117話
さて、この辺りで過去改変について少しおさらいしておこうか。
まず、僕は――いや、オレは人間界に帰ってくる時に立ち寄ったあのキューブタワー――おそらくは人間界の過去、現在、未来、あらゆる時間に通じてる不思議空間――を経由して、直接自分の生まれる前の過去に戻るコトで父さんと母さんと兄さんを亡くしてしまう未来を変えようとした。
結果は失敗。
あの山道に発生した魔界へと通じる門へと引き込まれた所為で起きた交通事故で、亡くなった父さんと母さんは遺体となって警察署に連れられてたし、魔界で僕を庇った所為で魔王に喰われてしまった兄さんも帰らぬまま。
ホント魔王は碌なコトしねえなクソが……
まあ、今は置いとこう。
重要なのは、その『失敗』って結果とソコに至った理由だね。
とは言え、その理由も判然としないし、ソレを推理や考察で正確に導き出すのも難しい。
なにせ過去改変なんて、タイムマシーンの無い現代文明では完全にフィクションや妄想の類でしかないんだから、本当にゼロからのスタートだ。
そりゃあ、右も左も分からないってのが当然だよ。
ただ、現在の状況がどうなってるかは確認できるし、その事実からある程度の推論を出すことはできる。
なので、行ってきましたよ事故現場――あのカーブ満載の県境にある山道へ。
今までは魔力集めに専念しててすっかり後回しにしちゃってたけど、さっき月から帰って来た時にチョロッと空飛んで様子見に行ったんですよ。
そしたらまあ、在ったね高架道路。
しかも、その一部には如何にも『車が突き破りました~』ってカンジのブルーシート掛けガードやら、その下の魔界に繋がった門があったと思しき地点――恐らくは父さんと母さんと兄さんと僕が乗ってた車が落ちたっぽい場所に交通規制やらまで……ケッ、チクショウが。
ゴホン……とまあ、ココで分かったのは『改変前と同じ場所に魔界への門が発生した』ってコトと、『改変前と同じく事故が起き、その事故で父さんと母さんは亡くなった』ってコト、そしてもう一つ『僕と兄さんは魔界へと堕ちるハメになったコトも変わってない』って計三つ。
ソコから考えられるのは、『過去に起きた出来事は、状況に多少の差異ができても結果自体は変わらない』ってのが一つ。
コレは『あの交通事故が起きたコト』と『それによって車が魔界への門付近に落ちたコト』、そして『父さんも母さんも兄さんも亡くなってるコト』の三つに何一つ変化が無いトコから導き出した推論だ。
コレを見るとなんだか過去改変なんてやっぱりできないんじゃないかって気になってくるけど、『状況に多少の差異ができても~』のトコを裏返せば『過去への干渉でまったく変化が起きないワケじゃない』ってコトの証拠でもあるように思える。
ま、楽観論だけど。
で、もう一つは『僕は改変後の世界で起こった出来事を知らない』――いや、『経験できない』ってコト。
コレはこのキューブでの過去改変後の事故経緯、もっと言えばその事故だけでなくこれまで県外へのお出かけで元の山道の代わりに幾度となく使ったであろう高架道路について、僕には一切の記憶が無いってトコからの推察だね。
まあ、コレについても納得ではあるんだよね。
そうだな……あのキューブタワーの横一列――つまり同じ時間上の世界の一つ一つがそれぞれに『もしも』を内包した所謂パラレルワールドだったと仮定しよう。
そしたら、僕がやった過去改変は言わば『現在から未来にしか進め無いハズのキューブ内で、別の時間軸へと移動した』って状況になるワケだ。
要は、オレがやったのは『過去改変じゃなくifパラレルワールドへの転移だった』んじゃないかってハナシだね。
とすると、改変前――もしかしたら『転移前』だけど――の世界の記憶しか持ってないって状況にも一応の納得ができる。
ただまあ、コレが正解かどうかは確かめようが無い。
あのキューブタワーでの検証結果的に『自分自身が既に存在している過去への侵入はできない』みたいだからね。
ソレに、重要なのは『父さんと母さんと兄さんが亡くなっている』って現状を変えるコトであって、あのキューブタワーの仕組みを解明するコトじゃない。
そりゃあ、調べれば多少は役立つかもしれないけど、ソレが父さんと母さんと兄さんを呼び戻す決定打になるとは限らないんだから、『世界を出る』って言う結構な魔力消費を繰り返すワケにもいかないし。
だからまあ、この二つの推論で重要なのは『過去改変によって結果は変わらないが、まったく変化が無いワケでは無い』ってコトと、『改変前と改変後の差異を認識できる』ってトコだね。
この条件下なら、オレがするべきコトは単純明快。
そう、『望む結果を引き出せるまでトライ&エラー』だね☆
幸い、改変後に記憶が書き変わるなんてコトは無いから、改変をすればするほど何が変わったのかが観測し易くなるし、その観測結果から次に選ぶべき改変方針も定め易い……
ただ一点、死ぬほど頭が悪い方法って点に目を瞑らなきゃだけども。
ってなワケでまあ、さっそく照準――といきたいトコロだけれども、まだもう少しだけ情報収集しとこうか。
確認すべきはこのゴミ共の身元かな。
学生証とか保険証とか免許証とか持ってればソレで確認できるし、この人数なら誰も持って無いなんてコトもあるめえ。
そんな腹積もりで魔力ソナーを照射し、各々のポケットに仕舞われた財布とかその辺に置かれたバッグとかに入ってる板状の物体を捕捉してから転移発動――勿論、お姉さん達のだと思しき財布や荷物は除外してね。
で、手元に集めた各種身分証明書を確認し、改変後の変化にも気付けるようしっかりと記憶する。
そうして、このゴミ共の情報をある程度得てから改めての――照準。
まあ、一発目は安直にこのゴミ共が生まれたって事実を標的に設定。
単純に『加害者が居なくなれば被害者も出ないよね』って理論だね。
お姉さん達が見てるから無駄に怖がらせないように素振りは無しで、魔力だけを出力として設定。
んじゃ、いっくよー――ハイ、ズドン。
果たして結果や如何に?