133話
「今話せよメンドクセーな。目障りだっつったろーが。無駄に時間掛けさせようとすんな」
「あ? チョーシ乗んなっつってんだろカス。テメエは黙って付いてくりゃイイんだよボケ」
……ハァ、メンドクさ。
もうサッサと片付けて――って、だからダメだってば。
幾ら暴言ペラペラの目障り君だからって、その被害に遭ってるのがオレしか居ない現状、未だゴミだと確定したワケじゃないんだから。
そう、例えソレが『今までにも何度も繰り返してきているからこその慣れ』的なものを感じさせる振る舞いばっかりの相手だったとしても、まだ『魔物のように人を踏み躙って嗤うゴミ』であると確認できていないのなら、処分は早計だ……
いや、つい弾みでゴミ呼ばわりし続けちゃったけれども。
ホラ、アレだよアレ、『疑わしきは罰せず』ってヤツだね。
人に紛れて生きるなら法律とか道徳、倫理は極力守らないと☆
とは言え、ジュンポーセーシンを前提にすると、今の状況はソコソコ面倒だ。
対面してるゴ――Aの他にもBCDがそれぞれ僕の左右と背後に展開し直しちゃってる現状で、もし僕が無理やりこの包囲を突破しようとすれば、先に手を出したのは僕ってコトになり、正当防衛的な観点から連中は僕への手出しが解禁される大義名分ができちゃうワケだ。
幸い、このABCD以外に教室で残ってた連中はコイツらが喋り始めてすぐにそそくさ出てってくれたから、第三者からの目撃証言的なのは取れないだろうけど、ソレは逆に僕側に有利な証言も取れないってワケでもあるから、あんまり旨くは無いかな。
そもそも、証言人数が多い側の方が有利に働くだろうから、教師連中が首を突っ込んでくるような事態そのものを避けた方が良いワケで……
ハァ、仕方無い。
一応、収支はプラスだし、使っちゃうか。
「分かった。じゃあ、こうしよう」
『あ?』とか『う?』とか『え?』とか『お?』とか、そんな単音の疑問すらも入れられる前に空間魔法発動。
行先は……まあ、屋上にして、跳ぶのは僕とバッグだね。
いや、バッグは先に家に送っとくか。邪魔だし。
そして、同時に門を四つ生成。
屋上の虚空四か所とABCDの鼻先から後頭部までを輪切りにするような形で座標を繋ぐ。
さて、するとどうなるかって言うと――
「――う~ん、ど〇でもドアから顔だけ出すと、丁度こんなカンジになるのかね……?」
三メートル以上はある緑色のフェンスに囲まれた屋上に立つ僕の目線の高さ、その位置にABCDの鼻から上だけがまるで浮かぶように並んでる……
やっといて難だけど、滅茶シュールだ。
或いはグロかな?
まあ、どこ〇もドアと同じで、反対側から見ても通り過ぎる人体の断面なんて見えないだろうけどね。
あくまで、『空間を繋げるコトでA座標から直接B座標へ移動できる』ってのが門やどこでもドアの機能なのであって、別に通り抜ける間に細胞単位で細々と瞬間移動を繰り返してるってワケじゃないんだし。
『『『『――――』』』』
なんだか、スゲー物言いたげな視線を四つほど感じるけど、当然スルー。
ちなみに、コイツら側の門の位置は連中の顔の相対座標で固定してるので、幾ら教室に置き去りになってる身体が足掻いても門から顔がすっぽ抜けるコトは無いのです。
その代わり、その身体の方は自由に動かせるからソレで良いっしょ?
