃんがお摘みにしてただけってゆーね。
ざ~んね~ん、ハ~ズレ☆
コホン……なにはともあれ、それで街には殺気立った連中が多かったってワケだね。
うんうん、ふ~ん。
「――た、たった二日の間にウチの組の連中だけでも百人近い犠牲者が出たんだ――です。せめて、犯人の数と正体くらい掴まにゃあ私らもメンツが立たんのです……」
なんてカンジで締め括ったオッサンは騙り終えたお口にお行儀良くチャックをすると、後ろのオッサン共や黒服共と同じく吐く一歩手前みたいな顔色でコッチの顔色を窺ってきた。
ま、お探しだった犯人ちゃんと接近遭遇を果たせて嬉しいんだろうね☆
コッチはイライラで火でも吹けそうだけど。
にしても、そうか……
下部組織を使っての扇動ね。
コレは中々に良いコト聞けちゃったんじゃなかろーか?
「ん~、そっかそっか。そりゃ良かったね。犯人のご登場で特定完了だ、やったなゴミ共。ホラ、喜べよ」
お茶ら気た風に両手を広げて見せると、皆さんなんでかダンマリです。
う~ん?
メンツとやらは守られたんだから喜ぶべきなんじゃないかにゃ~あ?
「ホラホラ、どうしたの? 良かったでしょ? 嬉しいでしょ? なら笑おうぜ? なあ、ホラ、オレも一緒に笑ってやるからさ。さ、せ~の、アッハハハハハ……ホラ、せ~の――」
なんて、尻尾をフリフリ、羽をワサワサしながら促すと、チラチラと周りのメンツを見遣りつつポツリポツリと笑い声が上がる。
うんうん、その調子。
「良いね良いね。さあ、もっともっと腹から声出して思いっ切り――さあ、せーのッ」
『『『……ア、アハハハ』』』
「はいッ、もういっちょ――」
『『『アハハハハ――』』』
「そらッ、もういっちょ――」
『『『アハハハハハ!』』』
「さあッ、もういっちょ――」
『『『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!』』』
「――んじゃ、お終い」
ヤケクソなのか、それとも妙なスイッチでも入ったのか、煽られるままに笑い続けるオッサン達が不快で不快でたまらなくなったので、ぱちんと手を叩きながらいつものゴミ処理魔法を発動。
途端に『アギョっ!?』とか『ハゲッ!?』とかって意味の無い声とドサドサッてゴミ共が倒れる音が連続する。
はぁ~、魔力稼ぎのチョットした余興のつもりだったけど、予想以上に効果が出たな。
魔力グングンですよ、グングン。
まあ、その分だけイライラも倍増だけどね。
……ホント、危うくブチ〇すトコだったんだゼ☆
でもまあ、イロイロ収穫もあったし別に良いけどね。
なにせ、コイツらってばオレちゃん対策のつもりでワザワザゴミを一か所に掃き固めてくれてるってんだから、ホントに大助かりってモンだよ。
この調子なら今日は昨日一昨日以上の釣果が見込めるんじゃなかろーか?
なんて、楽観的に雑な皮算用をしながら自分と足元に散らばるゴミ共へ向けて、それぞれ別々の行き先へ向けての転移を発動させて再びの空の人(自力)になったオレちゃんは、そのまま金見の夜を征くのでした~。
――――この時に……
いや、もっと早くに――せめて、ハラを決めて意気揚々と下校した時にでも気付けていれば、この後の展開はまた違ったものになったかもしれない……
でも、そんな『もしも』なんて考えるだけ無意味だ。特に自身が既に存在している過去の世界には入れないって縛りのある僕にとっては猶更。
だから――僕にとって、この後に起こる出来事は、今後一生忘れられない傷として刻まれた。