114話
ってなワケで、放課後でござ~い。
……なんて言っても、まだあの暗記作業やってくから直帰とはならないけどね。
はてさて、今日はなんの教科にしようか。昨日は数学だったし国語かな? 或いは理科か社会か英語か――
『――二年C組黒宮辰巳君、二年C組黒宮辰巳君、至急校長室まで来て下さい。繰り返します――』
……ありゃりゃ、ついに来たか。
本日二度目の呼び出しでせう。
恐らくは、一度目の時にいつまで経っても来ないから、魔力を探知する系の道具やら魔法やらでも使って僕が学校に居ないって分かって他を探しに行ったけど、何時間も捜索して足跡すら見つけられなかったんで取り敢えず痕跡が見つかった場所を総当たりしてるってトコかな?
居ないと分かってるハズの学校にまで連絡寄越したのは万一程度に考えてだろうけど、これでもしオレの所在が分かってなかったら真っ先に直撃してたハズだから、放課後になって探りに来たってトコを見るにこの予想はそう外れてないと思う。
まあ、月に居るなんて分かるワケ無いから仕方無いんだろうけど、にしたってメンドイな。
この調子だと地球に戻るたびに追い回されそうだ。
どうせ、組織なんて『多少の犠牲はやむを得ない~』なんて言うだろうから、あの研究所の連中を何度お仕置きしても無視してそうだし。
かわいそ……いや続けるけど。
ってなワケで、また干渉魔法発動であの研究所の連中に壊して治してをしてやりつつ、今後の方針について考える。
う~ん、基本的に昼間は学校があるから今日みたく月でのリモート授業で良いとは思うんだけど、問題は放課後以降の街での魔力収集の時だよね。
もし、僕の想像通り特理の連中に魔力を探知する何らかの手段があるとしたら、街どころか家に帰ってもすぐ捕捉されちゃうだろうし、かと言ってこのまま月に居座り続けても半宇宙環境下の所為で余計な魔力消費がある上に、邪魔者が居ない代わりに獲物も居ないトコだから自前で魔力生成するしかない。
一応、収支はプラスに傾いてるから、このまま必要な魔力が溜まり切るまでココに籠るってのもアリだけど、折角見つけた稼ぎをフイにするのは勿体無い精神が疼いちゃうので極力避けたい。
そもそも、幾ら遡って呼び戻すつもりとは言え『父さんと母さんと兄さんが居ない』なんて言う極大の間違いをいつまでも放置し続けるなんて我慢ならないしね。
となると、やっぱり地球に戻る方向になるワケだけど、問題は戻る場所をドコにするかだ。
転移で月に来れちゃった以上はまず距離は問題にならないし、こうして地球を俯瞰視できちゃってるから、月に来れた時と同じように『目的地を直接視認する』って目的地設定条件は満たしてるワケで、実質地球上のドコへでも行けるってコトになる。
そーなると、だ。
ワザワザ追手がわんさか出そうな金見市――いや、日本に戻らなくても、もっと別の国にでも行っちゃえば、少なくとも特理相手に煩わされるって状況からは抜け出せるってワケで……
いや~、選択肢が多過ぎるってのも考え物だな~。
ただまあ、ココまで言っといてなんだけど外国行きは無しかな。
理由は二つ。
一つは、昨日の病院の入院患者に使った魔力が勿体無いから。
折角、今日以降の狩りの為にスペース作ったんだから、せめてその整理整頓分の魔力くらいは稼ぎたいってカンジでせう。
で、もう一つは、そもそも『特理に追われてる』って現状そのものが別に忌避しなきゃいけないコトじゃないって点だね。
だって、『煩わされる』ってコトは『魔力生成させられる』ってのとイコールだからね。
そりゃもう大歓迎ですよ。
こーなるとまあ、結局は金見市に戻って魔力生成ってコトになるワケですよ。
勿論、書き取りを済ませてからだけど。
そんなワケで、ココに来てからずっと開いてた門三つを閉じてから、真新しい国語の教科書と書き取り用のノートを開きまして――よーい、ドン!
最初の真っ白いページと目次を飛ばして書き取り開始。
国語は数学みたく問題の解き方を覚える方がテストで点数取り易いけど、ソレはあくまでテスト問題が事前に分からないような場合の話。
学校のテストは教科書を元に教師が作るワケだから、教科書の内容を覚えるコトがそのままテストの点数に繋がり易い。
勿論、『~の心情を述べよ』とか『古文の仮名遣い変換問題』とかみたく、公式染みた解き方のルールを覚えてるコトが大前提ではあるけどね。
まあ、その辺は授業で説明されるし宿題のプリントとかで復習もできるから、そう問題でもないけど。
さてさて、昨日はあの名も無き女子さんと魔物モドキに邪魔されて途中で止められちゃったけど、今日は行けるトコまで行っちゃうぞ~!
なんて、気楽に意気込みながら始めた書き取りを切りの良いトコまで進めたトコロ、ふと上げた視線の先で地球は既に太陽の陰に隠れてて、真っ暗の中に煌々と灯る人口の光が。
当然、日本列島もその陰の中且つ明かりが煌々で、そー言えば月面も大分熱くなってる気が?
『あ~、そー言えば月面って太陽光で一七〇度くらいになるんだったっけ? こんがりキツネ色に揚げられちゃいそうな温度だな……』
なんて、変身体越しな所為で熱いコト自体は認識できてもソレで特に火傷したり身の危険を感じたりなんてしたりもせず、暢気なコトを宣っちゃってるワケだけど、もう一つ気付いたコトが。
ソレは――
『なんか、シャーペン、べた付いてんだけど……』
そう、シャーペンのグリップ部分、なんか普段なら使い続けていく内に溶けるみたいになるゴムっぽい柔らかいトコが、この揚げ物適温の油みたいな気温の所為で溶け始めてるんだよ。
……うん、分かった。
コレはもう、月で勉強すんなってコトだね。
そりゃあ、まあ?
人類が作った道具なんて基本的に地球環境下で使うコトが前提なんだから、当たり前の結果ではあるんだけどね……
取り敢えず、地球戻るか。ハァ……
と、ゆーコトで、オレちゃんの地球外進出は『筆記用具の劣化』って言うしょーも無い理由で、結局はこの日限りになりましたとさ。
あ~あ、明日からどこで授業受けようか……?