131話
「バ~カ、違えだろ。ユクエーフメーだろ、ユクエーフメー」
「ハッ、フツーに田んぼも家もあるよーなあんな場所でユクエーフメーなんてあり得るわけねーだろ。どうせ、グチャグチャのバラバラになった死体が誰か分からねえんだって。なあ、どーなんだよ黒宮? テメエのモンペ共はどー死んだんだ?」
「ハハ、あのモンペ共が死んだとか、何度聞いてもウケるわ」
あんまりな言い草に思わず出そうになった手足を意識的に止めてたら、僕を取り囲むゴミ共は畳みかけるようにベラベラギャハギャハと実に楽しそうだ。
とは言え、怒りで逆上せ上がるのではなく逆に急速に冷え込む頭の中では、連中の言葉から幾つか読み解けたコトがあった。
まずは、やっぱりと言うか父さんと母さんと兄さんの事故が既に周知だったコト。
まあ、今学期の登校初日時点で僕の机に花瓶が置かれてたって時点で当たり前だとは思うけど。
次に、公式的な発表では父さんと母さんと兄さんは行方不明になってるコト。
伯父さんは行方不明扱いにはならないかもって言ってたけど、やっぱり特理は――ソレと警察もかな? ――は父さんと母さんを移送中に取り返された件を公表したくないみたいだね。
そして、このゴミ共が父さんと母さんをモンスターペアレントだと称したトコから察するに、連中が絡んでくるまで日を置いてきたのは父さんや母さんが本当に不在かどうかを確かめてたんだろうね。
なにせ、前に僕が対処しきれなかった所為で父さんと母さんが学校に呼び出されたコトがあったからね。
いやホント、今思い返しても痛恨の至りだよ。
丁度今みたいにヘラヘラ嗤うゴミ共に囲まれてさ、ベラベラ喧しいんで要件聞いたら金をせびられてさ。
別にソレだけだったら適当に煽って拒否って先に手出させてから反撃してやったんだけど、その時も今みたく父さんや母さんや兄さんを引き合いに出されてさ。
で、当時は今みたく死線超えまくってきたワケでも魔物入ってたワケじゃないからさ、カーッと頭に血が上って先に手出しちゃったワケで……
そうするとさ、騒ぎを聞きつけた教師連中は僕の方を悪者扱いするワケだよ。
先に絡んで来て金まで要求してきたのはゴミ共の方だってのにさ。
しかも、ソレを言っても教師連中は納得しないワケで……
結局、仕事で忙しいのに父さんや母さんへ連絡しやがってさあの無能共。
ホント、いい迷惑だよ。
コイツらにしても、教師共にしてもさ。
「――おい、ムシしてんじゃねーぞクズッ!! 出涸らしのクソの分際でチョーシ乗ってんじゃねえよッ!!」
ああもう、ギャアギャア喧しいなホント。
ま、ただ五月蠅いだけのムシケラなら相手にもしないんだが、いつぞやのゴミと同じように父さんと母さんを嗤ったのならその報いは受けさせねえとだな。
と、ソコまで考えて顔を上げると、真正面に立ってたゴミAとバッチリ目が合い――思わずと言った調子で後退ったゴミAが、僕の前の席に思いっきり躓いてドンガラガッシャーンとばかりに派手な騒音を撒き散らした。
うん、いや、なんで?
オレなにもしてねえんだけど?
「――はぁ!?」
「お、おいッ、シン!?」
「何してんだよ!? シン君!?」
頭の中の疑問符を解消できずにいると、一拍遅れと言うか、ゴミAの出した騒音にビビッたゴミBCDが鈍間な反応でゴミAの元へと駆け寄って行ったワケだけど、すぐに僕の方へと視線が向く。
まあ、当然か。
僕が挙動に対してのリアクションとしてゴミAが引っ繰り返った――っぽいんだから、そりゃあ僕を疑って当たり前かね。
そんでもって――ガタタンっとBCDまで揃って腰抜かしやがった。
いやだから、何故?
「――――め、」
あ? め? メ? 目?
単音じゃ分かんねえよゴミ。
「なんなんだよ、その目は……」
「縦に裂けて……色も……」
ハハ、ホントに目だったよ。
ってか、それでもなんで目?
別に今変身なんてしてないんだけど?
結局、ABCの言葉を馬鹿正直に聞いてやっても疑問が解決しなかったので、ココは一つ鏡でも――って、男子中学生が手鏡なんて持ち歩いてるワケ無いし、スマホも無いし――あ、丁度良いのが居るじゃん。
ってなワケで、席を立ってゴミ共を見下ろすと、その瞳を覗き込む。
まあ、フィクションにありがちな『相手の瞳に映った自分の姿を見る』ってヤツだね。
ホラ、殺人鬼に今まさに殺されようとしている被害者の死の間際に目を見開くような描写とか、主人公とかレギュラーキャラとかの過去編回想の導入とかにありがちなカンジの。
ああ、或いはトンデモ能力を得たイキリ主人公の俺Tsueeee表現とかでも良いか……なんか、言ってて悲しくなってきた。
オレちゃん、殺人鬼なの? イキリちゃんなの?
どっちも自覚してるよクソが。
「……ああ、ホントだ」
ケフン……はいはい、確認致しましたよ。
確かにこの目は変身中の目と同じだね。
ホラ、あの金瞳に縦に裂けた瞳孔ってヤツ。
いや~、こーしてみるとアレだ。
テレビとか動物園とか大き目のペットショップとかで見たワニの目にそっくりだね。
ホント、オレちゃんってば爬虫類頭なんだから――
「……バケモノ」
……Dが呟いたその言葉に、またも頭の芯が凍えた。