129話
……なんて、できるワケも無く。
『ハァ………………』
本日は普段の六分の一の体重にそぐわぬ重い気分と、吸える空気が無いどころか口を開いただけで肺から空気が抜けてくような劣悪環境からお送り致しま~す……
なんでコレで死ねねえんだよこの魔物が。
え?
『ま~たお月様からかよ。今度は何しに来たん?』?
そりゃアレだよ、アレ……
一人になりたい、的な?
少し落ち着いて考え事がしたいと言いますか……
まあ、つまりアレだよアレ……
気持ち悪くて逃げて来たんだよ。
だってそうでしょ。
魔界から帰ってからコッチ、ずっと、ず~っと、ずず~~っと、魔物由来の不思議パワーで好き勝手に暴れてたってだけなんだよ?
それなのに、伯父さんも女子さんもソレを肯定するようなコト言いやがってからに……
そりゃあさ、暴れるって言ったって無差別に襲って、手当たり次第にロコしまくったとかじゃねーってのもあるだろうけどさ……
いや、白状しようか。
そうです、ボコっても気が咎めず後腐れも無いような相手だけを選んで暴れてました。
全ては客観的好感度稼ぎの一環です。
ホント、ありがとうございました~……
まあ、魔物似のゴミ共が気に食わねえってのも嘘じゃないけどね。
あ~あ、ホントなにやってんだかね……
父さんと母さんと兄さんが、本当になんの誇張も比喩も無く命懸けで守ってくれたってのに魔物なんかに成り下がって。
ソレだけじゃあ飽き足らず、その力に頼って縋っておんぶに抱っこで、危なくなればすぐ魔法、問題に直面すればハイ魔法、とにかくなにかあれば魔法頼り。
その結果がまさに『力こそが正義』『この世は弱肉強食』な魔物そのものな振る舞いでさ……
そりゃあさ、『危ないッ』って時に瞬間でパッと問題解決に取り掛かれるだけの胆も無ければオツムも無い無力無才の出涸らしニンゲン如きが、人のまま身一つでどうやって魔界を生き残るのかなんて皆目見当もつかないよ。
つかないけどさ、だからって魔物なんかに成り下がって暴力振り撒いて良いのかって言えば否でしょ。
そりゃあ、問答無用で襲い掛かってくるバケモノ共に『話し合い』コマンドなんか通じないけどさ、これじゃあ命を張った父さんや母さんや兄さんが浮かばれない。
父さんと母さんと兄さんは自分達の家族を守ったのであって、ソレを元にしたバケモノを生み出したかったワケじゃあ断じてないんだから。
は?
『なら止めれば良いじゃん』?
『顔向けできねえってんなら、今からでも顔向けできる生き方知ろよ』?
……いや、それもダメだ。
僕がどれだけ自分自身の呵責に苦しめられようが、オレは遣り遂げなきゃいけない――父さんと母さんと兄さんの復活を。
そうじゃなきゃ、本当に父さんと母さんと兄さんの死が無駄になる。
本当に『自分たちの命を対価に、一つの世界を統べる王をブチ殺せるバケモノを生み出した』ってだけで終わる。そんな怪物を世に放った大罪人認定されかねない。
あの世の為人の為に生きて最期は身を挺して家族を守った、善人の中の善人足る父さんと母さんと兄さんが、だ。
そんなのは駄目だ、そんな展開あっちゃいけない、絶対に受け入れられない。
あの父さんと母さんと兄さんが不当に貶められるようなコトなんてあっちゃいけない。
そんなコト、可能性の段階でも存在しちゃいけない。
だから遣り遂げる。
どれほどの犠牲を強いようが、どれだけの罵声を浴びせられようが、どれだけの自責に苛まれようが、だ。
だって、そうじゃなきゃ、オレは一体なんの為に――
『――なんの為に勝って、狩って、勝ち続けて、狩り続けて、生き延びたのか、分からねえ』
……いや、自分の存在意義なんかどうでも良い。
そんなコトより、父さんと母さんと兄さんのコトだよ、重要なのは。
そうだ、そうだよ。
こんなトコで、グダグダウジウジしてる場合じゃねえ。
大体、高々見ず知らずの誰かの妄言なんかに過ぎねえってのに、引っ張られ過ぎにもほどがある。
まあ、それだけ伯父さんから受けたショックが大き過ぎたってのもあるんだろうけど。
なんにせよ、答えは出てる。
途中で止めるなんて選択肢が無い以上は、父さんと母さんと兄さんを呼び戻せるその日まで進み続けて、暴れ続けて、壊し続けるしかない。
後悔だの煩悶だのは全部終わってからでいい。
………………そう、終わってからで、いい、のに、ね……
『……チッ、なんで頭にこびり付いて離れねえってんだよクソッ』
分かっているコトで、答えも出てるコトなのに、どうにもこうにも気が進まない。
別に、自分が間違ったコトをしてるってコトについて、今更言及する気は無い。
父さんと母さんと兄さんに助けて貰ったこの身で悪事に手を染めるだなんて、万どころか億回死んだって償い切れるもんじゃない。
分かってるとも。
でも、何故悪事が肯定されちゃってるってのが理解できん。
ワケが分からん。
なんで、伯父さんも女子さんも揃いも揃って、責めようとしないのやら……
でもって分からないのは、もう一つ。なんでオレはこんなにも――
『…………救われた気になってやがんのやら』
オレにとっての救いは、父さんと母さんと兄さんの復活が成されるその時だけだろうに……
ハッ、どちらにせよ下らねえが。
結局、教室に戻った頃には予鈴の数分前で、今朝は書き取りの続きには取り掛かれずじまいでした~っと。
はぁ~あ……