116話
「どっこいショット……ん~、ちょっと高いか? まあ良いケド……さて、そうだな。折角、被害者と加害者がセットになってるシチュエーションに遭遇できたワケだし、この座り心地最低なゴミ共とお姉さん達にはちょっとした実験に付き合ってもらうからそのつもりで」
などと一方的に伝えると、またまたお姉さん達は『ビククーンッ』と良い反応。
いやまあ、ゴミ共には勿論のコト、お姉さん達にも拒否権を与えるつもりは無いし、そもそも九割九分九厘はお姉さん達に害が及ばないハズなんだけど、『実験材料=物扱い』って言う失礼千万な図式が不穏だった感は否めない。
なので、すぐに――
「ああ、いや、別に被害者のお姉さん達にこれ以上の不利益を被らせるつもりはないから安心しな。ただ実験結果が分かり易くなるようこの場に留まってて欲しいってだけだから、無駄な労力を頂く気も無いし、コイツらと違って万一にも痛い思いするハズも無いから安心してくれ」
噓偽りの無い訂正の文言を投げ付けてお姉さん達の誤解を解く……
いや、見たトコメッチャ警戒されたままだけれども。
「んじゃまあ、早速実験に入ろうかと思うんだけど、実験って一体全体何ぞやって聞きたげなお姉さん達の為に、まずは軽く説明タイムといこうか。今回挑むのはズバリ『過去改変』で~す。変える過去は勿論お姉さん達が遭った『被害』についてだね。方針としては『んなコト無かった』ってするつもりだけど、ココまではお~け~?」
うん、全然お~け~じゃなさそうだ。
お姉さん達皆して怯え交じりに『キョトン』ってしてるからまったくサッパリこれっぽっちも分かってくれてなさそうだ。
う~ん、仕方無い。
ココは一つ実演して見せた方が良いか。
「分かった、じゃあチョットばかり実演して見せるから、ソコでジッとしてろよ」
そう前置きして立ち上がると、まずは今まで座ってたゴミ山がお姉さん達に見え易いよう脇にズレてあげます。
「まずは適当に削りま~す。あらよっと」
次にワザとらしい掛け声と共に、今なお生成され続けて垂れ流されてた魔力を完全に絞って魔力強化を断った上での踵落としを一発。
って言っても変身体のままだから、当然の如く腕とか脚とか頭とかを纏めてミンチにした挙句、寸止めした鉄コンの床にもヒビ入っちゃったけど。
「んでもって、照準。狙いは手足やら頭やらが欠けてるって『事実』に対して、使うのはまあ魔力だけってコトで――発動」
いつもは脳内で呟いてるだけの照準や干渉力を指先確認するみたくお口に出してから、指パッチンと同時に干渉魔法を発動。
こーした分かり易いアクションがあった方が、第三者視点で目の前の超常現象を『僕がやった』と認識してくれ易くなるだろうからね。
でもって――うんうん、お姉さん達の反応を見る限りその目論見は成功してそうだ。
一瞬で灯った黒炎の中から欠けた手足がまるで何事も無かったように再生したのを改めて目撃し、ソコに説明らしき言葉と動作が挟まれたコトで、さっきっから繰り返し行われたオアソビをポカンと見てた時とは違って理知的な視線が送られてきてる。
コレならまあ、説明責任的なアレも多少は果たしたと言えるのではなかろーか。
「はい、今のはこのゴミ共が『欠けてる』って状態を『欠けてない』って状態に書き換えたってカンジだね。さっきやってたのも同じような理屈だな。よーするに、オレちゃんは物理的なアレソレにだけじゃなく、概念的なイロイロを書き換えられるってワケだ。伊達にこんな格好してるわけじゃねえのです、エッヘン」
ワザとらしく胸を張りながら言うと、お姉さん達は何とも微妙な表情に……
うん、滑った。
いや、もしかしたらオレの魔法が荒唐無稽過ぎて信じて貰えてないってだけかも……
コホン、次行ってみよーか。
「で、だ。そんなトンデモパワーをお持ちなオレちゃんも、未だ過去の改変には成功してないっぽいんだよね――いや、望んだ形に変えれてないってのが妥当かな? オレも改変前の状態を正確に全把握できてたとは言い難いし……まあ、とにかく満足のいく結果を得られてないってコトだけ分かって貰えればいいや。ソコで、お姉さん達みたく変えたい過去をお持ちな人達に協力して貰って練習しようって思ったワケ。だからさ、一つだけ確認したいんだけど、お姉さん達っていつからコイツらに弄ばれてたの?」
瞬間、ビクリと一際激しい反応があった。
まあ、コッチとしては気付いて当然だけどね。
お姉さん達にソコのゴミ山共の体臭がこびり付いてるワケだし。
で、その反応は四人共からで、ソコに強弱はあれど具体的な症状も同じ。
脈拍や呼吸の乱れにギューッと瞼を閉じて目尻から涙を零しつつ何かを我慢するみたいな仕草とか、互いを庇い合うみたく抱き合って縮こまらせてた身体を更にきつく抱き締め合ったりとか……
うん、どーみても地雷です。
本当にありがとうございました。
クソ、最低だ。
「……あ~、悪いができれば正確な日時を教えて貰えると助かる。標的の設定がアバウトだと、改変後の結果もテキトーになりかねないからな。一応、過去改変が成功すればお姉さん達の被害も最初からなかったコトになって今日この場に居るコトも無くなるだろうから、ココは一つ理性的に『ココで我慢すれば全てが丸く収まる』って割り切って――いや、無理ならまあソレはソレでいいんだが……」
なんて、もごもごと説得を試みようとしてると、
「……、です……」
四人の中でも一番年下っぽそうな、ともすればオレと同い年くらいにも見える――いや、四人ともお揃いの制服だからコーコーセーなのは確実だろーけど――気弱そうなお姉さんからお声が。
「……三月の、二五日……修了式の日に、よ、呼び、出されて……っ」
周りの三人に守られるようでいながら誰よりも先に口を開いてくれたお姉さんは、切れ切れに嗚咽を漏らしながら告げると、そこから更に『私が悪いんです』と続けた。
その後の、耐えきれなくなったかのように次々と紡がれた言葉と他三人の分の言葉も総計して端的に言うと、最初に襲われた気弱そうなお姉さんを脅迫材料に他三人のお姉さん達も誘き出されて~って流れらしい……
ホント、クズだなゴミ共が。
まさか、あの女子さんに話したifを実践してるとか……
ま、ぶっちゃけ過去改変に必要なのは変更する過去の事象の始点――今回で言えば最初に被害に遭った時の日時が分かれば良かったから、ソコから今までに辿った過程なんか話す必要無かったんだけどね。
お姉さん達的的には話し損だね。
ただまあ、オレとしては魔力が更にグツグツとしてくる素敵なオハナシだったから感謝ではあるけども。
そんな想いを込めた『感謝の正拳突き』ならぬ『感謝の鉤爪』に『感謝の踵落とし』に『感謝の翼撃』にetc――お姉さん達にこれ以上ドン引かれないように、and音速挙動で発生する衝撃波を吸収、無力化する為に黒炎で暗幕を張りつつ――で頭を冷やし、
「……言い辛いコトを聞かせてくれてどうもありがとう。おかげで、目一杯実験に取り組めそうだよ」
素直にお礼を言ってから、改めてゴミ山へと向き直った。