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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
130/186

130話

「起立、礼」


「「「ありがとうございました」」」


 ホームルームが終わった。

 さあ、書き取り(お勉強)しようか、書き取り(お勉強)


 とまあ、取り敢えず教師共の言葉やら板書やらを延々とノートへ書き写す作業を五セットと、魔界帰りのアホ身体能力の所為でマトモに測定する気の失せた体力測定を終えまして、放課後でござ~いなワケですが……


「………………はぁ」


 御覧の通り、未だに憂鬱の霧は晴れていないワケでありまして……はぁ。


 なんと言うか、我ながら珍しい事態だよ。

 いつもなら、勉強にしろスポーツにしろ()()共との殺し合いにしろ、すべきコトを見据えさえすればあとは自然と集中できちゃうタチだってのに、なんでこんなにも迷い続けてるのやら……


 いやまあ、確かに女子さんにも言ったけどさ~、順法精神的な観点からすれば中々に反した行いばっかしてる自覚はあるし、ソレに負い目を感じないワケじゃあないけどさ、でもだからってその違法な行いで踏み躙った連中への罪悪感なんて皆無なワケで……

 ナンなら、病院(ゴミ箱)送りにしてやった連中のコトも、『無かったコトにする』って実験の果てに消えてった連中のコトも、例外なく覚えてないしね。

 何人居てどんな顔してたっけ?


 だからまあ、何にこんなモヤッてるのかと聞かれれば――まあ、端的に言えば自己認識と周囲の齟齬ってカンジかね。


 いやホラ、()()がやってるコトってその結果や証拠が残ってるかどうかはともかくとして、その過程そのものは傷害とか器物損壊とか殺人とかの犯罪なワケじゃん?


 で、その過程を知ってる人達――その犯罪現場に居合わせた女子さんとか、夜歩き中に出くわした被害者さん達とか、オレちゃんの行動を逐一監視してるっぽい特理に所属してる伯父さんとかがさ、言うワケだよ。

 『ありがとう』とか『お前を責めはしない』とかさ。


 いやはや、なんとも慈悲深い。

 懐の深さと恩義の重さに吃驚仰天ですよアハハハハ……ハッ。


 でも、その言葉も態度も感情も、全部正しくは無い。

 間違ってる。

 罪は罪として裁かれるのが正しいし、この()()()()()がのうのうと息をしてるのも間違いだ。


 なのに、伯父さんも女子さんも――ああ、そう言えば他にもその場に居合わせた人達が居たか……

 なんにせよ、オレが犯罪に手を染めてるってのを知ってる人達は、誰一人としてオレを責めようとしない。


 そりゃあ、女子さんを始めとした被害者さん達にとってオレは危機を救った恩人なワケだから、直接口にするのは躊躇われるんだろうけどさ、それでも態度とか表情とかに嫌悪感とか気悲観とかが出るハズだ……多分。


 いや、そもそも人の機微を正確に読み解けるような観察眼なんて持ち合わせてないから、僕の見間違いだっただけかもしれないし、僕への悪感情を棚上げできるほどあの加害者(ゴミ)共には恨み骨髄だったってだけかもしれないけどさ。


 でも、ソレにしたって現代日本に生きる善良な市民の皆々様が、思う様に極大の暴力を振るいまくる恐竜頭への恐怖を後回しにできちゃうってのはどうなのさ?


 そんでもって伯父さんだよ、伯父さん。

 ()()()()だって、()()のチカラ悪用してるって、何もかも知っていて――知っているハズなのに、責めないって、助けさせてくれって……

 明白な悪人を助けるコトのドコに正しさがあるってんだ?


 ………………はぁ、止めだ止めだ。

 今は書き取り(お勉強)の時間だ。

 サッサと教科書ノートを開いて取り掛かろう。


 そもそも、正しいとか間違いとか、そんなもの所詮は僕の主観内での問題でしかないんだから、やるべきコトをやるべき時に果たせばいいんだ。アホらしい。


 ……その『やるべきコト』の定義だって結局は主観でしかないよね、ってツッコミ入れ出すと、ただでさえグチャグチャな脳みそが延々とループするからもう無視ね。


 それに、今日一日全然集中できてなかった所為で授業中に取ったノートも結構雑だから、もっかいまとめ直さないとだし……

 まあ、直近の最大の問題であるトコロの伯父さんのお誘いをどう断るのかは数時間後の僕が何とかしてくれると信じて――


「――あ?」


 グジグジと思考の世界に沈んでた意識を浮上させると、もう既に教師は消えていて生徒の数も疎ら。

 なのに、何故か僕の席を取り囲むように制服を着崩した男子達が。

 なんか用?


「なに?」


 端的に用件を聞くと、正面に立ってた誰かが手を振り上げた。


 でもって、そのまま振り落としてきたから、いつの間にやら机に広げてあった筆記用具やらノートやら教科書やらを避難させようと空間魔法を発動――させようと思ったけど、あまりにもノロいので手早く鞄を開けて一つ一つ丁寧に仕舞い込む。


 そうして、机の上がキレイに片付いた上に鞄をまた机に掛け直すトコまで済ませて、漸く掌が机の上に着弾。

 バンッと派手な音を立てた正面の男子は、座ったままの僕を見下ろしながらヘラヘラとなんだか最近見慣れちゃったような笑みを浮かべて、


「黒宮、お前のオヤジとババア死んだんだってな」


 ……そう、宣いやがった。


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