134話
とまあ、気分刷新意気揚々と街へ繰り出したワケですが、
「ん~……、なんか少し増えたか? ゴミ共」
そう、ゴミ掃除開始してからの三日目にあたる今日この日、春先の遅い日の入りを迎えた直後にして釣果はなんと三桁突破! しかも、コレまだ三か所目だからね?
一か所でゴミ三〇人越えって、魔力的には嬉しいけど法治国家としてはどうなのニッポン?
いや、初日のラストが五〇人越えの大当たりだったけども。
「考えられるとすれば、オレちゃんのボランティア活動が知れ渡っちゃってるってトコなんだろーけど……オレが片付けた連中らって喋れねえし書けねえし動けねえから、情報源としちゃあSNSの呟き以下だろーに、そんなんでよく実際に備える気になったよな。ソレもたった一日二日程度の間にさ」
うん、まあ、分かる。
分かるよ?
全員が同じ傷、同じ症状で、病院の前に放り出されてるなんて珍事が続けば、誰だってソレが人為的に引き起こされたってコトは想像が付くだろうし、そんな目に遭わないよう頭数揃えて自衛しようってハラになるのも自然だろうさ。
特に片付けた連中と近しかったり、日頃から暴力に慣れてるような連中なら猶更な。
実際、数を集めて集会的なのをやってたり、ソレが終わったらしいトコだと木刀だの警棒だのバットだのを手に手に街へ繰り出そうとしてたし、そんでもって今来たこの四か所目――
「でもさ、ソコで少しは考えなかったのか?」
高層ビルの上階。
その一室でフカフカの毛深い絨毯の上に一人掛けソファーを並べて、更には懐に拳銃を忍ばせた黒服をニ、三人控えさせて、伯父さんとは別――いや逆ベクトルな厳つい顔した高級スーツのオッサンが五人。
コイツらもあの三ダース三セットゴミ共と同じく、自衛の為に動こうとしてたんだろうねきっと。
「『なんで一度に何人も何十人も送られてくるんだろう?』ってさ。ソコに疑問を覚えられば、『複数人で居る連中が積極的に狙われてる』って気付けただろうに。ゴシューショーサマ」
ま、今は返事どころか傾聴もできずに絨毯の上で無様に積み上げられてるけどね。
勿論、このオッサン共の後ろに控えてた計十四人も同上なり。
下の方の連中はオレが手を下す前から妙な顔色になっちゃってるんだぜ☆
風邪かな?
にしてもまあ、幾ら着飾ろうがゴミはゴミだな。
下劣な品性がまったく隠せてねえって言うか、『粗にして野であり、卑でもある』って言うのかね。
だって、探知後即座に踏み込むと、開口一番『ンダゴラァ!!』に始まり、オッサンと黒服のセットを二つほど見せつけるみたくゆっくりブチのめしたトコで『う、撃ち殺せ!!』に『死ねやバケモノォ!!』なんだぜい?
ったく、こんなテンプレしかできねえんなら、今までの連中と変わんねえっての。
笑っちまうよホント。
「まあ、へーきで他人様を踏み躙られるような連中に想像力を期待するだけ無駄だよな。悪かった悪かった。テメエらゴミには、期待なんて向けられるだけ重荷にしかならねえよな」
さて……まあ、今回このオッサン達に目を付けたのは単にソナーの探知範囲内に銃弾の火薬と思しき反応が在って――って流れでしかないんだけど、折角多少はお喋りができそうな文明人(本質はゴミだけど)と接触したワケだし、偶には街頭インタビューとでも洒落込もうか?
お題は……そうだな。
ゴミ掃除以降の街の様子とか?
いや、さっきの『一か所当たりの数が増えてるのは、オレを警戒してるから』ってのは、あくまでも予想でしかなくって、単に巡り合わせが良かっただけとか、棒状の物を持ち寄ったグループセラピーが流行ってるだけかもだし? まあ知らんけど。
「――っと、それなら」
分かり易く手を掲げながらスナップを一発。
と、同時に干渉魔法を発動させてゴミ共を床に這いつくばらせたまま、HP全回復させまして。
そうして、呻き声をあげながら身体を起こし始める連中を尻目に、窓際の上座っぽい位置にあるソファーへと腰掛け――る前にもっかい魔法発動。
ゴミな上にオッサンなケツが乗っかったオッサン菌大繁殖中の座面になんか触れたくも無いからね。
ってなワケで、黒炎の晴れたソファーへ翼わさわさ尻尾くねくねで収まり良くポジショニングしつつどっこいしょして、傲岸不遜なカンジで鱗塗れな脚を組み、
「さてさて、そんじゃまあ、アレだ。ソチらに聞きたいコトがある。オモテを上げい」
なんて、おふざけ感満載に厳めし気な声を出すと、
「ぐ、ぎ……ギサマッ!! こんなマネしてタダで済むと――ぶギャ!??!!!」
ドコとなく三下臭のするオッサンAが、いの一番に立ち上がった勢いのまま口を開いてきて、いきなり怒鳴られちゃったんだぜ……グスン。
うう、怖い怖い。
怖いからついつい叩き潰しちゃった☆
振り下ろした尻尾を蛇の鎌首みたく持ち上げながら、干渉魔法で『オッサンAが潰れてる』って現状を改変して、尻尾の汚れを綺麗にするついでにオッサンAを無傷に戻してやる。
するとまあ、未だに立ち上がれてなかった他のオッサン共や、オッサン達より頑丈な所為でついつい力が入り過ぎちゃった黒服達もお口チャック。
うんうん、良い子良い子ちまちょーね~。
まだ、オレちゃんが喋ってるんだぜい☆
「ん、じゃあ続けようか。え~っと、そうだな。今日はテメエらの前にも三件ほどゴミ掃除に周ってきたトコなんだが、ドコもカシコも妙に殺気立っててな。警棒とかバットとか、そんなん持って街中歩こうとしてた連中まで居たから驚いちゃって。なんか、理由に心当たりはな~い?」
はてさて、何が聞っけるかな~♪
と、連中の発言を待ってやってるワケだけど、今度はいつまで経ってもウンともスンとも言わなくなっちゃった。
なんで~?
「……なあ、テメエら一体何なんだ? ヒトが喋ってる時は口挟んで来て、質問すればだんまり。もうこの世に未練はねえってワケかな? それとも、存在するだけで害悪にしかならない自分達は今すぐにでも消えるべきだと悟ってくれてるとかかな?」
うん、別に怒ってなんかいないよ?
ただ純粋に疑問に思ったから口に出しただけ。
尻尾ひゅんひゅんさせてるのは、チョット手慰み的にやってるだけで他意は無い。
ホントだよ?
だからまあ、このまま喋ってくれなかったらそのまま処理して病院へ、って思ってたんだけど、
「まッ、待ってくれ!!」
「話すッ、話すから!!」
「い、命だけはッ!!」
なんてカンジで、ピーチクパーチク喧しくなりやがったので、一先ず取り止めに。
にしても、ドイツもコイツもいい歳ブッこいてるクセに落ち着きがねえな、オイ。
あんまりにも喧しくて収拾がつかなさそうだったんで、お口の前に人差し指を立てて見せると途端に沈黙。
うん、Good Boy。
「はい、それじゃあ、一人ずつお行儀良く行こうか。今の質問答えてくれるのはだ~れ?」
こうして、まるで教師と生徒みたいな構図で偉そーなゴミ共とその部下共とのお喋りが幕を開けたのでした、っと。