「さて、未だ状況把握なんてできてねえだろうし、そもそもテメエらに構うだけ時間の無駄だろうから、コッチの用件だけ済ませるぞ」
うん、我ながら無駄な前置きだね。
そもそも、魔法で強制的に主導権を握るだなんて魔物の所業をぶちかましておいて、今更ニンゲンらしくピーチクパーチク囀っても滑稽なだけだろうにね。
「つっても、まあアレだ。オレから言うコトなんて、人様に迷惑掛けんなってコトとオレを煩わせるなってコトくらいだけどな」
いやホント、別にコッチから積極的に関ろうって思ってるワケでもないんだから、言いたいコトなんてほぼ無いに等しいんだよね。
別にコイツらがホントにゴミ認定せざるを得ない場面を見たってワケじゃないし。
ただ、こんなコト言ったってコイツらが素直に止めるとも思っちゃいないよ。
だから――
「ま、テメエらが言って聞くような連中だとは思えねえから、一つ面白いモン見せてやるよ。いいか、もし今後オレの言葉に背くようなマネするってんなら――」
ハイハイ、両のお手々に魔力を込めまして、右手を頭に、左手を顎に。
んじゃ、せーのー……ッ!!
無言の合図と同時に魔力で大幅強化された両手を思いっ切り引っ張る。
すると――
『『『『――――!??!!!』』』』
ぐるぐると絶叫マシーンにでも乗っかってるかのように高速回転する視界の先で、四つ分の視線が大きく見開かれてる。
まあ、無理も無いか――なんて同情を、ブチミチゴキブチンッと生々しい繊維と骨の破断音を聞きながら、ポーンと間抜けに打ち上がった視界の中で浮かべる。
要するにまあ、メインカメラがやられちゃってるような有様なんだけど、当然のように意識も感覚もハッキリしてるので、
(ほいっと)
くるくると回り続けながら落っこちてきた自分の生首をデュラハンチックにキャッチしまして、ソレを見せびらかすように虚空のABCDへと掲げて見せる。
でもって――グチャッとな☆
左右から挟み込むように持ってた生首を魔力強化維持中の両手で挟み潰すと、ポーンと眼球が飛んでって破裂した風船みたく血と骨と脳漿が屋上に撒き散らされる。
いや、飛んでっちゃった目が両方とも明後日の方角を見てるから、実際にその場面が見えてるワケじゃないし、耳も鼻も潰しちゃったから聞こえないし嗅げないのだけれども。
うんまあ、人体構造的にと言うか常識的に考えて『首の無い身体が勝手に動いてる』って中々ホラーであり得ないマネしちゃってるワケだけれども、この程度は魔界じゃ必須技能だったからね。
いや切実に。
だってホラ、魔界での生活の、特に最初期の頃は四方八方から肉やら骨やら削られて取っ捕まって解体されて――なんてカンジで身体が欠けるコトなんて日常茶飯事だったからね。
その状態でも平時と変わらないパフォーマンスを求められれば、まあデュラハンスタイルも板に付くってワケで……
ただ、いつの間にかできるようになってたけど、詳しくどーゆー原理でできてるのかまでは分かんないんだよね。
まあ、完全に物理法則とか生物構造とかから逸脱しちゃってるから、魔法的な何かが働いてるんだろーけど。
でもまあ、幾ら魔力ソナーで周囲を把握できるからって五感の大半が使えない状態なんて不便以外の何物でも無いし、もう一言二言は言いたいコトもあるので、サッサと頭部を再生。
折角なので一瞬で再生完了させるのではなく、ワザと断面とか肉とか骨とかが見えるようにゆっくりとね☆
そうして、屋上の隅っこに転がる目玉から顔面に戻ってきた視界の先で思考放棄中っぽいABCDを見据えて、取り戻したばっかのお口を開き、
「――コレぐらいのコトが起こり得るって覚悟して来やがれよゴミ共」
最後通告のつもりでソレだけ告げて、門の相対位置をズラしてABCDの顔を抜き取ってから空間魔法を解除する。
ココで横着してそのまま解除すると顔面が輪切りになっちゃうかもだからね。
メンドーだけど仕方ないネ。
さてさて、それじゃあ照準して干渉して――お掃除完了。
例の如く、黒炎が屋上と真っ赤な両手と制服を嘗め尽くしてキレイキレイしてくれたコトを確認しつつ、魔力強化した脚力とその反作用で屋上を砕かないように展開した黒炎を足場に跳躍しながら変身体を纏う。
そうやって、バサリと開いた翼で空気を叩きながら、傾く日差しに紅く染められた街を見下ろした。
さてと、少し時間も早いし書き取りもできなかったけど、今更やり直す気分じゃないし、今日はもうゴミ掃除に励みますか――