108話
――そう、オレが始めたのは魔力稼ぎの魔物モドキ狩りだ。
獲物の見付け方はカンタン。
金見市駅前の繁華街を空から見下ろしたり、魔力ソナーブッパしたり、アホほど利く聴覚で盗み聞きしたり、血の匂いでも探してみたり……
で、そんなことを夜通しやって、そろそろ零時過ぎたな~って駅前の時計塔見下ろしてた頃、ちょーど見付けたのがコイツらだったってワケ。
ブンブンパラリラ~と集団で喧しく騒いでたから後を付けてみると、砂場で磁石でも引き摺ったみたく進むたびにゾロゾロと集まってって、五十人を超えた頃に港隅の廃工場へ引っ込んだんで、全員が入り終えるまで待ってから突撃して――今に至る、と。
「――ったく、騒音撒き散らしてるって時点でアウトだがよお、事故ったり事故らせたりしかねねえ危険運連で公道パレードとかなんなんだ? んな死にてえなら手首切るなり首括るなり睡眠薬ガブ飲みするなり練炭浴するなりしてろよ。死ぬならテメエらだけで死ね、他人巻き込むなゴミが」
手慰みに――いや、足慰みに、足元に転がってる魔物モドキ共を、踏み潰したり首を蹴り飛ばしたりそれを他のにぶつけてビリヤードしたりしながら壇上へと足を戻す。
でもって、テキトーに進んだトコでぴょんと跳躍しながら体勢を入れ替えて壇上に着地&着席。
「ハァ、ったく、ホントなんでテメエらみてえなのが恥知らずにのうのうと呼吸してて、生きるべき人達が冷たくなってんのかね? 因果応報ってのは機能停止中か? なんでこんな特大のバグが放置され続けてんのやら……修正早よってな」
うん、こんなゴミ共がヘラヘラ生きてんのなんて見てるだけで怒髪天モノですよ。
ってなワケで、ブラブラさせた膝下にブッ叩かれて壇上がガインガインと盛大に泣き喚く程度で済んでる内に、その鉄骨檻砕きそうな運動エネルギーをドバドバな魔力で発動させた物理干渉でゴミ共へプレゼント。
いやだって、このままだともうあと数秒後にはケツ下の鉄骨が吹き飛ぶか砕け散るかしそうだったからね、仕方ないネ☆
「あ、もしかして集めると願いが叶う系の不思議アイテムでも持ってたりすんの? それともスコア制? 1000killとかで残機が増えたり、その残機で味方を復活させれたりとか?」
下らない冗談を振ってみるけど反応ナシ。
いや、同じく物理干渉で連中の声塞いでるから聞こえないだけで、なんか騒いではいるんだけどね?
身動き封じてるワケじゃないから、打ちっ放しのコンクリ床の上でビッタンバッタンやってるし。
それが五十を超えれば、そりゃ当然大音量ですよ。
網から上げられた魚群かな?
「……ったく、黙らせても鬱陶しいとか、つくづく存在価値皆無だな。ま、だからゴミなワケだが」
そうそう、ゴミはゴミ箱にってね。
んじゃ、そろそろ処分しようか――ってコトで、照準。
狙いはまあ、学校に出没したあのゴミ第一号にやったのと同じ。
足元に転がる全員の関節と声帯と脳と脊髄神経と眼球に鼓膜。
それら全部を物理干渉で潰すと脳内出血でタヒっちゃうだろうから、今までの連中と同じく言語野の消去だけは主観干渉を使い『言語野が機能しない状態こそが正常』ってゆーふーに連中を改変させるカンジで――
え?
『学校でも不思議だったけど、なんで元は只の中学生だったクセにそんな生かしたまま的確に産廃人間作れるほど人体構造に詳しいの?』って?
いやいや、大した理由じゃないさ。
ただチョット不死身で、魔界で負けが嵩んでた頃、魔物共にゲラゲラ嗤われながらバラバラに食肉加工されて、それはもう楽しそうに切り落とした部位を見せびらかされれば、誰だって人体構造の一つや二つ覚えられるってもんだ。
ん?
あ~、別にソレを恨んじゃいねえし、トラウマにもなってねえから安心しな。
寧ろラッキーだったよ。
あーして自分の身体を痛みや視覚でより詳しく認識させてくれたおかげで、ボディーイメージって言うの? こう――頭から爪先まで全身を完全に意識下に置いて自在に操作するって感覚を体得できたし、ソレを応用して相手の体構造から次の動きを読めるようになったんだから。
この手の観察眼を得る切っ掛けにもなったってワケだ。
それに多分、この経験や学びが無かったら、今みたく角だの爪だの翼だの尻尾だのが生える変身体で思い通りに動くなんてできなかっただろう死ね☆
人間界帰ってきてからはやってないけど、変身ってやろうと思えば骨格からサイズまで変えられるから、四足歩行型とかワイバーン骨格とかになっても巨人化しても自由自在に動けるし……
ま、要するに結果オーライだね♪
んなワケで――発動、ズドン。
「――良し、今度もカンペキ。あとはドコに捨てるかだが……生かしておく以上は最終的に病院行き――だけどな~、この数ってベッド足りるか?」
眼下に転がるゴミ共の数で、今更な問題に気付いた。
そー言えば、今日コイツらの前にも四回ほどゴミ掃除したけど、それと合わせれば今夜だけでも七十人近い入院患者が出てるワケで、このペースがずっと続けば一週間で大体五百人ずつ増えてく計算だから……
うん、フツーにびょーいんパンクするわな。
でもな~、こんな割の良い魔力稼ぎを今日一日だけで止めちゃうのは勿体無さ過ぎるし、あんな存在してるだけでなんの意味も無いどころか他人を脅かしたり不幸にするだけの害悪共が我が物顔で生きてるのに父さんと母さんと兄さんは――なんて思うと、絶対に我慢できないし。
そもそも、この魔力稼ぎは手段の一つでしかなく、目的はあくまで父さんと母さんと兄さんを呼び戻すコトなんだから、それ以外の他人共になんて配慮する必要も無い。
――無い、んだけど……
その戻って来た父さんと母さんと兄さんが生きてく社会に余計な問題を残すのもなあ。
父さんや母さんや兄さんはオレと違ってまともな人間なんだから、当然一生病院の世話にならないワケが無いのに、そのいざって時にベッドが満席で治療受けられませんじゃ困るし、その頃にはオレは消えてるんだから父さんや母さんや兄さんを脅かすクソッタレの病気怪我を消し飛ばしてやるコトもでき、ない、し――――…………あ!
「――アハッ、良~いコト思い付いちゃったゼ♪」
そうだ、簡単なコトだったよ。
足りないなら空ければ良い。
邪魔者が居るんだったらさっさと排除してやればいいってだけだ。
あ~あ、なんでこんな簡単なコトすぐ思い付かねえのかねえ、まったく魔物ってばホントクズなんだから☆
ってなワケで、行先は決まった。
今夜撒き散らしまくった魔力ソナーで場所も分かってる。
となれば後は向かうだけだ。
「んじゃまあ、慈善事業と行きますか! ま、コレやったらもう、金見市のビョーインはシューヨージョって呼ばれるようになるだろうけどな」
ま、今日一日で全部を回るつもりも無いんだけど……
なんて頭の片隅でボヤきながら、転移門を生成する。
生成場所はゴミ共を一纏めに落とせるよう連中の真下に大サイズを一つ。
でもって、完成した歪みの中に落ちていくゴミ共を追って、オレも壇上から飛び降りた。