115話
「――ってワケでさぁ~あ? ドコで授業受ければ良いのか迷ってんだよね~。そりゃあさあ、地球ん中で人が寄り付かない場所ならドコでも良いんだけど、だからって火山の火口だとか深海の底なんかじゃあ、オレちゃんはピンピンしてても筆記用具はグシャグシャになるし、そもそも青空教室なんて天気は勿論、風の一吹きにすら邪魔されるのは明白だろ? だからまあ、できれば屋内が良いんだけど、そもそも建物なんて百パー人が触れてんだから誰かしらの邪魔が入るのは予想できるだろ? 例えば、そう、テメエらみてえなのがさぁ~あ」
そう長々と語り掛けながら、足元に転がってる連中の一人を蹴り転が――そうとしたら、力が入り過ぎてそのまま壁に叩き付けちゃったゼ――って壁突き破りやがった!?
どんだけ薄いのココの壁!?
いやまあ、昨日の廃工場に比べたら単なる板切れみたいな壁の強度なんてタカが知れてるか。実際に厚さ1センチも無い木材だし。
まあ、鉄コンの外壁にでもぶつけとけばまだマシだったのかね?
まあいいや。
取り敢えずオレが今居るのは、街中のとあるビルディング――なんて言っても階数は五、六階程度しかない小ぢんまりしたトコだけど――で、時刻は夜の七時過ぎ。
当然お外も真っ暗だね。
んでもってまあ、部屋の中は昨日と同じく死屍累々――いや、別に誰一人として死んじゃいないけども――な状況なんだけど、違うのはオレちゃんが来る前からずっと泣きじゃくってる耳障りなお姉さん達が居るってコトか。
いやね、昨日の反省を活かして屋外だけじゃなく屋内にも目を向けようって思って、さっそく駅前の繁華街で魔力ソナーをぶっぱしたワケですよ。
え?
『それじゃあ昨日となんも変わって無いじゃん』?
いやいや、まあ確かに字面上は変わってないのだけれども、今回やったのは昨日のとは一味違いますのよ奥様。
って言っても、まあ範囲絞って照射時間を長めにしたってだけなんだけどね~。
ホラ、前にさ『魔粒子の無い人間界だと魔力が滞留せずにすぐ消える』って話したじゃん?
だから、ソナー用に放った魔力も放った端からすぐに消えちゃって、その消えるまでのごく短時間しか探知できないってワケですよ。
この辺はまさに『ソナー』だよね。
360度全方位を探知できる代わりに探知時間は一瞬だけで、だから連続でピコンピコン照射し続けてるっていう。
で、魔力の特性についてもう一つ『魔力波は無機物を透過するけど、有機物は通り抜けられない』って設定あったじゃん?
アレの所為で建物内の精査が甘くなっちゃうのよ。
外壁の有機塗料とかに阻まれちゃうから。
つまりは、『屋内でゴミ|の有無を確かめる為に、建物一つ一つに絞って魔力ソナーをゆっくりじっくりたっぷり照射』ってのが今日のプランなワケですが、はてさてなんともまあ結果はこの通り――
「ホントもう困っちゃうよな~、オレちゃんってば、ただ静かにオベンキョーしたいってだけなのに、邪魔ばっか入ってきちゃってさぁ~あ。テメエらもそう思うだろ?」
「「「……………………(死~ん)」」」
――大漁なんだぜ。
月から帰ってからグリップドロドロのシャーペン、ボールペンを全部捨てて、近くのコンビニで新しく買い揃えてから荷物全部お家に転移。
その後の数時間をこうして狩りの時間にあててたワケだけど、いやはや出るわ出るわの居るわ居るわなワケ。
あの研究所のベッドからソナー使った時に探知した薬品類と同じような反応を返してくる粉とか茶葉っぽいのとか錠剤とかがぎっしりな建物の一室で屯するゴミ共、明らかに刃物が収まってると思しき筒状のソナー反応が飾ってある部屋で円柱形に固められた火薬の反応が縦に連なってるナニかを懐とか机の引き出しとかに隠してあったりな事務所とか……
まったくゴキ〇リかなんかかよ。
でもって、今オレちゃんが居るのはその内の前者寄りな場所で、ぶちのめしの基準はなにが楽しいのかお姉さん達を囲ってゲラゲラ嗤ってる連中――ってトコか。
飛び込んどいてナンだけど、どーゆー状況なんだろーね?
ちなみに、月での予想に反して特理共からの追手は無し。
多分、オレがずっと街中に居る所為で『魔法や魔物はヒ・ミ・ツ』ってポリシー掲げてる連中さんは手出しし難いんだと思う。
まあ、狩りを始めてからずっと変身しっぱなしだから、下手にオレちゃん刺激して暴れさせた挙句ドラゴニュートが街中で大暴れ――なんて事態が怖いんだろうね。
「ハァ……まったく、多少身体が欠けたり割れたり戻したりした程度でお喋りもできなくなっちゃうとは根性の無い連中だな。もっと気合い入れて生きろよな~。なあ、お姉さん達もそう思わない?」
オレちゃんが不快なオモチャで遊んでる最中、部屋の隅に固まって互いに抱き合って息を殺しながらガクブルしちゃってた――いや、今も現在進行形でガクブルなお姉さん達に水を向けると、お姉さん達は『ビククーンッ』と良い反応。
別になんもせんてば。
とは言え、足元からの反応が無くなったからと声を掛けてきたオレを無視したら自分達も転がってる連中と同じ目に遭うとでも思ったのか、数瞬ほど間を置いてお口を開いたのは四人の中で一番年上っぽい長髪のお姉さんだった。
「……は、はい、お、思い、ますっ……」
恐らくはコーコーセーくらいの年上さんに泣き声交じりの敬語で返され、『なんだかな~』って気分になりながらも、まあそれを飲み下してお姉さん達の元へと足を向け――ようとして立ち止まる。
何故って?
そりゃオマエ、お姉さん達がまたもや『ビククーンッ、ガクブル』ってカンジで、『こっち来ないで!!』を全身で表現してたからさ。
いや~、まさかサイコスリラー映画でありがちな『殺人鬼に怯える哀れな被害者(退場まであと十秒)』を現実にお目に掛れるなんて……
ホント最低の気分だよクソが。
って言っても、まさかその絶賛ビビり中なお姉さん達に当たり散らすワケにもいかないので、雑な転移で床中に転がってるゴミ共を積み上げてソコに着席。
あ、なんかその辺に置き去りの手足が……
照準、発動ッ――ふう、やれやれなんだゼ☆