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他称『魔王』の穏やかな日常  作者: 黒宮辰巳
123/186

123話

 そう、怖かったんだ。幾ら表情やしぐさに出てないとは言え、伯父さん()僕を――オレを恐れてると分かってるから。


 だから、今までやってきた凶行を自分の口で語って見せて、ソレで伯父さんが遂には隠しきれなくなると思ったんだ。あの時の若かりし日の父さんや母さんのように、オレを――僕をあんな目で見るんじゃないかって、ソレがたまらなく怖かった。


 ……ホントは何もかもを糺して欲しいクセにね。二律背反も良いトコだ。


 まあ、伯父さんはそんな女々しい内心なんて知らないだろうけど――


「辰巳、別に()()()の件でお前を責めるつもりは無いし、叱るつもりも無い。だから、そんな辛そうな顔で俯かなくて良い」


 ――――――――。


 『責められると思ってた』『人外(バケモノ)になり果てた僕の内心なんて分からないと思ってた』、そんな思い込みを真っ向から否定されて、思わず鼻白んだ。


「――――は、はあ? なに言ってんだよ伯父さんッ? オレがッ、オレの所為で何人も何十人も病院送りになって――」


「一〇三人だ」


 それでも、往生際悪く足掻こうとするとぴしゃりとした調子で遮られちゃって、またも面食らっちゃって、


「……へ?」


 その間隙を突かれたコトと聞き覚えの無い数字だったコトが重なって、疑問は言葉じゃなくて吐息みたいな単音で吐き出された。


「今日、此処へ来るまでに確認できた辰巳の手に掛ったと思しき者達の総数だ。最も、この数はあくまでも特理が確認できた範囲内の数だから、本当はもっと多いのかもしれないけどな。そして、それだけの人数が社会復帰不可能な状態となれば、確かに当事者達にとっては元より社会への影響を鑑みても大問題ではある」


 そう言いながらも、伯父さんの表情からは本当に僕を糾弾しようって意思は感じられない。

 加害者へ被害者数の告知をするなんて、それこそ間違いを糺す喋りの導入としてはテンプレ染みてるようにすら思えるのに……


「だがな、そうなった当事者達はその全員が犯罪歴や補導歴のある者、或いは暴力団組員や組員との関係を疑われている者だけだった事も分かっている。辰巳がああしなかったら、これからも悪事を重ね続けてたであろう事もな」


 やっぱり、伯父さん達特理は僕がやってきたコトを調べ尽してきてるらしいね。

 僕が碌に調査もせずにその場の勢いと偏見で手に掛けまくってきた連中の素性を一人一人確認するとか、結構な罰ゲーム的作業だったろーに……

 ゴメンナサイ。


 でも、ココでそこに言及してくるって……

 まるで、『悪人相手なら何をやっても良い』とでも言わんばかりの――


「辰巳も知っての通り、伯父さんは国家公安委員会直轄特殊案件処理局――特理の局員だからな。警察や検察みたいに法律や規則、規範なんかを折り目正しく守ってばかりでは対応できない問題の解決が仕事だ。だから、『人の命は何よりも重い』とは思えても『誰の命でも平等に価値がある』だなんて口が裂けても言えん」


 ……『まるで』なんかじゃなかった。

 まるっきり、『悪人相手に順法精神なんていらん』ってハナシだった。


 そんな、倫理や規範的にはセンシティブな発言をしつつも、伯父さんの言葉は止まらない。


「辰巳は言ったな。お父さんとお母さんと景虎を生き返らせる為に魔力を集めるんだ、と。そして、妖魔は人の精神や魂と言った目に見えないものを糧に魔力を得ているのだから、辰巳が何を思って連中を襲っているのかは想像に難くない」


 ああ、そっか。

 確かに、僕の目的は話したけど、その方法については言及してなかったか。


 そもそも、その時は目的をどうやって叶えるつもりかなんて、自分でもよく分かって無かったし――って、別にあのゴミ共を喰ったりなんかしてないからね?

 あくまでも、自前の感情を齧ってるだけだし。まあ、説明メンドイし、結果的には似たようなモンだからソレで良いけど。


「だから、辰巳の行いを止める気も無い。あまり大きな声では言えんが……伯父さんもな、悪人連中が寝た切りになって今後一切の悪事が働けなくなった上で、お父さんとお母さんと景虎が蘇るのなら万々歳だ。まあ、隠匿部の連中には悪いとは思うが……」


 最後にボソリと付け足したセリフだけど、ハナシの流れ的に多分、特理が掲げてる『魔法と()()はヒ・ミ・ツ☆』を実際に遂行してる人達のコトだと思う。

 情報の隠蔽、つまりは揉み消し作業とかする人達的な?


「それに、実際的にも辰巳の行いを糺すのは不可能だしな。妖魔や魔術の存在が公表できない以上、証言どころか触れた痕跡すらも取れない被害者が今後どれだけ増えても辰巳を立件するには至れないからな」


 と、半分――いや、三分の一くらいは冗談っぽい口調で零すと、伯父さんは僕の両肩に両手を乗せながら僕の顔を真っ直ぐ見詰めて、


「もう一度言うぞ、辰巳。伯父さんはお前を責めるつもりも叱るつもりも無い。そりゃあ確かに、その行いの本質は犯罪と同義ではあるんだがな……それを理解して罪悪感も抱えていて、それでも大切な人達の為にと選択したお前を、これ以上追い詰めるような事はしたくない。だから、一緒に来てくれ辰巳。辛い思いをしたお前を助けさせてくれ」


 そう力強く、けれども温かに締め括った。


 その言葉に、その眼差しに、居た堪れなくなった僕は顔を逸らした。


 だけど、そんな拒絶に近い態度にも、伯父さんは辛抱強く待ってくれて……

 僕は何か言わなきゃと思考が空転するだけで、何も言えなくなっちゃったんだよ。


 だってさ、僕は自分自身がこの場でこうして息をしているコトそのものからして、『間違いだ』と思ってるんだから。


 当たり前だよね。

 あの過去の世界で、父さんと母さんの怯えた瞳を見て思い知ったんだから。

 父さんと母さんと兄さんが何の誇張も無く文字通りに命懸けで助けてくれた『黒宮辰巳』を、あろうことか仇である()()へと成り下がらせちゃってるんだから。

 しかも、魔界最強の()()でさえも殺せるほどの暴力を持った最低最悪の()()へと、だ。


 父さんと母さんと兄さんが助けようとした人間を穢し、貶めて、間接的に父さんと母さんと兄さんを否定するような結果を生み出しておいて、そんな()()が助けて貰って良いワケが無い。

 ただでさえ溜まり切ってるこの負債を、無責任に放り出して良いワケが無い。


 未だ恥知らずにも息をし続けるなら、この力で父さんと母さんと兄さんを呼び戻し、その父さんと母さんと兄さんの尊い行いを穢したオレを人間界から――世界中に残る痕跡や記憶からも完全に消し去って、()()()()らしく塵に還るべきだ。


 だから、伯父さんの手は取れない。

 救われちゃいけない。

 居場所なんか在っちゃいけない。


 だから――


「…………助けは、要らないよ」


 掠れた喉を何とか動かして、俯いたままただ一言、そう返した。

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